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『下手くそだけど、伝えてみる』 / わたしの

『下手くそだけど、伝えてみる』
わたしの

気持ちに向き合ってくれないことが続くと、誰だってあきらめる。言ったって無駄だって思うよ。当然でしょ?

何も言わないでいると、言わない方が悪いとか、言わなきゃ分からないよとか、気持ちを言葉にするのが下手とか、困難とか言われるけれど、本当は、もう何も言いたくなくなっちゃっただけなんだ。

ちょっと自分の気持ちを伝えたら、ぶたれた。怒られた。あからさまに機嫌が悪くなった。

馬鹿なこと言うんじゃないと否定された。悲しませて、胸を痛めて寝込んじゃった。泣いちゃった。

そうすると、僕があんなこと言ったから状況が悪化してしまったんだと自分を責める。僕が自己表現したばっかりに世界が暗くなった。

誰かを傷つけてしまった。ちょっとした自分の願望を出したばっかりに滅茶苦茶になってしまった。

誰が悪いんだ?自分が悪い。少し調子にのってしまって、はしゃいで、油断して、気を抜いて、したいことを漏らしてしまった。そこから壊れちゃった。僕が悪い。

そして、僕はもう何も言っちゃいけないことを学んだ。欲望してはいけない。浮かれてはいけない。

言わなきゃ分からないって言うけど、じゃあ言ったら分かってくれるの?

人の気持ち。目に見えない。本当によく分からないだろう?

その一言が胸を切り裂き、粉砕していることも、見えないんだから気づかないだろう。この痛み。

人の気持ちも分からずに、思いに任せて振り回す言葉の刃。痛みを押し殺し、沈黙し、ただただ忍従するしかない。

どうしてそうなっちゃったんだろう?

どうして君は心が見えないの?分かってくれないの?

子どものころ、誰も気持ちに向き合ってくれなかったのかな。だから人に気持ちがあることの実感がない。

気持ちを感じることがよく分からない。

人が悲しみ、苦しみ、寂しがり、喜び、満たされることがよく分からないのだろうか?そのまま大人になっちゃったの?

苛々する。苛々する。

もし君が怒りに任せて、地獄の業火に次から次へと薪をくべて、地平の限りを焼き尽くそうとしていたら、僕は身を焼かれることを厭わず抱きしめて「どうして?」「今はどういう気持ち?」「その気持ちに僕は向き合うよ」と言ってあげられる・・・余裕なんか・・・どこにあるんだい?

もう手遅れだ。もう手遅れ。手遅れ。遅いよ。

どうしよう?黙って生きようか。身を隠して生きようか。

仕方ないよ。そう思うしかない。だって気持ちは見えないんだもの。この世界には、見えないものは「ない」って言う人が大勢いるし。

それよりも見えるものを追うこと、見えるものを増やすこと、伸ばそうとすることにみんな躍起になっているじゃないか。伝染病に罹ったみたいに、見えるものに価値があり、その価値を高めようとしてうなされながら徘徊している。

必死にかきあつめている。

・・・仕方ないよ。本当に大切なものは目に見えないんだから。

どうせ分かってくれないよ。いいよ。もういい。

それとも、分かってほしいって伝えた方がいいかい?見てほしいんだ。知ってほしいんだ。聞いてほしいんだ。いい加減にやめてほしいんだ!もううんざりなんだ!

全て放っておいて、せめて僕だけでも。きっと、誰かの、気持ちに向き合いたいと願うけれど、到達できない。

それは相手も自分自身の気持ちがよく分かっていないことがあるからなのかもしれない。平然としていたって、本当は不安でいっぱいだってこともある。

大丈夫だろうと安心しきっちゃう。忙しさにかまけて、誰の心も感じようとしなくなっちゃうし、心を感じようとすることは非常にエネルギーがいる。

どうしたらいいのかな?

向き合う時間は必要だろう。聞き出す時間ではなく、気持ちが言葉になっていく時間かな。あとは何気ない対話とか。ジャッジしない姿勢とか。

もっとも大事なのは心を感じようとすること。それを続けること。

本当に大切なことは、目に見えないから、だから感じようとしなきゃいけない。

自分は誰にも本当の気持ちを言えないくせに、誰かの心を知りたいと願う。

気持ちを言えないからこそ、心を教えてほしい。僕はだめだけど。

あるとき、僕は見たんだ。
激しい風の中で、友だちが拳を握りしめていた。

鋭い目をして怒りをあらわにしていた。泣き叫んで、悔しさを全開で伝えようとしていた。その姿に、僕は心を撃たれた。

「おまえはえらいな」「ちゃんと自分の気持ちが言えるんだな」「すごいなー」

自分の気持ちを言葉で表現できるのってすごいな。まっすぐに言えるのってすごい。

別に言葉を巧みに操れなくてもいい。言葉なんてどうでもいいけど、気持ちを表せることがすごい。

いい。やだ。すき。きらい。こわい。たのしい。ドキドキする。かなしい。さみしい。うれしい。もっとほしい。これをしたい。やってみたい。

言葉でも、体でも、目玉でも、オーラでも。なんでもいい。

最悪、どんなことをしても伝えられないとしても。

それでも、伝わらなくても、伝えることをあきらめていないことがすごい。それがすごい。誰にもできることじゃない。

本当の強さ。それがすごい。やっぱり、あきらめちゃいけないんだ。

いや、あきらめさせちゃいけないんだ。誰にもあきらめさせちゃいけない。あきらめちゃいけないし、あきらめさせてもいけない。

下手くそな言葉を、まっすぐに届ける。流麗でもないし、論理的でもないけど。ゆっくりでいい。難しいことなんていらない。不器用に、とつとつと伝えるしかないよね。

言葉なんていらない。身振り手振り。一生懸命伝えればいいさ。

誰かが僕に心を伝えてくれた。
だから僕も伝えよう。
伝えてみる。

いらない!やだ!きらい!好き!嬉しい!これがしたい!僕はこうなりたい!

下手くそだけど、伝えてみる。

プロフィール
わたしの╱watashino

1979年、山梨県生まれ。

バンド「わたしの」
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