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『組織的に支え合う』 / わたしの

『組織的に支え合う』
わたしの

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「人材育成」育てる者が育てられる / わたしの | 重度訪問介護のホームケア土屋

土橋:数回に渡って知的障害者の通所(日中活動)、生活介護施設で働いています笹山さんにお話を伺っています。

最近は身体拘束の適正化の動きもあり、人権擁護・虐待防止についても施設でさらなる取り組みが求められていますね。それでも施設内虐待のニュースが後を絶ちません。

笹山:うちでも研修を実施します。年に一回、チェックシートを付けることもします。

施設内の虐待などについて言及する前に、一つ家族の虐待について話してもよろしいですか?

土橋:はい。

笹山:家族とは言え、虐待はもちろんいいことではありません。

それを擁護する気はまったくないことをはじめに断っておきます。

そのうえで、私が出会ったケースのほとんどが、家族が困っているという状況でした。

虐待はよくない。虐待する者は心のない悪で、取り締まり、根絶するべきだと明確に線が引ければこんなに楽なことはないなといつも思っていました。

そうじゃないんです。家族もどうにかしようとしていて、あがいていて、それで虐待のような結果になってしまう。

繰り返しになってしまうけれど、それは許されることではありません。

しかし、「やめてね」「はい、わかりました」で済む問題でもない。家族が追い詰められている場合がある。

土橋:ニュアンスが難しいですね。

笹山:虐待をなくそうとして家族にストレートにアプローチすることで、さらに追い詰め、孤立を深め、逆効果を生み出すことになります。

誰からも理解されないという絶望に追いやる結果となってしまうのです。

だからといって見過ごしていいことではありません。かなりアプローチが難しい。

そこに関わる人は相当高度なマインドと技術が必要となってきます。

それと同じことが施設内における虐待問題にも言えるのかなと思います。

土橋:職員が追い詰められるという問題ですね。

さらに、個人の問題を超えて、組織の問題として捉えなおすことも必要ということですか?

笹山:五年前くらいに、私の施設でも虐待とまではいきませんが力による支援をする職員がいて彼との対話にとてもエネルギーを使いました。

外に出ていこうとする利用者を無理矢理椅子に座らせたり、気分が高くなって手が出そうなときは羽交い絞めしたり。

彼はしきりに「伝えたい」「教えたい」と言うのです。利用者も伝えれば分かってくれるのだ、と言うのです。

そしてその伝える方法が言葉では駄目だから、力で伝えるのだ、と。

スパルタというのか、どこかのヨットスクールではないですが、そのようなマインドがあるのです。

土橋:その職員なりに「利用者のため」を思っているわけですね。

これが利用者に害を与えてやろうという話なら、それはよくないということですっきりするのでしょうけど………。

笹山:そうなんです。利用者のためを思い、大切に思うがゆえに、力で教えると彼は主張していました。

そして、教えなくてもいいならその訳を説明してくれとも言いましたし、あんたたちは彼らの成長を信じていないのかとも訴えていました。

土橋:そんなわけではありませんよね。

笹山:それはもう平行線でした。60代で、かなり年齢のいった方だったのもあるかもしれません。

彼の価値観を変えることは最後までできませんでした。彼は半年で辞めていきました。

私はそのとき一支援員でしたが、彼の所属するグループのリーダーでもあったので、意見交換をする場面も多かったですが、話が嚙み合わず困りました。

成長を阻んでいるあんたたちの方が虐待をしている、と逆に言われました。

土橋:組織的にどのようなことをしたんですか?

笹山:途中からは当時の主任や施設長が話をしてくれるようになりました。お二人も相当苦戦したようです。

彼が激高して怒鳴るような場面もあったようです。

全体で虐待防止の研修や意見交換を企画しましたが、そういうときに限って欠席するんです。

一番参加してほしい人が参加しないって「あるある」でしょうか。

土橋:「あるある」です(笑)。

笹山:とにかくですね、この問題は実に白黒はっきりしないというのか、勧善懲悪のストーリーではいかないのだということを教えられました。

ただし、虐待を受けている人はすぐにでもなんとかしなきゃいけないし、守らなければいけない。

土橋:グレーゾーンのこともありますよね。

私も先日、新人さん向けの研修で虐待防止についてお話をする機会がありましたが、一先ず虐待防止法の説明をし、虐待の定義はこれですと示した後で、それでも現場で働く中でもやもやする部分が必ず出てくることを伝えました。

これはどうなのかなとちょっと迷いながら、それでもせざるを得ないという状況が必ず来る、と。

そのとき「ま、いいか」で進むのか、誰かに相談するのか、そこが大きな分かれ道になってきます。

職員個人の相談する力があるかどうかの問題ではありません、

周囲に相談しやすい雰囲気があるかや相談する仕組みがあるか、それが重要だと思います。

笹山:そうですね。組織的に支え合えるということが大事ですね。

土橋:三回に渡って笹山さんにお話を伺ってきました。

主任という立場からの興味深いお話、ありがとうございました。考えさせられることが多かったです。

笹山:こちらこそ。楽しかったです。また呼んでください。

土橋:はい。声を掛けさせていただきます。それでは、ここまでで終わりといたします。

プロフィール
わたしの╱watashino

1979年、山梨県生まれ。

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