HOME CARE TSUCHIYA

【障害福祉サービスの基礎知識(在宅編)第4回】

~重度訪問介護等の介護支援に入る為の資格
在宅の支援を必要としている方へ介護などを行うための資格って何?~

◇はじめに(前回の振り返り)

 

大変長文ながら、お読みいただきありがとうございます。
前回の要点を、ざっくり、おさらいすると、

●脆弱な形かもしれないけれども、大昔から、障害のある方を、今で言う支援 を行う公的制度があったということ。
●前項の流れを汲んで、紆余曲折があったものの、現在の「重度訪問介護制度」 のみが、障害者の自立生活運動の流れを受けて、その活動を行っていた障害者 の方と、市民(=ボランティア)の方で、いわば、公的制度として「生まれ変 わった支援の形」であること

以上の二つが、とても大きな要点であります。
そこまで、ご理解いただいた上で、今回も、お付き合い頂ければ有り難いです。

さて、今回取り上げるテーマは、「重度訪問介護」による支援を行うに当たって、その現場に置いて支援に関わる方が保有する必要がある「資格」について、書き綴りたいと思います。

そして願わくば、第3回目の「基礎知識」において、「重度訪問介護」の制度の確立に至るまでの時間の流れをテーマとして書いているので、可能な限り、今回の内容を読む前に、第3回目の「基礎知識」の方をお読み頂いた後に、今回の文章を、お読み頂ければ幸いです。

それは、上の●項目でも触れたように、「重度訪問介護制度」のみが、障害者自立生活運動の流れを受けて、障害者自身とそこに関わる市民(=ボランティア)の一般の市民の長く強い努力の結果、できた制度だからであります。

(序)支援費制度(2006 年(平成 18 年))までの時代

第3回目の「基礎知識」の方で、詳しく掲げておりますように、全身性の重度身体障害者の在宅での支援については、「ボランティア(市民)」の皆様、そして都道府県の事業として行われるようになった「介護人派遣事業」までは、無資格の方もしくは、それぞれの都道府県で定められるような様々な名称の資格の保有者の方などが携わっておりました。


行政による措置命令(措置制度)の場合は、「家庭奉仕員」と呼ばれる方が、身寄りのない高齢者等という対象として、支援に入る場合がありましたが、これらの場合は、「(福祉として)在宅支援として入る場合の資格というか、『公的名称』」として、存在しておりました。


時代が流れ、「重度訪問介護制度」の前身として、「(全身性重度障害者向け)日常生活支援制度」というものが、支援費制度の開始とともに、初めて「事業所との契約」という形を前提として、国全体の公的介護制度として、導入されました。


この「(全身性重度障害者向け)日常生活支援制度」の訪問介護員として活動出来る資格としては、当時、

●介護福祉士(国家資格)
●障害者居宅介護従業者養成研修1級~3級課程修了資格(公的資格、都道
府県 2003 年(平成 15 年)から 2006 年(平成 18 年)まで。3級は家事援
助のみ。)
●日常生活支援研修(20時間)修了者(公的資格、都道府県)

※看護師もしくは准看護師(但し、あくまでも、「看護師」として支援するわ
けではなく、看護師の資格を前提として、当時都道府県ごとに多少の違いは
あったが、概ね、「ホームヘルパー1 級扱い(公的資格、都道府県)」の申請
を都道府県から受けて、支援に関わる有資格者となれた)


このような資格を保有している方が、都道府県等の指定を受けた事業所に所属することによって、「日常生活支援制度」による支援として、全身性の重度障害者について、支援が出来るようになったわけであります。ここで掲げた資格については、後述で、改めて、触れたいと思います。

ここまでが、支援費制度が運用されていた 2006 年(平成 18 年)までの、いわば「重度訪問介護制度の前身」までの、障害者に関わる在宅支援に関わる必要な資格でありました。

その上で蛇足的な話ではありますが、重度訪問介護ではない「居宅介護(身体介護および家事援助)」について、必要な制度は、前述の●や※と同じ解釈ですが、介護福祉士、障害者居宅介護従業者養成研修1級~3級、看護師もしくは准看護師(=障害者居宅介護従業者養成研修1級扱い)の三つの資格のどれかということになります。

なお、この序についての、ここまでの記述は、障害福祉における在宅支援についての資格の考え方であり、介護保険法に基づく訪問介護の場合は、同法により、介護福祉士はもとより、訪問介護員たるホームヘルパー1級~3級についても、当時は国家資格扱いとされております。
※ちなみに、介護保険制度は、介護保険法が 1997 年(平成 9 年)法律制定され、準備期間を経て 2000 年(平成 12 年)から施行されました。それまでは、「基礎知識」の第3回目でも書いてあります通り、福祉行政に基づく行政命令たる「措置制度」で、ごくごくわずかな対象者である枠組みで、行政命令として行われていました。

前回書きました通り、それを人的に担っておられたのは、「家庭奉仕員」という皆様であり、「身体障害者向け」だったり「高齢者老人向け」だったりと、(兼任等あったとしても)それぞれの「家庭奉仕員」の方が担っておられました。

他方で、介護福祉士は、「社会福祉士及び介護福祉士法」で 1987 年(昭和 62 年)から開始した国家資格であり、前述の「措置制度」の一翼を担っていたという感じです。
そのようなことで、当初は、「介護保険法(1997 年(平成 9 年制定)」に基づいて、当時の内閣により「介護保険施行令(1998 年(平成 10 年)政令第四百十二号」として制定された資格として設けられ、「訪問介護員(ホームヘルパー)」が資格として規定されたので、「国家資格」として、「訪問介護員(ホームヘルパー1~3級)」は運用開始されたわけであります。少なくとも、2003 年(平成 15 年)までは、国家資格として運用されているようです。

さりながら、前述通り、2000 年(平成 12 年)に介護保険制度が運用開始され、行政命令たる「措置制度」終了し、「命令から契約へ」ということで、介護事業所と利用者の契約という形が取り入れられました。その流れのもとに、資格も、「キャリアアップの考え方」を取り入れることとなり、介護福祉士の資格が国家資格となり、2012 年(平成 24 年)に「介護職員初任者研修」の資格制度が取り入れられる流れで、経過措置も含めて、介護福祉士以外の、様々な介護関係の資格が、都道府県で認定する場合の資格は、「公的資格」に移行していったようです。

(Ⅰ)障害者自立支援法(2006 年、平成 18 年)および障害者総合支援法(2013 年、平成25 年)それぞれ、移行期間を経ての施行後の時代

(1)重度訪問介護による支援に関わることが出来る資格

 

①重度訪問介護従業者養成研修基礎課程修了資格

⇒障害支援区分 4 および支援区分 5 の方への支援可能資格。公的資格、都道府県。2006年(平成 18 年)開始。

②重度訪問介護従業者養成研修追加課程修了資格

⇒障害支援区分 6 の方への支援可能資格。公的資格、都道府県。2006 年(平成 18 年)開始。

③重度訪問介護従業者養成研修統合課程修了資格

⇒障害支援区分 6 に加えて喀痰吸引等の医行為的な支援も可能な資格。公的資格、都道府県。2006 年(平成 18 年)開始。

④重度訪問介護従業者養成研修行動障害支援課程修了資格

⇒障害支援区分 4 以上であって、障害支援区分の認定調査項目のうち行動関連項目 12 項目の合計点数が 10 点以上である方への支援が可能な資格。公的資格、都道府県。2014 年(平成 26 年)開始。
(平成 26 年までは、「障害程度区分」という区分表示を行っていたので、認定調査を受けたものについては、障害程度区分の認定調査項目における行動関連項目等の点数が8点以上である者、ということになる。)

⑤障害者居宅介護従業者(等 or 基礎)研修課程修了資格

(2006 年(平成 18 年)から公的資格、都道府県。)

・1級取得者:事業所において「サービス提供責任者」として、後輩の育成指導、利用者とヘルパーとのコーディネート等ができる。
・2級取得者:訪問介護において身体介護・家事援助ができる。取得後実務経験 3 年以上(1級養成講習受講資格付与)で、「サービス提供責任者(2018 年(平成 30 年)から不可)」もできる。また、障害者施設においても、身体介護が出来る。
・3級取得者:訪問介護において家事援助が出来る。(2013 年(平成 25 年)廃止)

⑥訪問介護員1~3級養成研修修了資格

(1995 年(平成 7 年)養成開始。2000 年(平成 12年)介護保険開始。厚生労働省、国家資格。障害分野でも使る。)

・1級課程取得者:事業所において「サービス提供責任者」として、後輩の育成指導、利用者とヘルパーとのコーディネート等ができる基幹的ヘルパー。(2012 年(平成 24 年)養成廃止)
・2級課程取得者:訪問介護において身体介護・家事援助ができる。取得後実務経験 3 年以上で、「サービス提供責任者(2018 年(平成 30 年)から不可)」もできる。(2012 年(平成 24 年)養成廃止)
・3級課程取得者:訪問介護において身体介護はできない。(2009 年(平成 21 年)廃止)

⑦介護職員初任者研修修了資格

(旧ヘルパー2 級相当。2012 年(平成 24 年)開始。公的資格、都道府県。)

⑧介護職員基礎研修修了資格

(旧ヘルパー1級相当。2006 年(平成 18 年)開始、2012 年(平成 24 年)養成廃止。公的資格、都道府県。)

⑨介護福祉士実務者研修修了資格

(旧ヘルパー1級および介護職員基礎研修以上。公的資格、都道府県。「医療的ケア」の科目を含む為。)
⇒この「医療的ケア」科目、喀痰吸引等の「基本研修」に相当する。但し、「1 号 2 号 3 号の喀痰吸引等について『単体で実地研修のみを行う研修を受けた後のみ修了』可能である。それ以外では、各号についての修了認定は受けられない。その場合は、1 号 2 号 3 号それぞれについて『基本研修および実地研修全て行う研修』を修了することによって修了認
定を受けられる。当然のことながら、「サービス提供責任者」になることも出来る。

⑩介護福祉士

(国家資格。社会福祉士及び介護福祉士法第2条第2項)
⇒「介護福祉士」とは、第四十二条第一項の登録を受け、介護福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもって、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護(喀痰かくたん吸引その他のその者が日常生活を営むのに必要な行為であって、医師の指示の下に行われるもの(厚生労働省令で定
めるものに限る。以下「喀痰吸引等」という。)を含む。)を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うこと(以下「介護等」という。)を業とする者をいう。

当然のことながら、「サービス提供責任者」になることも出来る。介護福祉士実務者研修修了資格に基づかない、介護職員基礎研修や実務年数 3 年以上などには続いて介護福祉士になられた方は、「喀痰吸引等」について、前々段の記載とは多少別な取扱いとなる。

 

(2)居宅介護事業所として障害者の在宅支援に関わることが出来る資格  

 

◎前項の(1)⑤~⑩に掲げた資格については、廃止された資格以外は、問題なく有効な資格として運用できる。
※前項の(1)①~④に掲げた資格については、減算措置は受けるものの、障害者の在宅支援として、ホームヘルパーとして関わることはできる。ちなみに、蛇足であるが、(1)①~④の資格につき、介護保険の支援については、関わることはできない。

ここまで色々な障害者に関わる支援についての介護資格を見てきましたが、時代の変遷も影響はあると思いますが、とてつもなく多くの種類の資格があります。

とりわけ、①~④の資格については、「重度訪問介護」の制度に基づく重度障害者の在宅支援の為の資格です。と同時に、この「基礎知識」の第3回目でも触れたように、障害当事者と市民で育てたような制度であります。
重度訪問介護に関わる資格の時に、「障害支援区分 4」や「区分 5 や区分 6」のような記載がありましたが、これは、支援を受ける障害者の軽度か重度かを表すものです。最も軽いもので「障害支援区分 1」というものがあり、最重度で「障害支援区分 6」の 6 種類があります。「障害支援区分 4 以上で障害の内容が一定項目の要件を満たす重度障害を抱える方」のみが、「重度訪問介護」による支援を受けることができます。それらの支援内容については、これまでの「基礎知識」を読み返して頂ければ幸いです。
このような重度障害者について支援する「重度訪問介護」ですが、資格を取る為の日数自体は、かなり短期間です。研修機関にもよりますが、3 日弱ぐらいで、修了します。いわば、時間的にも費用的にも、ハードルが低い形で研修を受けることができ、修了することができます。この部分だけを見ると、重度障害者と言えど、研修機関が短いなどという形で、比較的に「重度障害者への支援というものは、行いやすいものなのかな」などというふうに感じる方もおられるかもしれません。
しかしながら、「重度障害者に対しての支援がとてつもなく難しい」という表現まではしませんが、「決して、重度障害者への支援が、簡単なものではない」と言えるということも間違いのない事実でございます。
なぜならば、「重度訪問介護制度」のみに「同行支援」というものがあり、いわば「通常支援に入っている熟練ヘルパーが、事業所に入ってきたばかりの新人ヘルパーに、利用者への支援の仕方を教える場合」についても、熟練ヘルパーだけでなく、新人ヘルパーに対しても、介護報酬が発生し、事業所の収入となるということが理由です。つまり、「 OJT 」を
公式に認めているというところが、大きな理由です。地方公共団体にもよりますが、新人ヘルパーの「同行支援」についても介護報酬が発生するという期間は最大で 6 ヶ月と言われております。実際は、もっと短いですが。だとしても、障害者の支援について他の制度や、介護保険制度でも、そのような「 OJT 」についての新人ヘルパーについても、介護報酬が発生するような場合は存在しません。

言葉を変えれば、「重度訪問介護制度」の要件に当てはまるような「重度訪問介護による支援」を行う場合は、座学や研修よりも、現場で「そこにいる支援を必要とする重度障害者を支援しながら、同時並行で学んでいくということをしないと、支援者としての力量が身につかない。」とも表現できます。それだけ重度訪問介護というものは、現場主義で「学びながら、支援をする。支援をしながら学ぶ」という積み重ねを大切にするものだと表現できるわけです。

ちなみに私も、「同行支援」制度を利用するように、当時利用の事業所様から、協力を求められました(私の重度訪問介護の支給時間の変更申請を、私がしなければならないのです)が、事業所様も、「教える為の計画」だけではなくて様々な書類を後日まで保存しておく義務があるということが分り、おそらく多少大変だったのでしょうか。この時の1回だけの経験でありました。それでも、事業所の人材育成の為の経費の持ち出しがないと言うことは、とても大切な制度だと思います。

他方で、⑤~⑦に掲げるところの「ヘルパー2級相当」ついては、一般的なプランに基づき、「定められた時間のうちで、事前に定められたプランに基づいた支援を行う。」という「(2)居宅介護事業所として障害者の在宅支援」にもかかわることができる資格なので、どちらかというと、講義や演習を中心とした研修を重んじる資格と言えます。よって、これらの資格取得する為の期間は研修機関にもよりますが、3 ヶ月前後が一般的と言われております。当然のことながら、これらの資格でも重度訪問介護に関わることはできます。

続いて、⑤⑥に掲げるところの「ヘルパー1級相当」および⑧⑨については、支援者としての中核を担当し、「サービス提供責任者」として、コーディネートしながら支援についての責任をもって、業務を行うことができます。と同時に、在宅系というか、訪問を行う事業所については、必ず「サービス提供責任者」を置かなければならないので、とても大切な資格であるといえます。重度訪問介護についての事業所についても同じことがいえます。ですので、無資格から、ヘルパー2級相当の有資格者まで、様々な方が、ここでの項目の資格を目指すことができるので、研修がとても重要視されます。研修機関にも違いが発生しますが(保有資格の有無や種別にもよりますが)出席日数や研修内容の多少の違いがあっても、概ね研修期間は 6 ヶ月前後必要とされております。

最後に、⑩の介護福祉士ですが、在宅支援もしくは施設であるかを問わず、介護現場についての現在、最上位の資格であります。この資格でもちろん「サービス提供責任者」となる
こともできます。3 年間以上の実務経験を踏まえた上で、必要な研修を受けて資格を取得した上で、介護福祉士の受験資格が発生します。そして、国家試験を経ての資格なので、とても重要です。
重ねて申し上げますが、本当に様々な資格が、時代とともに存在し、種類がとても多いと感じます。とはいえ、在宅支援のみが、必ず何らかの資格を保有しなければ行うことができない支援なので、やりがいのある支援であると表現することもできると思われます。

(Ⅱ)喀痰吸引等の公的介護を前提とした医療的ケアの資格について

(1)介護における「喀痰吸引等」の支援の始まりについて 

そもそも、喀痰吸引や経管栄養については、原則として医行為(医師の医学的判断および技術をもって行うのでなければ、人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼす可能性のある行為)であると整理されていました。
他方で、医師法第 17 条により、「医師でなければ医業をなしてはならない」と規定されております。

では、どのような場合で、医師法第 17 条違反で、刑法が適用される犯罪となるでしょうか。

それではまず、どのような流れで、犯罪というものが一般的に成立するか否か。このことについて、見ていきたいと思います。

※犯罪成立と為るか否かのフローチャート

★ちなみに、上の図を使って、どのような場合に、「犯罪」として、成立するかを、ちょっと例え話を使って、説明してみます。

たとえば、私が少々頭にきて閻魔大王にグーパンチをしようとします。グーパンチで殴られそうだと思った閻魔大王は「防御する!」ということで守りの為にグーパンチで抵抗を試みました。これが、通常言われる、「正当防衛(刑法第36条)」というものです。

閻魔大王のグーパンチ(「暴行罪(刑法208条」の構成要件には当たる)が、適切な防衛の為に必要最低限のグーパンチをしたというのなら、「正当防衛(36条1項)」ということで(上の図で言う「違法性が阻却けられる(しりぞけられる)」、無罪となります。

逆に、閻魔大王が無抵抗だった場合は、私は閻魔大王に暴行したことになるので、上の図で言うところの「刑法36条の構成要件に該当」し、その私の行為は刑法36条より「違法な行為ということで違法性が完全にある(阻却されない)」ので、加えて、私は残念ながら判断能力はあるようなので、「責任能力もあるでしょう」と言われて、見事、私についての犯罪が成立してしまいます。

というのが、上の図の、ちょっとした例えばの話です。

グーパンチは、したいとは思いませんが、常日頃、もし私があの世に行ったら、閻魔大王という存在がいたら、論争したいとは、常に周囲に話しているので、ある意味(どういう意味!?)ヤバいかなと思います。

ただし、手が不自由な私は、そもそも論で「グーパンチ」という行為自体が、ほぼ100%

無理なので、私は刑法学で言うところの「不能犯」になると、個人的には考えております。詳細は皆々様の身近なところにいる、弁護士の先生や法律学の先生へ聞いてみて下さい。

このように、犯罪となりえそうな行為をしたとしても、上の図にあるような場合、犯罪が成立し得ない(犯罪不成立)という場合も存在し、大きく分けて刑法上、三つ規定されております。すなわち、

※正当行為(刑法35条)、正当防衛(刑法36条1項)、緊急避難(刑法37条1項)

の三つの条項です。他にも刑法学説の論争として

※自救行為(刑法学上、現在は禁止。)、被害者の同意(刑法学説論点)

の二つが、「犯罪が成立するや否や」で、論争されております。

これらを大きな意味合いで「違法性阻却事由」と法学上、表現いたします。

特に、刑法35条~37条については、「法定の違法性阻却事由」と刑法学上、言われたりしております。

他方で、「法定」すなわち法律で定められた、あるいは形式的に認められる「違法性阻却(事由)」のみが、「法律で認められているから、『それだけが、どんなことがあっても、違法性(=法律に違反している性質)が、阻却(しりぞけられる)させられることができるんだよね。」というふうに、ガチガチに、法律の運用を、定められてしまったら、

「法律上の正当な行為でないと、必ず犯罪になってしまうの?」
「どんな形でも、自らに正当性があって、相手に対して防衛する為の行為であれば、正当防衛で無罪になっちゃうの?」

などのような形で、全て形式的に、法律が解釈され、犯罪か否かが論じられるようになってしまうと、そこに解釈による「不公平な場合」が、発生しかねません。

それ以外でも、例えば、

「確かに、医療行為に近いと思われるけども、法事で隣で多少、体の不自由な人が参加していて、今その場で、かゆくて、かゆくて苦しそうに人に頼まれて、市販薬の「かゆみ止め薬」を塗ってあげることは、医療系の法律違反で、犯罪になってしまうの?」

などということが、「法事」でなくても、発生してしまう可能性は、この世の中、いくらでもあり得るわけです。そのとき皆、全ての人を、犯罪者としてしまうのか。それで良いのか。

そのような考え方から、発生した論点として、「実質的違法性阻却論」というものが、刑法学上で、出てきたようです。

その上で改めて、医師法第17条により、「医師でなければ医業をなしてはならない」と規定されている中で、どのような場合であると、医師法第17条違反で、刑法が適用される犯罪となるでしょうか。先に掲げたフローチャートの図を踏まえながら、改めて、簡潔に考えてみたいと思います。すると、次のようになると思われます。

  • 構成要件⇒医師であるか否か。医師でない。
  • 違法性の有無⇒医師でないのに医行為を行った
  • 責任能力の有無⇒医師でないのに医行為行ったものに、刑事責任を負担できる能力があるか。

以上のことを、検討して全て満たされた時、犯罪と為る。

確かに、以上のようなことが満たされた場合、医師法第17条違反になると思います。しかしながら、少し考えてみましょう。はたして、皆様の身近に常に、お医者さんは、付き添っていらっしゃるでしょうか。あるいは医療職として有名な看護師さんが、常に付き添っていらっしゃいますでしょうか。

その職務の専門性から、「常に医療職が身近にいる。」という場面は、ほとんどないと、予想します(全くないとは申しませんが)。

では、その時に、必要に迫られて、緊急な場合に、本人や周囲の同意もあるのに、簡潔な医行為を行っただけで、「それは犯罪である。」と、断罪されて、良いでしょうか。命に関わる場合は、どのようになるでしょうか。

私個人的には、命に関わるような場面において、全ての事柄が「その行為は犯罪である」と断罪されるような、世の中であって欲しくはないと思います。やはり多少の柔軟性のある多様性のある社会であって欲しいと、個人的には望みます。

そのような理由から、発端として、以下に掲げるような「実質的違法性阻却論」に基づき、やむなく必要に迫られて、介護現場で喀痰吸引や経管栄養等の医的行為が行われるに至っているわけです。

それでは改めて、医的行為における実質的違法性阻却論について、考えてみましょう。

最高裁判例の蓄積などから、一般的には、次のように考えられるに至っています。

★実質的違法性阻却論って、なあに?

○ある行為が処罰に値するだけの法益侵害がある(構成要件に該当する)場合に、その行為が正当化されるだけの事情が存在するか否かの判断を実質的に行い、正当化されるときには、違法性が阻却されるという考え方。

○形式的に法律に定められている違法性阻却事由を超えて、条文の直接の根拠なしに実質的違法性阻却を認める。

○具体的には、生じた法益侵害を上回るだけの利益を当該行為が担っているか否かを判別する作業を行う。

 ※「当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否か」(最判昭50・8・27 刑集29・7・442他)

ざっくりと、語弊を恐れずに、優しく言い換えるならば、

「ある一つの行為が、とりあえず法律に違反するけれども、『社会の多くの人から、そんなに悪くないことだよね。』と、認めていただくだけの、事情などがある場合はしょうがないよね。

その一つの行為を正当化させるような法律があってもなくても、実質的に考えたときに、どうしても必要不可欠な行為だったりしたら場合、加えて、本当の小さな事柄で、法律の違反になってしまう行為かもしれないけれども、その法律違反が、社会全体に、許される程度だったらしょうがないよね。」

というようなものを、違法性から阻却(=退かせ)て、社会全体で、許してあげようよ。あるいは、許されるような秩序を作って行こうよ。

というような形で、最高裁判所の裁判例の積み重ねとしては、考えているわけであります。

(2)介護における「喀痰吸引等」の支援の内容と必要な資格について

社会福祉士及び介護福祉士法施行規則第1条各号の規定、同法附則第3条第1項の規定、及び別表第一、別表第二号、別表第三号などによって、介護における「喀痰吸引等」の医的行為は、次の5つと定められております。

加えて、都道府県に登録した。「登録研修機関」が、それぞれの喀痰吸引等の特定行為について研修を行うことになります。いわゆる「一号研修、二号研修、三号研修」と呼ばれるものであります。

※喀痰吸引等の具体的な行為名

  1. 鼻腔内痰吸引
  2. 口腔内痰吸引
  3. 気管カニューレ内痰吸引
  4. 胃ろう(腸ろう)経管栄養
  5. 経鼻経管栄養

※それぞれの研修名と実施可能な行為の範囲(前掲の①~⑤で表す)と、その対象者

研修名実施可能な行為の範囲対象者
一号研修①~⑤について、
不特定多数の方に全て行う。
不特定多数の利用者
二号研修①~⑤について、任意の行為を選択し、
選択された行為のみについて不特定多数の方に行う。
不特定多数の利用者
三号研修①~⑤について、特定の方について、
必要な行為を行う。
特定の利用者但し、
経管栄養は筋萎縮性側索硬化症( ALS )及び
類似の方が対象。

◆例外として、一定の条件下(本人の文書による同意、適切な医学的管理等)で、ヘルパー等による実施を容認 (実質的違法性阻却論)

 ⇒本人の文書による同意(実質的違法性阻却論)に基づいて、今現在でも、医療法関係解釈=医療行政通知によれば、例えば「三号研修」を修了していなくても(研修による資格がない状態)であったとしても、「特定の方との文書による同意や適切な環境の下でのみ」であるならば、喀痰吸引についてのみ、行うことができます。

それは、厚生労働省の通知「介護職員等の実施する喀痰吸引等の取り扱いについて(医政発0329第14号・老発0329第7号・社援発0329第19号)」などでも、明確化されております。この通知を取り消す通知は出ておらず、加えて、そもそも、「実質的違法性阻却論」自体が、刑法学や最高裁判例の蓄積によって確立されてきている法律の理論なので、厚生労働省の通知の有無を越えて、法律の考え方としては、かなり高度な理論で、通知の大元となる考えだと言えます。

ゆえに、前述の厚生労働省の通知について、本省の方に、この通知が有効であることの再確認を取りながら、この新型コロナ禍の中でも、この考え方のもとに、運営をつないでいる団体も、あるようです。もちろん、福祉行政当局とも確認等々の上で行っていると思いますが…。

とはいえ、現在は、制度化された「研修に基づく喀痰吸引」なので、今回の新型コロナ禍という。いわば、「緊急事態」的なものと、現在の考え方に基づき、研修資格取得の上で、「喀痰吸引等」を行わなければならない、ということは、改めて指摘するまでもない当然のことだと思われます。

(3)「介護における『喀痰吸引等』の研修修了資格」と「医師資格や看護師資格等の医業資格」との決定的な違いについて

これを、かなり分りやすく、表している事実が、別な形で存在します。

それは、「本格的な(例えば手術による治療)医療行為」や「医師の指示に基づく注射薬の注射(看護師によるもの)」と、「喀痰吸引の行為」の違いです。

すなわち医師の場合は、一般的に『研修医』という研修を受けなければ、現場、つまり病院の外来や開業医として、医療行為を行うことは、ほぼできません。ですが、「『研修医』も、大学医学部を卒業し、医師国家試験に合格した者であり、『医師そのもの』」なのです。

看護師も同じように、大学の看護学科や、看護学校を卒業し、看護師国家試験に合格した者が看護師さんなのですが、看護学校等での実習でも1、2回レベルのほんの数回ほど、例えば「注射を打つ実習」を自分自身の体で行ったりする場合もあるそうですが、「演習として看護学校で行う注射を打つ練習については、人形で行う」という、現実があります。

つまり、それらは、「医師国家試験に合格すれば、医師であり、法律に反せず、身体への治療(練習含む)を指導する医師の下で、行うことができますし、行う必要」があります。

看護師も、看護師国家試験に合格しなければ「資格を持った正式な看護師」ということはできないので、「国家試験に合格し、看護師になって初めて、本物の人体に対して注射を打つ(練習含む)ことを先輩看護師の下で、行うこと」ということになります。

他方で、「喀痰吸引」についても、確かにそれだけの行為だけ見れば、医的行為なのですが、「第3回目の基礎知識」においても書きましたように、「重度訪問介護制度」は、障害当事者と一般市民が作り上げていった介護制度なのです。そういった歴史が、今でも息づいているわけです。

もし仮に、「裁判例の積み重ね」や「刑法学で言うところの実質的違法性阻却論」という法理論があったとしても、許される余地のない医的行為であるならば、「喀痰吸引」の行為だけでも、その違法性で、逮捕等の対象となるわけです。

そのようにならないということは、

▲厚生労働省の通知「介護職員等の実施する喀痰吸引等の取り扱いについて(医政発0329第14号・老発0329第7号・社援発0329第19号)」

の通知の存在もさることながら、やはり、「医師や看護師などによる医的行為とは違う存在であるということである証左といえると考えられます。

だからといって、現在はキチンとした、様々な研修、それらに基づく資格が存在するわけなので、喀痰吸引等の行為については、研修に基づく資格を受けて、業務に当たる必要があると、私は強く思います。

★一号研修、二号研修、三号研修の、どの研修であろうとも、それぞれ「基本研修」と「実地研修」の双方を修めないと、研修修了には、なりません。

たとえば、三号研修を例にとるならば、「基本研修」については研修の場で「講義や人形による喀痰吸引等の練習など」を行います。

続いて「実地研修」では喀痰吸引を必要とされる方の同意と指導の資格を持つ訪問看護師の指導と安定環境の下で研修を行います。

「実地研修」の方が後に行わるので、現場での指導資格を保有する訪問看護師の判定で、最終的に、研修修了の合格が認められるようになるわけです。当然の事ながら、手続的にその後で、必ず都道府県などに登録などは必要となり、登録証等の交付のあとに、「喀痰吸引等」のスタートとなります。

このような方式で、指導資格を保有する訪問看護師などによる試験に合格する前=まだ無資格の状態でも、練習や最終試験を、喀痰吸引を必要とするご本人様のお体を前提として、資格を与えていただけるということは、まさに、喀痰吸引等の研修と、「医師や看護師などの分野」の国家試験後の研修との、決定的な違いの証左とも言えます。

以上、検討してきたように、「「介護における『喀痰吸引等』の研修修了資格」は、あくまでも、介護保険制度あるいは、特に公的介護制度である障害者総合支援法に基づく支援と介護保険法に基づく介護支援でいうところであり、いくら『喀痰吸引等』と言えども、その立脚すべき出発点は、「福祉であり、福祉に基づく介護や支援の分類内である」というところです。

他方で、「医師資格や看護師資格等の医業資格」で行うところの、身近なところで言えば、病院や訪問看護師等が行う『喀痰吸引等』は、あくまでも「純然たる医業行為の分類のもと」行われているということです。 

加えて、昔の養護学校、今の特別支援校の教員についても、例えば、日本重症心身障害学会誌2017年42巻2号213頁に掲載の「特別支援学校における喀痰吸引等特定業務の登録状況」によれば、

教育の世界観でも、まだまだ手探りではあるが、「重症心身障害児と医療的ケアの課題」について、三号研修を軸としつつ、医療専門職だけに全て丸投げするだけでなく、言わば「教育とは別世界の『喀痰吸引や医療的ケアなど』」について、教育現場でも、せめて知識を身につけようとする動きが、発生しつつあるところであります。

だがそれは、現状においては、あくまでも「教員としての立場、立ち位置を維持しながら」というところではあります。

 

このように、一言に、『喀痰吸引等』というものを見たとしても、その立ち位置や観点、すなわち今まで触れたような、「介護や支援という観点」あるいは、「純然たる医業行為の分類としての『医療行為』という観点」あるいは、「教育界からの観点」などなど。『喀痰吸引等』について見る立ち位置が変われば、見えてくる風景は、全く違ったものとなり得るわけでありますし、「多職種連携」というものは必要であると私個人的には考えますが、「違って当然といえる風景」であると私個人は考えます。

私の長年お世話になっている整形外科の主治医(元、山形大学医学部助教授)の先生は、このように仰られております。

【医師が関わるのは医療であって医学である。福祉は社会生活であって福祉行政であり行政そのものである。そしてそこに、それぞれの専門職がある。それぞれの専門職の立ち位置からスタートしなければ、違いについて認識しなければ、何も始まらず駄目なのではないか。】

というように…。

私個人の主観になってしまいますが、私の主治医の考え方は、正直私の中では、すっきりするものでした。かなり厳しい先生なので、1回の診察の為に、3年間ほど気合いを貯めなければ、きついほど、大変でしたが(笑)。

ですが、ひとこと「資格」と言いつつも、その資格を使って、近くの隣接の資格の保有者の皆様方と、どのように連携し関わっていくか。そこのところは、とても大切だと思うのです。

多少話がずれたので、元に戻しますが、あくまでも一つの考え方に過ぎないと思いますが、私の主治医の言葉にある「専門職(のあり方)」をもって「資格の違いの表現の一つ。」と、読み取っていただき、考えるきっかけになって頂ければ有り難いと存じます。

まとめ

以上の通り、このたびは、株式会社 土屋の主力事業として、行われる、「重度訪問介護制度」による支援に入ることができる資格を中心に、色々と、見てみました。

私自身も、重度訪問介護制度を利用しているので、必要とする資格については、おおよそは理解しておりました。

しかしながら、改めて、振り返って学び直しをしてみると、とてつもなく多くの資格があったのだなぁと、実感しております。資格内の等級が存在する資格については、一つとして数えてみましたが、それでも、まさか10個以上あるとは…。大変な驚きでした。

加えて、土屋では、重度訪問介護による「介護と医療的ケア」を、主力としております。その為に必要な資格を養成するものとして、「重度訪問介護従業者養成研修統合課程修了資格」があるわけですが、これは、本文の方でも多少触れたように、「重度訪問介護従業者養成研修追加課程修了資格」と「言わば重度訪問介護における三号研修のような事」を、双方同時に取得するような、現場を踏まえた、あるいは「重度訪問介護の歴史」を踏まえた、養成課程だと、解釈することができます。

このようになっている所以は、第三回目の基礎知識で、さまざま書きましたとおり、ひとえに、「重度訪問介護」という制度が、障害当事者と一般市民のボランティアの方から発展していった制度であり、まさにその歴史を反映しているからであります。

「資格」というものは、とても大切なものですが、なぜ、「その『資格』が発生し、確立されていった」のか。この「なぜ」「なんで?」という疑問や理由などをきっかけにして、その資格の存在意義について、自らの頭で考えることこそが、その資格について、それに基づいて行っている仕事について、理解を深めることにつながっていくと思います。

その上で、私も含めて、国民の権利として、政治や制度に関わる権利は、皆様、持っているわけですから、表現する自由もあるわけですから、仕事について関わっている制度についても理解を深め、より良く変わっていくようになっていく原動力となるように存じます。

今回は、四角四面の漢字の資格が効果ありすぎて、頭の中も、四角になってしまいました。ただでさえ私の頭は、絶壁で、四角い頭なのに…。もっとも中身は、鉄鉱石のように硬い四角であると、言われたりもしますが(笑)。

改めて、「資格」と「制度」というものは、連帯しているのだなぁと、私の学びになりました。

今回はこの辺で。また、次回、よろしくお願いします!

行政書士有資格者、社会福祉主事任用資格者
筆者プロフィール
1973年7月上山市生まれ。県立上山養護学校、県立ゆきわり養護学校を経て、肢体不自由者でありながら、県立山形中央高校に入学。同校卒業後、山形大学人文学部に進学し、法学を専攻し、在学中に行政書士の資格を取得。現在は、「一般社団法人 障害者・難病者自律支援研究会」代表。

当HP「土づくりレポート9月号」にて、齋藤直希さんをご紹介しております。

050-3733-3443