兄がいなければ… / 渡邉丈寛

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兄がいなければ…
渡邉丈寛

『洋ちゃんがあんた達の悪いとこもらって産まれてきてくれたんだよ。だからあんた達は洋ちゃんに感謝しなさいね』

三兄弟で一番上の洋介が脳性麻痺として産まれ、私や弟はそう母親から言い聞かされて育ちました。

今思えば一番上が弟達のものを背負って先に産まれるのは時系列的におかしいような気もしますし、弟達に恩着せがましいこの母親の発言は問題な気がします。

が、当時は何の疑いもなく『そっかあ』と、兄に感謝の気持ちを持ち合わせていました。

なのでいつかは自分が人任せにせず、親や兄の面倒をみるのは当たり前だと考えていましたし、今現実として支えております。小さい頃の『兄に対する感謝』はそういう事だと思っていました。

母は『感謝せよ』と言いつつも、兄の事は全て自分一人でやっていました。

兄の排泄の介助なんて成人した頃の私自身でさえ数回程度しか経験がありませんでした。それでも「いつかは自分が…」と考えていました。

元気だった父が54で癌で亡くなった時、兄の介護を自分がやらなければいけない日が近づいているような気がしました。

どこかでしっかり経験していないと、それこそ仕事としてやっているくらいの経験がないと、自分には兄の事はこなせないなと思いました。

漠然と40歳前後にはそういう体制に入らないといけないと考え、40になった頃、障害福祉の道に進みました。

今現在、ホームケア土屋新潟事業所の管理者を任され、まだまだこの社会に浸透しきれていない『重度訪問介護』が必要な小さな声を探し求める時、今までの自分が考えていた事とは逆の話をする場面があります。

『家族だけで背負わないで』

使命感にかられて、自分だけが「兄の事…」と考えてきましたが、「自分だけじゃない、人に支えられる事も重要なんだ」と思うようになりました。

障害があろうが、健常であろうが、どちらにせよ一人では生きていけない世の中です。

世の中には、もっと追い詰められている状況で支援を望む人、家族が絶対います。

そんな人達に一人でも手を差し伸べることができたらな、と思うのです。

新潟事業所は開設して1年が経ち、どこの事業所にも引けを取らないアテンダントが揃いました。

これからもっともっと小さな声を探し求めていく。

こんな風にこの道に進んだのも、この業務に前向きに考えられるのも、母と兄のおかげなのかもしれません。

プロフィール
渡邉 丈寛 ホームケア土屋 新潟

1979年 新潟市生まれ
ホームケア土屋新潟 管理者兼コーディネーター
2020 9月 障害福祉の道へ
2022 2月 株式会社 土屋 入社
2022 5月 ホームケア土屋新潟 管理者件コーディネーター 拝命

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