クリームパンから足になろうか。 / 鶴﨑 彩乃

クリームパンから足になろうか。
鶴﨑 彩乃

「春はあけぼの」この一言を読んで、学生の頃の記憶がよみがえった人は国語の授業が好きな人だったのだろう。私はそこそこに好きだったが、なんで枕草子や平家物語を暗唱させるのかは、大いに疑問だった。大人になってから枕草子の内容にふれる機会があって、「春は明け方がめっちゃいいのよ!夏は夜よねっ!月が出てるとなお良いわぁ〜。」みたいな内容だということを知って清少納言を身近に感じた。

そこで、清少納言さんに相談があるんですけど、「春はあけぼの」ってとこ、「春はしんどい。」に変えません?まぁ、不採用に違いないだろう。しかし、私にとって春は相当しんどい。乱高下する気温、それに合わせた難しすぎる服選び。体温調節がしづらい私にとっては、日々を送るだけで深すぎるため息が出るのだ。

そんな中、新しいヴィランが現れた。「むくみ」である。正確にいうと、むくみの症状は出ていたかも知れないが、私はそこまで深刻にとらえていなかっただけである。自分のことながらつくづくアホである。それでも、優秀なアテンダントさんは気づいてくれるのだ。

ある朝、「いつもより足、浮腫んでません?スニーカー、キツくないですか?」と。そう言われて、頭を下にする。自分の足を見て、「クリームパンに毛虫が5本生えとるなぁ。」と思い、それを口にする。アテンダントさんは少し笑って、無理しないでくださいね。と私に靴下を履かせた。

その日はちょうど訪問リハビリの日。足に違和感を覚えたわけではないが、話の種程度に朝の一コマを話した。すると、仲の良い先生が靴下を脱がせてボソッと言った。「これは、すごいな。パンッパンッだね。腎盂腎炎になるかもよ。」

それを聞いた私は、背中がスーッと寒くなった。もちろん、彼女が私を脅すような言い方をしたわけではない。ただただ、身に覚えしかない私が勝手に震え上がっただけである。過去に腎盂腎炎ではないけど、血尿を出したことがあるからだ。あのときの苦々しい記憶を思い出しながら恐る恐る改善策を聞いてみた。「どうしたら、むくみマシになるん?」と。そうしたら、彼女は笑って「水分もうちょっととって、少しでいいから足上げる場面、つくってみて。」と教えてくれた。

言い訳をするなら、幼少期からトイレ介助を頼まないといけなかったため、トイレコントロールの一環で無意識的に最低限の水分補給になっていたのだと思う。それに、「水」の味が苦手なため、さらにといった感じだ。しかし、言い訳はどこまでいっても言い訳だし、何より腎盂腎炎は恐怖でしかない。それを回避するには即実行。

リハビリ終了後、アテンダントさんが来てくれたタイミングでお茶の量を増やす。しかし、問題はひとりの時。私がどんなコンディションでも、冷蔵庫から出せるモノは小さめのコーヒーぐらい。そのため、台所で薬だと思って水道水を飲むことにした。そこは、本当にバリアフリーの市営住宅でよかったと思う。そして、夜寝る前にベッドのギャッチアップ機能を使って、足を数十分上げてから眠りについた。

するとどうだろう。ガチで足が3分の1ぐらいになっていたため、すごく驚いた。昨日のクリームパンは、どこにいった?指も長くなった気がした。それに、ウチに来てくれているアテンダントさん達は褒めるのが上手い。「介助が軽くなった。」「靴が履かせやすい。」等々、もうご満悦ですよ。はい。

半日でこんなに成果が出るということは、水分の重要性の表れだと強く感じた。これから、太陽が本格始動する季節。今年もどうせ40℃を超えてくるのだ。水分をよく摂って、体調を大きく崩さないことを考えよう。

◆プロフィール
鶴﨑 彩乃(つるさき あやの)

1991年7月28日生まれ

脳性麻痺のため、幼少期から電動車いすで生活しており、神戸学院大学総合リハビリテーション学部社会リハビリテーション学科を卒業しています。社会福祉士・精神保健福祉士の資格を持っています。
大学を卒業してから現在まで、ひとり暮らしを継続中です。

趣味は、日本史(戦国~明治初期)・漫画・アニメ。結構なガチオタです。

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