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「当事者って誰のこと?」~2 / 片岡亮太

「当事者って誰のこと?」~2
片岡亮太

3月初旬、動画配信などの活動をしている車いすユーザーの女性によるSNS上での投稿が物議を呼び、「炎上」していました。

彼女が都内の映画館のプレミアムシート(数段の段差あり)で映画を見ていたところ、上演後に支配人がやってきて、車椅子を担ぎ上げる必要のある席での鑑賞を今後手伝うことはできないから、別の劇場へ行って欲しいと言われたというのが概ねのことのあらまし。

きっとこのblogにアクセスしてくださっている方たちは、この話題、関心を持ってご覧になっていたのではないかと思います。

映画館側からすれば、車椅子ごとか、ご本人だけかを問わず、専門知識を持たないスタッフが段差を持ち上げて移動をサポートすることで、双方にけがが生じるのを避けたいでしょうし、十分な安全を確保できるだけの人員を随時確保することはでき兼ねるという事情もあったのだと思います。

同劇場には車いす席もあるため、そこで見て欲しいという言い分もあったのだとしたら、それは筋が通っているとも感じます。(また、一部ネット記事によれば、同劇場の系列の映画館は、人員に余裕があったり、あまり混雑していない時間帯には、車椅子のお客さんのサポートを積極的に実施しているようです)

ただ、どういう経緯や考えがあったにせよ、「別の劇場へ行って欲しい」という表現は、完全に門を閉ざしてしまう発言。

僕も含め、障害のある者にとって、最も辛くて悲しいことの一つは、「拒絶」されること。

障害と共に生きている期間が長ければ長いほど、その経験の量は増えるので、ある程度の耐性はつきますが、それでも心が痛むことには変わりありません。

ましてや「障害者差別解消法」が存在する現代において、上述の対応は不適切だったと言わざるを得ません。

そういった意味において映画館側に一定以上の非はあるのでしょう。当該映画館の本社が謝罪した経緯はそのあたりにもあるのだと想像します。

一方、「インフルエンサー」と名乗って活動し、メディアへの露出も多い方が、劇場名を公表してまで今回の出来事を投稿する必要があったのかは大いに疑問。

今回の騒動以前にも、数回、同じ席での鑑賞経験があり、その際には会場の方が、彼女を持ち上げて(車いすごとなのか、ご本人だけだったのかは不明)移動をサポートしたようですが、その時のスタッフの人たちは、ウェルカムな雰囲気だったのか?そもそもご自身は危険を感じなかったのだろうか?など、気になる点は多々あります。

ただ、今回の騒動を通じて僕自身初めて知ったのですが、映画館の車いす席のほとんどは、最前列の隅にあり、お世辞にも映画鑑賞に適したポジションとは言えないそう。

特に姿勢の維持に困難のある方が多い車いすユーザーにとっては、角度的に首がつらいのだとか。

また、ドリンクやポップコーンなど、「映画のお供」を置いておける構造にもなっていないため、映画館のだいご味を味わえない状態でもあるそう。

それらの事情もあって、プレミアムシートでの鑑賞を希望した背景もあるのかもしれません。

確かに、僕は、コンサートなどに出かけると、自由席だった場合には、全体の音のバランスが均一に聞こえる、やや後ろ側の真ん中に陣取るので、最前列の隅には、極力座りたくありません。

他の大多数の人と比べた時、映画館やコンサートホールにおいて、車いすユーザーの方には席を選択する自由がない。

そのことは、今後改善していく必要があると、学ばせていただきました。

「そういう不自由があるから障害者割引があるんだ」と感じる人もいるかもしれませんが、歌舞伎の「立見席」のように、見づらいことはわかっていてなお、人気の芝居をどうしても見たい人がその席を購入することと、他の選択肢がなく、自動的にその席に行かねばならないのとでは事情が違います。

それから、全盲の僕の場合には、近くにより良い条件の席があるということに、目が見えていないが故に気づくことはできませんが、その存在を知り、誘導してもらったり、自力で歩いたりすれば、簡単に移動することができます。

でも、車いすを使っておられる方の多くは、少し手を伸ばせば快適に映画鑑賞をできる席があることを認識はできるのに、身体を自力でそこに持っていくことが叶わない。

そのもどかしさや苦痛は相当なものであろうと想像します。

だから、この女性が、「別の劇場へ行って欲しい」と言われた時、ショックのあまり言葉を返せなかったということにも、理解はできるなと思いました。

けれど、世間からの注目を集めやすい彼女の立場を思えば、その気持ちをぐっとこらえて、もう一歩踏み込み、建設的な対話を試み、劇場スタッフ側と意見交換をし、「結果的には、○○という対応をしてもらえたけれど、誰もが当たり前に映画を楽しめるよう、映画館のユニバーサルデザイン、もっと考えて欲しい」という、成功事例と問題提起として、世間にインパクトを与えてほしかったなあというのが正直なところ。

もちろん、その場にいたわけではない僕にはわからないことがたくさんありますが、様々な意味において、「対話不足」が双方にあったことは間違いないのでしょう。

執筆現在、この話題を投稿した当人のSNSのアカウントは非公開になってしまっているので、その後映画館側とどのようなやり取りがなされているのか知ることができませんが、「雨降って地固まる」と言える関係になってほしいと願わずにはいられません。

(追記)

原稿完成後に、ご本人のSNSが更新され、映画館側との対話が叶ったこと、「別の劇場」とは、同じ映画館の中の別のスクリーンと言う意味だったことや、彼女が鑑賞した劇場(スクリーン)には車いす席がなく、そこでしか上映されていない映画を見たかったことなど、当初の投稿では説明されていなかったことの補足も含め、報告がなされていました。

意図せず「炎上」してしまったところもあるのでしょうが、経緯を知れば知るほど、対話で解決できた出来事だったように思えてなりません。

不特定多数の方に発信できる機械や媒体を与えていただいている者の一人として、たくさんのことを考えるきっかけとなる騒動でした。

プロフィール
片岡亮太(和太鼓奏者/パーカッショニスト/社会福祉士)

静岡県三島市出身。 11歳の時に盲学校の授業で和太鼓と出会う。

2007年 上智大学文学部社会福祉学科首席卒業、社会福祉士の資格取得。

同年よりプロ奏者としての活動を開始。

2011年 ダスキン愛の輪基金「障害者リーダー育成海外研修派遣事業」第30期研修生として1年間単身ニューヨークで暮らし、ライブパフォーマンスや、コロンビア大学内の教育学専攻大学院ティーチャーズ・カレッジにて、障害学を学ぶなど研鑽を積む。

現在、国内外での演奏、講演、指導等、活動を展開。

第14回チャレンジ賞(社会福祉法人視覚障害者支援総合センター主催)、
第13回塙保己一(はなわ ほきいち)賞奨励賞(埼玉県主催)等受賞。

Blog: http://ameblo.jp/funky-ryota-groove/
youtube: https://www.youtube.com/user/Ajarria

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