「エンタメのバリアフリー」~3 / 片岡亮太

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「エンタメのバリアフリー」~3
片岡亮太

10歳の時を境に、特定のジャンルからの「卒業」を余儀なくされたアニメやゲームとの関係。

『ドラゴンボール』も『ドラゴンクエスト』も、弱視だった頃のように楽しみたいという思いはあっても、視覚情報を得られないがゆえに、その気持ちを満足させることとはできない。

そんな、全盲になったことで抱くことになった、「好きだったものから置いてきぼりにされた」という寂寥感は、本音を言うといまだに拭いきれてはいません。

ただ、そういう満たされない気持ちがあったからこそ、視覚を持たずとも思い切り楽しめる音楽に情熱を向けられるようになったり、言葉で全てを表現している小説の世界に没頭する面白さを知れたのだと思えば、アニメやゲームと距離を取らざるを得なかったことは、僕にとって新たな世界の扉を開くきっかけであったとも言えます。

ところが近年、そんな状況が大きく変わってきました。

例えば、テレビ番組の映像を音声で説明する「音声解説」。

かつては、ごく一部のドラマ、特にサスペンスものとか、福祉関係の情報番組にしか付与されていませんでしたが、最近は、あらゆる種類のドラマやバラエティ番組もその対象になりだし、それこそドラゴンボールをはじめとする、子どもたちが楽しみにしているアニメも、解説を聞きながら鑑賞できるケースが増えています。

だから最近は、どんな番組を見るときにも、とりあえず一度はリモコンの音声切り替えボタンを押してみる、そういう新たな「当たり前」が身についてきました。

さらに嬉しいことに、近年テレビ番組の視聴における主流の手段となり始めている、各種配信サービスにも音声解説が対応しており、設定上で解説のオンオフを選択できたり、同一番組の「解説放送版」が別途アップロードされるなど工夫されています。

テレビ番組の制作において、音だけで楽しむ視覚障害者の存在が当たり前に視野に入り出し、そして種々の技術もまた、そういう視点を後押しできるようになってきている。

この変化には大きな喜びを感じています。

それこそ、『ドラゴンボール』や、最近人気の『鬼滅の刃』をはじめとする、スピーディな格闘シーンが印象的なアニメで言えば、まるでラジオで流れるスポーツの実況中継を彷彿させる解説がされており、見事としか言いようがありません。

こういった変化は、テレビだけでなく、映画にも生じています。

以前ならテレビ番組同様、音声のみを味わう、あるいは誰かに説明してもらわなければ、ビジュアルの情報を得ることが叶わなかった映画。

ただ、テレビで放映されてそれを自宅で見ている時ならまだしも、他のお客さんもいる劇場で、隣にいる家族や友人に映像の説明をしてもらうのは少々気まずい。

だから、興味のある映画が公開されても、来場を躊躇してしまう、そういう気持ちをずっと抱えていました。

ところが今は、スマホを通じて劇場で鑑賞している映画に、リアルタイムで音声解説を付与し、その音声をイヤフォンで聞くことができるアプリ、「HELLO! MOVIE」(https://hellomovie.info/)や、「UDCast」(https://udcast.net/)が、最新の映画を続々とバリアフリー化してくれています。

また、不朽の名作やDVD化されている映画については、「シネマデイジー」と呼ばれる、映画の音声と、音声解説の音声とを合体させた「音だけの映画」にしたデータを、オンライン図書館上でダウンロードすることができるようになったりと、映画を自力で楽しむ手段が複数生まれています。

こういった新たな技術のおかげで、サスペンスのドラマや映画において、謎解きのキーになるシーンで、急に無音になって、何が起きたかわからなかったり、BGMが流れる中、セリフなしで物語が進行し、全く理解ができないシーンなど、それまで耳だけでは十分に理解できなかった場面を、ストレスなく、そして誰の力も借りることなく味わえる、今はそんな世の中になってきました。

見えていた時には当たり前だったけれど、全盲になったことですっかり忘れていた、テーマソングと共にエンドロールが表示されている背景で、物語の後日談が映像で表示される、そういう演出も、数十年ぶりに楽しめるようになり、筆舌に尽くしがたい感動を味わっています。

さらに、未体験ではありますが、最近は、海外のメーカーを中心に、いわゆる「RPG」に属するゲームソフトもバリアフリー化できないかと、様々な試みが行われている様子。

そういった目的ではありませんが、以前は文字でしか表示されなかったキャラクターたちのセリフを、役者さんが実際に声で演じている作品も増えており、それを聞いているだけでも物語の内容が理解できるため、時折僕は、動画サイトに公開されている「ゲーム実況」と呼ばれる、テレビゲームをプレイする様子が撮影された動画を通して、子どもの頃にやりたかったゲームのリメイク版などを視聴することをひそかな楽しみにしています。

時として、「ああ、子どもの頃にこういう状況があったらよかったなあ」と、無性にうらやましくもなりますが、僕が子どもだった頃には、夢として想像することさえできなかった、視覚障害のある子どもたちが、ジャンルを問わずにアニメを楽しんだり、ゲーム世界の物語の中で心を躍らせることが当たり前の社会が、今どんどん現実のものになっていることが、嬉しくてたまりません。

多くの子どもが手を伸ばしているコンテンツに、障害のある子どももまた手が届く。

目が見えない子は音だけで聞き、耳が聞こえない子は字幕で読むなど、それぞれに手段は異なるかもしれないけれど、同じ作品、同じゲームを同じ時代に楽しんだ、そういう経験は、きっと会話や関係性を構築する上で大きな足掛かりになるはず。

アニメもゲームもドラマも映画も、どれ一つとして生活必需品ではありません。

けれど、障害の有無という違いを超えて、そういうものの面白さを共有した時、僕たちの心は高ぶり、喜びを生み出すはず。

それは大人にも言えること。

事実、我が家で、音声解説のあるドラマや映画を一緒に鑑賞している時、僕も、目が見える妻も、この上ない幸せを感じています。

大人になってから失明されたり、高齢になってから全盲になった方たちにとっても、視覚に訴えるものを耳で楽しめる手段が増えていることで、楽しみの幅はぐっと広がっていることと思います。

きっとそのうち、VRやARといった最新技術にも、バリアフリーが可能になっていくのでしょう。

具体的にどんなことが起き得るのか予想もできないし、その進化に、アナログ思考の僕の心がついて行けるかはわかりませんが、約30年前、失明した頃の僕が知ったら、まるでSFのように感じるであろう、現代社会で実装されている「エンタメのバリアフリー」をもっともっと楽しめる未来、心待ちにしています。

プロフィール
片岡亮太(和太鼓奏者/パーカッショニスト/社会福祉士)

静岡県三島市出身。 11歳の時に盲学校の授業で和太鼓と出会う。

2007年 上智大学文学部社会福祉学科首席卒業、社会福祉士の資格取得。

同年よりプロ奏者としての活動を開始。

2011年 ダスキン愛の輪基金「障害者リーダー育成海外研修派遣事業」第30期研修生として1年間単身ニューヨークで暮らし、ライブパフォーマンスや、コロンビア大学内の教育学専攻大学院ティーチャーズ・カレッジにて、障害学を学ぶなど研鑽を積む。

現在、国内外での演奏、講演、指導等、活動を展開。

第14回チャレンジ賞(社会福祉法人視覚障害者支援総合センター主催)、
第13回塙保己一(はなわ ほきいち)賞奨励賞(埼玉県主催)等受賞。

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