障害福祉サービス?重度訪問介護?
比較で考える「重度訪問介護」サービスとは?
はじめに
前回、障害福祉サービスの種類と、それぞれのサービス内容について、書かせていただきました。数えるのが、やっとなほど、障害福祉サービスの種類は多いですよね。覚えようとしたら、とてつもなく大変なような気がいたします(笑)。
一般的に、「ハコモノ」と呼ばれるような「施設」などで支援サービスが行われるものから、社会参加もしくは働くことができるように支援するサービス等、様々な種類のサービスが存在します。
その中でも、「障害者の自宅での支援を中心とするような支援サービス」として、「居宅介護(身体介助や家事援助等)」と、「重度訪問介護」の二つの支援サービスが、両巨頭のように、存在しています。
居宅介護と比較しながら、重度訪問介護による支援サービスについて、これから説明して行きたいと思います。
なお、このサイトを初めて閲覧する方、中でも特に高齢者介護に経験のある方につき、理解しやすさのアドバイスとして、今回の障害福祉サービスでの「居宅介護」は、高齢者向けの介護保険で言う「(要介護1以上の)訪問介護」と、制度の詳細や用語法の違いあれど概略的に似ているので、その点をイメージしながら読むと、理解しやすいことを付言しておきます。
(Ⅰ)前回のおさらい
まず最初に、おさらいをします。前回の「障害福祉サービスの基礎知識 第1回」で、「居宅介護」と「重度訪問介護」については、次のように、書きました。
(1)居宅介護
障害児・者に、自宅において、入浴や排せつなどの身体介護、調理や洗濯などの家事援助、病院等へ行くための通院等介助といった支援を提供します。
(2)重度訪問介護
重度の障害で常に介護を必要とする障害児・者に、比較的長時間にわたり、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り等の支援とともに、食事や排せつ等の身体介護、調理や洗濯等の家事援助、コミュニケーション支援や家電製品等の操作等の援助及び外出時における移動中の介護が、総合的かつ断続的に提供されるような支援を提供します。
前掲の枠内の文章での、おさらいを踏まえると、居宅介護と重度訪問介護について、まず理解しなければならないことは、「利用者=障害者の方を、その障害者の方の自宅で支援すること」であるということを、押さえておく必要があると思います。
なぜならば、居宅介護の方には明確に「自宅において」という言葉がありますし、重度訪問介護の方には「外出時における移動中の介護」という言葉を踏まえての前後の文章の意図を考えると「自宅での支援もあるので、外出時における介護の支援もある」ということを、読み取ることができ得るからです。その上で、言葉を換えて表現したとするならば、
「ご利用者様のご自宅に訪問して、支援を行う。」
と表現することが出来得ると思います。つまり、障害福祉サービスの中での、言わば「訪問介護」に属する支援の形と言うことができるわけです。
(Ⅱ)居宅介護と重度訪問介護の違い
さて、自宅での支援、「訪問して支援する、介護する」という意味では、「居宅介護」と「重度訪問介護」は、とても似ていると、言えるかもしれません。
しかしながら、この二つの「障害者の方への訪問介護」は、似ているようで、とてつもなく、大きな違いがあります。その違いについて、いくつか見て行きましょう。
(1)支援のための1回あたりの時間の違い
●居宅介護:例えば、具体的な支援の種類となる、「身体介助の場合は、1回当たり原則3時間以内」そして、「家事援助の場合は、1回当たり原則1.5時間以内」という時間内で支援を行うこと。
●重度訪問介護:重度訪問介護の場合は、「原則、3時間以上の支援からスタートする。様々な事情から、例外的に、1回の支援が1時間となったり、1時間以上からのスタートとなることも認める」ということ。
つまり、「長時間の支援が原則であり、例外的に1回あたり1時間の支援なども認める」というようなことです。⇒居宅介護は短時間での支援となりがちであるが、重度訪問介護は長時間の支援となることが大原則である、ということが特色となります。
(2)支援した後の、次の支援入るまでの空白の時間帯について
●居宅介護:支援に入り、その日に、次の支援に入るまで、2時間以上の空白時間を原則設けなければならない。
●重度訪問介護:支援に入り、その日に、次の支援に入るとして、空白時間が生じても良いが、「空白時間そのものについて、2時間以上を設けなければならない」というような規定が存在しない。
つまり、「支援の次に、30分後に、次の支援に入ったとしても問題がない。空白時間については、フレキシブルに考えてよい」というようになること。
⇒居宅介護は支援と次の支援の間に「2時間の空白時間のルール」が存在するが、重度訪問介護は「空白時間の有無も含めてフレキシブルな支援」であり、前述の「長時間の支援」の特色を踏まえると「よりフレキシブルで柔軟な支援時間を設けることができる」、ということが出来ます。
(3)支援を受ける対象者の違い
障害福祉サービスを受けるためには、大まかには、市町村などの地方自治体の担当部局(例えば障害福祉課など)から「認定調査」を受けて、抱える障害の軽重について判定を受けてから、障害福祉サービスを利用することができる。
その場合の「障害の軽重についての判定の区分け」を、「障害支援区分」という用語を使い、最も軽い方を「障害支援区分1」と表現し、最重度の方を「障害支援区分6」という六段階で表す。非該当者を含めると、全部で七段階に分けられて判定されます。
●居宅介護
●居宅介護:障害支援区分1以上の方が「身体介護」「家事援助」の支援を、区分2以上で「歩行」「移乗」「移動」「排尿」「排便」について支援が必要な方が通院等介助(身体介護伴う場合)の支援を、受けることができます。
●重度訪問介護:障害支援区分4以上で、二肢以上に麻痺があり、「歩行」「移乗」「移動」「排尿」「排便」のいずれも「支援が不要」以外となっている方が、支援を受けることができます。
⇒「必ず」とは言えないが、傾向として、障害の軽い方が居宅介護を受ける傾向にあり、重度の障害を抱えている方が重度訪問介護による支援を受ける傾向にあります。当然のことながら、重度の障害の方でも、居宅介護を受けることはできます。
(4)支援内容の違い
(Ⅰ)の、おさらいの所での枠で囲まれた、居宅介護と重度訪問介護の説明自体が、そのまま、それぞれの支援内容の違いを表すことになりますが、「それぞれの支援内容の違い」が、より浮き彫りとなるような説明を加えたいと思います。
●居宅介護:こちらの方の支援は、入浴や排泄などの支援の「身体介護」、調理や洗濯などの「家事援助」、病院や診療所などに行くための「通院等介助」というような、「支援についての区別をはっきりさせる」という支援であります。
そのために、実際の支援の前に、事前にきちんとした支援内容についても決めておく必要があります。事前に決めた支援内容と違いすぎる内容の支援は、原則できません。
●重度訪問介護:こちらの方の支援は、先に述べた通り、「長時間の支援で時間設定も柔軟な支援」を行うことができ、「身体介護」や「家事援助」や「外出時の介護」などが区別されずに、総合的な支援として、行うことができる支援であります。更に、これらの支援は、「見守り等の支援とともに」行うということが最大の特徴となっております。
加えて、「日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するため」の支援であり「総合的な支援」でありますので、実際の支援に入る前に、大まかな支援内容をプランニングされていますが(プランニングの方法については、地方自治体によって違いもある)、プランニング以上に、現場で発生する「日常生活によって生じる様々な介護の事態に対応する支援」を行うことが最も大切な支援内容なので、事前のプランニングに縛られない、柔軟な支援を行うことができます。
⇒「居宅介護」は事前に設定されたプランに基づく支援を行うことに対し、「重度訪問介護」は「見守り等の支援」とともに行う支援を行いつつ、事前に設定されたプランだけに縛られず現場で必要な「総合的な支援」を「長時間の支援」の中で、行うことが特徴であるといえます。
まとめ
ここまで居宅介護と重度訪問介護について、「その違い」という観点から、いくつか特徴的な要点を掲げつつ、話をしました。
そこから見えてくるものは、「居宅介護」は、比較的短時間で事前のプランニング通りに支援する。支援内容についても区別や種類がある。
それに対して、
「重度訪問介護」は、長時間の支援が大原則であり、身体的な支援のみならず家事援助や、入浴や外出(場合によって通院等も含む)というように、それらを「見守り等とともに」「総合的に」支援する。
ということが根底になっていますので、まさに、利用者となる障害者の方への「日常生活全般の支援(社会との関わり含む)」という、言葉を恐れずに表現するならば、「その障害者の人生の支援」を行うこととなると言っても、重度訪問介護における支援についての姿勢についての表現としては、あながち、外れていないものと考えます。
とりわけ、このたびは、余り触れない話でしたが、「コミュニケーション支援」というのも、重度訪問介護で行える特徴的な支援となっています。障害者総合支援法のレベルで、支援対象者の中に、難病の方も対象者となっているので、とても重要な支援になっています。
例えば筆者は、「脳性麻痺による四肢麻痺」であり、同じ脳性麻痺の方の中には「言語障害を持つ方」も、かなり多くおられます。そういった観点からも、「コミュニケーション支援」というものは、大変重要な支援だと思います。
加えて、2018年度から入院中についても重度訪問介護での支援が正式にスタートしましたが、その支援の中核に来るものは、「見守り等とともに」行う支援であり且つ「コミュニケーション支援」であります。どのような形であったとしても、「入院中に支援」ができる介護制度は、重度訪問介護制度のみなので、これはとてもありがたく最大の特徴だと言えます。
更に、ちょっとだけ先走りな話になりますが、「第三号研修」もしくはそれを吸収してカリキュラムづくりされた研修である「重度訪問介護従業者養成研修統合課程」という研修を修了している当該資格者は、「喀痰吸引等」の医療的なケアも様々な規定を踏まえながらですが行うことができます。
そのようなことで、「重度訪問介護」の支援の本質や特徴や特性等の詳細については、また改めて、お話できる機会の時に、行いたいと思いますが、
『重度訪問介護は、起床や着替え或いは排泄や入浴、調理や掃除、外出や通院、電機操作、更に資格を合わせ持てば、医療的なケアについて、総合的な支援を見守りとともに、ほぼ、ありとあらゆる支援を行うことができる制度』
と言えることができます。その分、求められる支援についてのスキルも高くなるかもしれません。
ですが、筆者も、重度訪問介護制度の利用者の1人でありますが、「支援をしてくださる方=ヘルパーさんへの頼み方のスキル向上」について、私自身も努力する必要があるなぁと、思いながら利用させていただいております。
そういう意味では、支援者側も利用者側も、成長のできる、やりがいを感じることのできる特徴的な支援なのではないのかなと感じます。
この度は、支援の仕組みについて、かなり簡略化して、説明等の書き方に気をつけて行いましたが、いささか、難しい内容になっているかもしれません。
本当に簡単に書いてしまえば、「重度訪問介護は、どのような場合にでも対応できる、何でも支援できる制度ですよ」の一言で、終わってしまうかもしれません。しかしながら、少ない事柄とはいえ、できない支援も存在することも事実です。資格も関係してきます。
ですが姿勢として、「専門性が高ければスゴイ」というものの考え方はありますが、「総合的に区別なく全ての支援ができる」という方が、より高度な考え方だと思います。全ての一つ一つの区別された支援のレベルを下げずに総合的な支援を行わければならないわけですから。
末筆ですが、重度訪問介護とは、支援者の方も、利用者の方も(特に私自身も含めて)そのような「成長し合えることのできる支援」という側面があり得ることを、改めて自覚しながら、考えていくことができれば、良いのかなぁと思います。
当HP【土づくりレポート9月号】にて、齋藤直希さんをご紹介しております。
行政書士有資格者、社会福祉主事任用資格者
筆者プロフィール
1973年7月上山市生まれ。県立上山養護学校、県立ゆきわり養護学校を経て、肢体不自由者でありながら、県立山形中央高校に入学。同校卒業後、山形大学人文学部に進学し、法学を専攻し、在学中に行政書士の資格を取得。現在は、「一般社団法人 障害者・難病者自律支援研究会」代表。