“生きる”から“活きる”へ ―人生を支える介護を目指す「活きるを支えるプロジェクト」の挑戦-
対談参加者
星 敬太郎……ホームケア土屋スーパーバイザー
小川 力信……ホームケア土屋関東ブロックマネージャー
司会……宮本 武尊/取締役 兼 CCO最高文化責任者
司会本日は、ホームケア土屋スーパーバイザー(SV)・星 敬太郎さんの対談シリーズ第4回として、このたびホームケア土屋関東ブロックマネージャー(BM)・小川力信さんをゲストにお迎えしました。
第一部では、星SVが構想し、小川BMが現在プロジェクトリーダーとして取り組んでいる「活きるを支えるプロジェクト」についてお話を伺います。
「活きるを支えるプロジェクト」概要
「活きるを支えるプロジェクト」は、障害や介護の有無に関わらず、一人ひとりが大切にしてきた人生や価値観、これから実現したい希望に向き合い、その人らしい「活きる」を支える取り組みです。
単に「生きる」ことを支えるだけではなく、その人が持つ力や可能性、やりたいこと、人生の意味を大切にし、本人が望む暮らしや未来の実現を支援することを目指しています
第1章 命を支える、その先へ ―「活きる」に込めた介護の本質-



「活きるを支えるプロジェクト」は1年以上前に立ち上がったんですが、実は私はこのプロジェクトを土屋に入社する前から温めていたんですね。
いつか土屋の中で、この視点を持って取り組まなければいけないと思っていたところではありました。



それは、いつ頃から思われ始めたんですか?



15年ほど前に、名古屋市内にある比較的大きな有料老人ホームで施設長をしていたんですが、その時に感じたことがあったんですね。
人員配置基準は満たされているけれど、ヘルパーさんの数もぎりぎりの中で、やはり生命を支える介助のみで1日が終わってしまう。
もっと言えば、生命を支える介助だけしていれば、事業者は国保連請求をし、収入を得て、従業員に給料を支払い、ビジネスとして成立するんです。
だからこそ、生命を支えることだけではなく、その方らしく生き生きと人生を送ることに視点を向けて意識を高く持たないと、どうしてもその部分が忘れられがちになってしまう。
ひいてはクライアント(利用者)自身が、「そこはどうせ支援してもらえないから」「外出はできないから」と諦めてしまうんですよね。



星さんからこのプロジェクトのお話をいただいた時、「“いきる”を支える、この“いきる”の漢字は、生命の『生』じゃなくて『活』なんだ」と強く語られていたことを覚えています。



たしかに「活きる」を使うことには、こだわりはありましたね。
「生きる」って生命を支えることを表す言葉ですよね。
それを私たちの務めに当てはめると、排泄介助や食事介助、入浴介助も入るかもしれません。
そのように生命を支えるのみの介助を、私たちはイメージとして「生きる」と表現している。
だけど、このプロジェクトでは、生命を支える以外の部分にもしっかりと目を向けようという意味において「活きる」としているんです。



それを伺った時、私も「まさに!」と思いました。
辞書でも、「生きる」は生命そのものが存在している、ただ「生きている」という表現に近いんですけど、「活きる」は、存在が生き生きと価値を持つことや、生命活動をより発揮させることを表す言葉として書かれています。
星さんはあの時、「我々は重度訪問介護を通じて、ただ生きている時間を延ばすのではなく、その人がその人らしく生活するための一助になれたらいいと思う。
だから、この漢字はすごく重要なんだ」と仰られていたと記憶しています。



そうですね。
では、その「活きる」には何が当てはまるんだろう?と考えた時に、障害があっても、介護が必要でも、高齢者でも、皆さん一人ひとり人生があり、そこから生命を支える部分を除いたら、全ては「活きる」ことだと思うんですよ。
具体的には外出もそうだし、買い物に行くこと、年に2回の墓参りに行くこと、孫の結婚式に出ることもそうだと思います。
ただ、介護が必要になると、どうしてもその部分はクライアントご本人も諦めがちになるし、介助者や事業者もそこに目を向けるのは、ほぼないように感じますね。
だけど、生きていく、人生を送るということは、生命を支えるだけじゃないはずですので、一人ひとりとしっかりと向き合い、必ずそちらにも目を向けていこうと思ったんです。
第2章 想いが重なり、未来を動かす ―「活きるを支える」挑戦の始まり―



「活きるを支える」という考えを温めてきて、プロジェクトの構想自体はあったものの、特に急いでいたわけではなく、他の取り組みとの兼ね合いもあってタイミングを見計らっていたんですね。
小川さんとは食事に行く機会が何度かあったので、その中でこのプロジェクトの話をしたんですよね。



はい。
星さんが取り組むべきものとして、僻地支援など5つほど挙げられていて、その一つにこのプロジェクトがあったと思います。
それは星さんが「なぜ土屋で働き続けたいのか」というところにも直結するもので、「土屋だからできること、取り組まなければならないこと」の一つでした。



思い出しました、そうでしたね。
その時に、小川さんが数字やこれまでの役割以上に、何よりもそのプロジェクトへの関心が高かったことをまず感じました。
ただ、一時的な関心かもしれないと一旦は引き下げたんですが、次の食事の際にも変わらず興味が続いていたので、「本当にここに関心があるんだな」と感じたんです。
その背景には、何があったんですか?



先ほど星さんがお話しされていたこととかなり近いんですが、私は以前、老人保健施設に20年ほど勤めていて、福祉施設長をしていたんです。
その中で利用者さんとお話すると、諦めているような話がよく出てきたんですよね。
例えば、「死ぬ前にお墓参りに行きたいのよね。
でも娘も歳だし、行けないわよね」とか、競馬場によく行かれていた方が「ジャパンカップに行きたいけど、やっぱり無理かな」と話されたりですね。
悲観するわけでもなく、なんとなく諦めている。
こういう時、介護職員って「行けるといいですよね」と話は合わせるんですが、現場に入っている中ではなかなか難しくて、傾聴のみで終わらせている事実が散見されてたんです。
そんな中で、「自分というマンパワーがあるから、自分が動けばいいんだ」と、急に僕が利用者さんの願いを叶え出したんですよね、勝手に。



ほう。



実際にやってみると、職員から「小川さんだけズルい」という声がどんどん上がってきたんです。
そこで、みんなも同じ思いを持っていたことに気づきました。
そこからは、それぞれが担当する利用者さんに希望を聞いて、それを実現することを職場の中で当たり前にしていったんです。
すると、職員がすごく輝いてきて、「あの人は○○をしたいって言っているので、そうさせてもらっていいですか?」と、職員の方から言い出すようにもなってきて、そうした姿を見て「これは利用者さんだけでなく、介護職員にとっても本当に大切なことだったんだ」と感じたんです。



それが、あの時の関心の高さにつながっていたんですね。



そうですね。
土屋に入社した当初は、重度訪問自体が初めてで、自分自身に余裕もない中、最低限の生きるラインを必死に支援するのみで、いつもいつも日常が過ぎていくことがあり。。
ようやく慣れてきた頃に、それまで取り組んできた外出支援を提案しても、「いや、余計なことしなくていいから」と言われることもあり、クライアントも諦めることが当たり前になっているかもしれないと、モヤモヤしながら働いていた時期もありました。
そんな中で、他のエリアでの外出支援の事例を見て、「やっぱり重訪でも外出できるんだ」と思ったんです。
そこから知識を得るために、いろんな事例を集め始めていた中で、星さんから今回のお話をいただきました。
だからこそ、「活きるを支える」という考えを重度訪問の中でどう広げていくかというテーマが、自分のライフワークのように、バチッとはまったんです。
第3章 埋もれていた想いを、形にする ―重度訪問介護だからこそ見える、その人の人生―



現在は、ほぼ私が介入することなく、小川さんを中心にプロジェクトが動いています。
まず最初はどのようなところから取り組み始めたんですか?



具体的には、まずは仲間を見つけることから始めました。
各エリアのブロックマネージャーにお話すると、「いいんじゃないの?やったらどうですか?」という雰囲気になってきたので、それぞれのブロックで担当者を選任していただき、ミーティングを重ねていきました。
以前、老人保健施設協会の事例発表会に参加した経験があったので、それを参考に、重度訪問介護での事例を多く集めることで、現場の学びや気づきにつなげてみようと考えたんです。
そこで、全事業所(57事業所)から1事例ずつ集めることにして、2ヶ月かけて57事例を収集しました。
ただ、事例を集めて発表するだけでは、イベントとしての盛り上がりに欠けるかなと思って、それぞれのブロック内でオンライン事例発表会を開催することにしたんです。



私も幾度か見に行きましたが、非常に感動しましたね。
私たちが高齢者介護の世界で、それぞれの裁量の中で行ってきたことが、このプロジェクトに結実したんだと感じました。
そして、「活きるを支える」という視点で事例発表会を見た時に、改めて重度訪問介護との相性がすごくいいと思いました。
高齢者介護を振り返ってみると、時間や人員の制約から、どうしても諦めていただくしかない場面も実際にありました。
その点、重度訪問介護は一対一で関わりますし、見守り待機の時間が長いクライアントも多くいらっしゃいます。
長時間、その方の生活に寄り添うからこそ、日々の会話や小さな変化の中から、その人が本当に望んでいることに気づくことができる。
そういう意味においては、重度訪問介護では「活きる」を支える視点を持つことで、意識高く、諦めさせることなく、人生を支えられると思いましたね。



本当にそうですよね。
実は今回、事例を集めるにあたって「なかなか事例が出てこない事業所もあるのかな」と思っていたんです。
でも、実際には予想以上に多くの事例が集まり、「これ以上は挙げていただかなくても大丈夫です」とお願いしたほどでした。
逆に言えば、なぜ今まで重度訪問の中で、こうした事例発表の場がなかったんだろうと思うくらいです。



土屋社内では確かになかったですね。
私は土屋入社前からこの視点を持って、ホームケア土屋のリーダーとしてずっと務めてきたわけですけど、そこに着手できるタイミングがなかったように感じています。
何より、そこに自分が着手すると途中で止まってしまいそうだなと。
一人で進めるのが難しい中、今回小川さんと認識が一致し、実際に動かしてくれるリーダーが現れたタイミングがまさに今だったと思います。
ただ、現場ではこのような視点を持って動いていたアテンダントは常にいらっしゃったはずで、 それが表に出ていなかっただけなんですよ。



本当にそう思います。
現場では、すでにさまざまな取り組みが行われていても、それが表出されていなかっただけなんですよね。
今回、こうしたプロジェクトを始めたことで、現場の中にすでにあった想いや実践が見える形になったのだと思います。
それに、これほど多くの方が協力的に参加してくださったことを考えると、実はみなさん、こういうプロジェクトを求めていたんだとも思います。
「いいよね」って思ってくださる方が、圧倒的に多かったんだろうなと思っています。
第4章 想いは受け継がれる ―次のリーダーが生まれる組織へ―



現在、事例発表会は全ブロックで完了していますが、そこから見えてきた課題感などはありますか?



言い方が適切かどうか分からないですけど、今回は「ノリ」という感じで、「こんな風にしたら面白いんじゃないかな?」くらいから始まったんです。
けれど、もっと違うやり方や、もっといい方法もあったと思いますし、今後は僕自身がリーダーとして進めていく必要はないとも思っています。
おそらく今は、石を投げて波紋が広がっているような状態なので、誰かににバトンを渡すと、手を挙げてくれる人はたくさん出てくると思うんですね。
これまで重度訪問では「手順書通りにすればいい」と指導されたり、OJTでもそう言われていて、「そこをきちんとしていれば問題ないんだな」と思われている方が多かったと思うんです。
でも、クライアントに長く寄り添っていると、その人自身のことや、本当に望んでいることが少しずつ見えてきて、そのプラスαの部分を、我々がどのように支えられるのか、どのような提案ができるのかによって、サービスの質はさらに高められると思っています。
今は、そこに一石を投じているような感じです。
なので、土屋の中で「自分もそういう支援をしてみたい」と思う方がどんどん出てきて、この想いを引き継いでくれる新たな人材が生まれてくれることを願っています。



そこは、全体のマネジメントと重なる部分ですね。
私こそが小川さんに対して、まさにそう感じています。
小川さんはこのプロジェクトにおいて、すでに自立して、ほぼ自走しているので、私がほとんど介入しなくてもよい状態が実現されています。
これはマネジメントにおいて非常に重要なことだと思っています。
自分がすべてを担うのではなく、きっかけをつくり、次の人が自ら動ける環境をつくる。
その役割を、今まさに小川さんが担ってくれているんですよね。
でも、実はこれはすごく難しいことで、やはりどうしてもどこかで介入しないといけない、方向修正をせざるを得ないことが起こってきます。
きっかけを作るだけにとどまらないところがあるわけですけど、それがこのプロジェクトに関しては小川さんが自走してくれている。
なので、私はほぼノータッチで、皆さんのお話を聞いて楽しみ、感動して泣く。
これだけをできる状態になっている。
これがとても嬉しいことですし、大きな意味を感じています。
そして、他にもすべきことがいくつもある中で、今後もそれぞれのリーダーが自立し、自走できる状態を増やしていくことができれば、それは土屋という組織の成長につながり、より大きな可能性や広がりを生み出していくのだと思います。
第5章 活きるを支える想いが、未来へ広がる ―社内から社会へ―



今後は、どのような形でプロジェクトを進めていく予定ですか?



今回の事例発表の中から、より全国に伝えたいと思う事例を各ブロックで2つずつ選んでいただき、現在12事例が出揃いました。
今後は、その12事例を発表する全国大会イベントを、今年の秋にオン・オフのハイブリッド形式で、岡山の本社にて開催する予定です。



ぜひこれは、土屋の社外にも発信していただきたいですね。
「重度訪問介護って、そんなこともできるんだ」と、重度訪問介護の持つ可能性や魅力が多くの方に伝わることを期待しています。
それに、このプロジェクトを進めていく過程で、土屋のアテンダント自身にも「業務の中で、その人らしい生活につながる関わりをしていいんだ」という気づきが生まれると思います。
そうした意識が広がることで、「重度訪問介護では、こういう支援もできる」という空気感や文化が組織の中に根づき、それができる環境が整っていくことにも期待しています。
クライアント一人ひとりの人生を考えた時に、これはとても重要な視点だと思っています。



まさにそう思います。
重度訪問の可能性を、ここからどこまで広げていけるのか。それを考えると、とてもワクワクする取り組みですね。
それに、いずれは土屋だけが主体となって行うのではなく、例えば全地連のような公益的な団体が主催し、そこに重度訪問介護に取り組む事業者が参加して事例を共有していく。
そうした形が本来あるべき姿だと思っています。
その前段階として、まずは土屋の中でしっかりと取り組みを構築し、ノウハウや考え方を蓄積した上で、再来年にはそうした段階に進めていきたいと思っています。



それはいいですね。全地連ですか。



はい。
それにこのプロジェクトは、高齢事業部にも汎用性があると思っています。
それぞれの事業には、それぞれの人生やストーリーがあるので、それをきちんと事例として形にし、発信していくことも考えていきたいです。
ただ、まずは重度訪問介護の中でしっかりと実践し、どのような形でまとめていくのかまで丁寧に取り組んだ上で、その先の展開を考えていきたいと思っています。
自分にとってのライフワークですね。



ありがとうございます。
改めて、お二人の関係性と、このプロジェクトが生まれた必然性を感じました。
星さんが大切に温めてきた想いを小川さんが受け取り、ご自身の経験や想いと重ねることで、このプロジェクトが花開いた。
そして、その想いはまた次の担い手へと受け継がれていく。
そんな未来を感じる対談でした。
お二人にとって、お互いの存在があったからこそ、この取り組みが形になったのだと思います。
「活きるを支える」という考えは、決して誰か一人の想いだけで終わるものではなく、星さんから小川さんへ、小川さんから次の担い手へ。
その想いが受け継がれることで、支援の可能性がさらに広がっていくのだと思います。
第2部はこちらからご覧ください。














