『幸せの原体験』【前編】
わたしの
土橋:経歴の断片を聞いて、詳しくお話を聞いてみたいなとずっと思ってました。
光さんは40歳のときに全然別の業界から、この知的障害者支援の仕事に転職されたんですよね。
光:そうなんです。
土橋:そこから都内の就労継続支援B型の作業所や生活介護を経験して今に至るというのが、ざっくりしすぎていますがご紹介です。
今日はよろしくお願いします。
光:よろしくお願いします。
土橋:まずはこの質問からさせてもらいたいのですが、光さんは子どもの頃は何になりたいとかあったんですか?
光:記憶では「ちり紙交換」をやりたかったです、リアルに(笑)。
土橋:「ちり紙交換」ですか(笑)。
今の人は「ちり紙交換」知ってるんですかね?
光:どうでしょう?
土橋:今でいうところの「雑紙」などを軽トラックで回収して回るんですが、スピーカーで「ちり紙交換、ちり紙交換」ってアナウンスして町内をゆっくり走るんです。
それが聞こえると家の人が「雑紙」を持って外に飛び出して行って渡すと、その量に合わせて代わりに「トイレットペーパー」をくれるんですよね(笑)。
でも、ちょっと待って…何でなんですか?
光:あのね、結局「車」なんですよ。気づいたときは車が好きで、超合金とかではなくて、ミニカーばっかりみたいな子どもでした。
将来、車を運転する仕事ということで「ちり紙交換」が目についたんでしょうね。
土橋:なるほど。「ちり紙交換」が身近にあって、それを見て「あの仕事いいな」って思ったんですね。
光:そこから大きくなるまでは、これといって夢はなかったですね。
土橋:同じ車ですが、F1とかもブームの頃ではなかったですか?
光:まず、競争物にはまったく興味がなくて、モータースポーツとか全然分からないんです。
土橋:違うんですね。
光:全然違う。
鉄道好きでもいろいろあるじゃないですか。
それと同じで、車好きにもいろいろあるんです。
一般的な子どもが飛びつくような「スーパーカー」は全然駄目で、私の場合はタクシーで使われているような車とか、セダンとか、そういう身近にある車が好きでした。一般的にはダッサダサの車ですね(笑)。
自分が小っちゃいころに走っていた車が今でも好きですね。
これは車好きに共通するところでもあるかもしれないけれど、子どものころ憧れていた車、見ていた車、家で持ってた車を、自分が成人になって、社会人になったときに購入して、自分で運転できるところに喜びを感じる人が多いです。
私も自分が中学生くらいのときに現役だった車に、今でも一番興味がありますね。
土橋:うんうん。華々しいスポーツカーとかではなくてね…。
光:私の人生通してメインストリームからあえてズレていくみたいなところはありますね(笑)。
土橋:そういう部分では、自分もメインストリームに行ってなるものかと思って生きてきたところがあって、「映画」でも「本」でも流行りのものとかにすぐに飛びつけないんです。
あとあとになって、二年後とかに結局は見て、ああいい映画だったんだな、何で早く見なかったんだろうって思うんですよ。少しひねくれているんです。
光:私はひねくれている部分もあるし、そもそもメインストリームに行けないんですよ。
学生時代のクラスで言えば、盛り上がっているグループに参加できず、はじっこで暗く過ごしている感じです。同じような輪に入れない変な奴が何人かいて、その中で友だちが一人見つかるみたいな(笑)。
土橋:共感できます。
◇
土橋:大学時代はどうされていたんですか?
光:車つながりで、車のサークルに入ろうと思ったんだけど、そこにいる人たちとは何かが違うような気がして、やっぱり走り屋さん系なんですよね。これは命を失うなと思って(笑)。
あまり好きでもない自転車のサークルに入るんですけど、結構体育会系で…。
もう少し別の居場所を探そうかなというときに、そこではじめて福祉系というか、ボランティアサークルに入るんです。
土橋:そうなんですね。
光:そのときは奉仕とか誰かを助けたいとかではなくて、何か変わったことがしたかったんですよね。
障害のある方をサポートする…なんかいいじゃんみたいなノリで入ったんです。
そしたら、そこに集っている人たちとは同じ温度を感じたというか…。
土橋:(深いうなづき)何なんでしょうね、それは。
ここはきっとポイントですよ。同じ趣味とかではなくて、そこに集まってきていた人たちとは同じ温度を感じた。
何だろう?どうしてだろう?
光:それはちょっと分からないんですけどね…。
今思えば全員ばらばらで、みんなと馴染んだという訳ではないんだけど…。
たまたま学園祭があって、サークルでもイベントをやるんですけど、そこで「お化け屋敷」をやったんです。
全然福祉と関係ありませんが。
部屋を借りて段ボールで「お化け屋敷」を作るんだけど、そういうのはもともと好きだったんで、そこでデビューできたんです。
そこで活躍できたんです。周りの人からも「結構器用じゃん」って言われて…。
そこで自分の立ち位置みたいなのができて、そこからだんだんとそのサークルの居心地がよくなっていったんです。
さらに後輩が入ってきたりして、後輩との関係とか新たにできてくる中で、自分の大学生活においてボランティアサークルがメインのステージになっていったんです。
土橋:周囲から認められることで、光さんの居場所ができている…。
福祉に集う者たちの魅力って何なんだろう?
【後編】へつづきます。