苦い味を超えて、身の丈で遊べ。
鶴﨑彩乃
アメリカのテーマパークで、ギャン泣きをした。キャストさんはあたたかく見守ってくれていた。あのときが自分の障害に対して理解から納得への第一歩目だったかも知れない。
海外のテーマパーク、羽が生えたぐらい楽しみにしていたアトラクション。それが、身長制限と障害状態が原因で乗れないという事態だった。
誰も悪くない理由。むしろ、当然の理由。でも、そのときの私は、私の全てをテーマパークという非現実的な楽園に全否定された気になって、涙があふれてとまらなかった。
あの感情を正確に言い表せるほど、私に語彙力はないが、とにかく苦い味がした。今から25年ほど前の話である。その数年後に日本にもそのテーマパークが完成し、満を持して待望のアトラクションに乗ることができた。
しかし、そのときは派手に動く「乗り物」に身体を上手く対応させないといけない。もうね。運動よ。運動。「楽しい」とかいう感情は車いすに置き忘れた。そして、ジェットコースター系特有の胃が浮く感じが好きだったのに、いつの間にか嫌いになった。
身体が老けた。とは、言わせない。だって、そのとき私は小学校低学年。まだ真実を受け止められるほど、精神力がないわ。
「楽しく乗れるアトラクションが少ない。」ということを自分自身で自覚するようになると、テーマパークから距離を置くようになった。嫌いになったわけじゃない。「みんなと違う。」という事実から目を背けていたかったのだ。
転機が訪れたのは、大学入学直後。仲良くなった友達と、テーマパークに行くことになった。断る理由はないが、1番仲のいい子に「迷惑じゃないか?」と聞くと、彼女はこともな気に「大丈夫やろう。」と言い、 フッと笑った。
イケメンかよ。
当日、現地集合した私達は驚く。男子もいたのだ。「めんどくさいなぁ。」とは思いつつ、今後の友人関係もある。帰るという選択肢はない。ということで、入場したが、さすが非現実空間。庶民の私のテンションを上げることなんぞ、朝飯前である。
そんなこんなで、テンションの上がった私達は、アトラクションに乗ることになったのだが、私は見学に徹する気でいた。すると、私のイケメンな友人が「乗りたいものはないのか。」と事前に聞いてはくれていたのだが、そのとき、私は1つのアトラクション名を挙げてはいた。それが、実現するとは思わずに…。そして、そのアトラクションの前を通ったとき、「行くよ。」と言って連れて行ってくれた。とても、びっくりしたが感動した。ありがとう。
だが、最大の難関は帰りだった。そのアトラクションから車いすに戻るとき、私は、頭を打つことを覚悟した。なぜなら私をみんなが抱き抱えることは、無理だろうと考えたのである。行きは、友人達に引きずってもらっていたらなんとかなった。若いってすごい。
私が、頭を打つという覚悟を決めて、目を固くつぶると…身体が浮いた。驚いて目を開けると男子の1人が、お姫様抱っこしてくれていた。少女漫画なら恋のフラグが立つが、現実は違う。私と彼は友人である。しかし、彼がいなかったら、せっかくの友人関係が破綻していたはずだ。そういう意味で彼は間違いなく恩人だ。
それと、もう1つ転機が最近訪れた。それは、テーマパークがアトラクションだけでなく、アニメともコラボしてくれるようになった。オタク大歓喜。今年のゴールデンウィークも行ってきたのだが、パーク全体を使った謎解きやらコラボメニュー・パレードなどがあり、めっちゃ楽しかった。アトラクションに乗れなくても。
そして、無理なこじつけかも知れないが、幼少期と比べれば自分の障害や身体・体力について少しは理解できるようになったと思う。だから、その知識と自分自身の身体の感覚で身の丈に合った楽しみ方ができるようになった気がする。それに何より、私は「身の丈に合った楽しみ方」が結構好きだ。
それにしても、最近推しが尊すぎて軍資金が足らん。2回、会いに行ったのにまた会いたい。あ。アニメ映画の話ね。
プロフィール
鶴﨑 彩乃(つるさき あやの)
1991年7月28日生まれ
脳性麻痺のため、幼少期から電動車いすで生活しており、神戸学院大学総合リハビリテーション学部社会リハビリテーション学科を卒業しています。社会福祉士・精神保健福祉士の資格を持っています。
大学を卒業してから現在まで、ひとり暮らしを継続中です。
趣味は、日本史(戦国~明治初期)・漫画・アニメ。結構なガチオタです。