ニーチェを笑わせろ【前編】
わたしの
土橋(聴き手):このシリーズではみなさんに「幸せ」について、直接的でも間接的でも、雑談でも、全然関係なくても(笑)、語ってもらう企画です。
ただただお話がしたいという…(笑)。
今回は、知的障害者支援に携わっている内海さんにお越しいただきました。
内海さんよろしくお願いします。
内海(ウツミ):よろしくお願いします。うまくまとめて話すということが苦手なんだけど…。
土橋:大丈夫です。まとまらない、まとめない、それが貴重なんです。今の時代に一番大事なことです。
内海:あと、いいかげんに生きてきたんで立派なこと言えないよ。あまり考えてないから、覚悟してください。オール雑談だと思って。
土橋:大丈夫です。
まずは内海さんのことを紹介させていただいてもよろしいでしょうか。
内海さんは知的障害のある方が通う、通所ということですね、通所の生活介護施設で働いています。何年くらいになりますか?
内海:18年になりますかね~。
土橋:大ベテランですね。
内海:そのうち10年はアルバイトですよ。非常勤として長く働いていました。
土橋:似ています。私と同じような感じですね。その時代を経て正規職員になったわけですか。
内海:そうそう。
土橋:それまでは何をしていたんですか?
内海:学生です。日本文学を研究していました。
研究っていうともっともらしく聞こえるけど、ただ読んで感想を言い合うだけのゼミで、そのあと教室を飛び出して街に繰り出す。
池袋のね、炉端焼きの店がいつもの集合場所でそこが第二の教室みたいな感じだった。
本当にステレオタイプみたいで嘘だろって言われるかもしれないけど芸能プロダクションで働いている人が愛人連れて来ていた。
その人と仲良くなって、どこの事務所とは言えないんだけどお笑いのライブに招待してもらったこともあって、今一線で活躍している芸人さんが売れる前のライブを見させてもらったこともあったし、街の中華屋のおじちゃんとおばちゃんと意気投合して次の日ボーリング大会に呼ばれたりね(笑)。
すごいいかついなりをした「エンペラー」と呼ばれていた人もいて、どんな話の流れでそうなったのか覚えていないけれど、ゴーカートって言うのかな?本格的なレースをするはめになって千葉まで出掛けて行った。
土橋:基本は昼は読書をして意見交換し、夜は酒を飲みながら意見交換をしてみたいな感じですか。
内海:よく言えばそうだね。
正確に言えば、昼は学校、夜は居酒屋か仕事です。
深夜のアルバイトをしていて22時に家を出て、明け方の6時まで働いていた。
そのまま大学に行って授業を受けていた。
周りからはからかい半分で苦学生って呼ばれてたよ。
全然関係ないんだけど…
ピカソがさ、スペイン人は朝はミサ、昼は闘牛、夜は酒って言っていたのを思い出したんだけど…。
そのあとに、どうしてそれが必要なのか?「それは悲しみだよ」と続くんだけど、その言葉は確か池袋時代に覚えて、例えばベロベロになって路地裏の植え込みで眠って朝を迎えたときとかに明け方の空を見上げながら「それは悲しみだよ…」とか呟いてね…馬鹿なナルシストだね。
今考えれば二十歳そこそこの青二才の悲しみなんてたかが知れているんだけど。
土橋:ピカソはつまり悲しみが根底にあって、その悲しみから救われるために「ミサ=信じる心、捧げる心」と「闘牛=心を揺さぶるほどの興奮、熱狂」「酒=陶酔、快楽」が「必要」なのか「大切」なのか、とにかくスペイン人は悲しみに折れることなくそうやって人生を「謳歌」しているのであると言ってるんですかね。
内海さんが二十歳そこそこの青二才の悲しみと仰っていましたが、例えば具体的に何が悲しかったんですか?
内海:それがね、すごい曖昧だし、ぼんやりしてるんだけど、今でも分からない。
分からないんだけど、今日土橋さんと話していて考えれば、多分「大人になる怖さ」だったんだと思う。
土橋:「大人になる怖さ」というのは、子どもから大人になっていくときに感じる不安みたいな、変容していく不安みたいなことですか?
内海:そう。多分ね、そうなの。でも、もしこれを聞いた人が、20歳の大人がまだそんな子どもみたいなことを言ってるのかと言われてしまえばそれまでなんだけど…。
土橋:そんなことありません。大丈夫です。
内海:もちろんね、恵まれた悲しみ、贅沢な悲しみということは分かった上で話すんだけど、やっぱり大人になる不安ってあるわけ。自立する不安。
分かりやすく言えば…社会人になる不安って言えばいいのかな。
あんまり社会人って言葉好きじゃないんだけど。
だって今なら子どもでも社会にコミットしようとしている人たくさん知ってるから。
やっぱり先がどうなるのか分からない。見えない。
どうなっていくんだろう。ひとりで生きていけるんだろうか、みたいな。
そういう不安って必ずあるし、尻込みしちゃう時期ってあるんですよ。
土橋:「大人になる不安」って何なのでしょう?
内海:うーん(しばらく考え中)、これは今だから言えるのかもしれないけど、「経験の足りなさ」なんだろうね。
不安だからそれに対して解消できる方法があるかっていうとそうでもなく、とにかく「進めよ」ってことだと思います。
「行けば分かるさ」ってこと。それが解決方法なんだね。
だから、問題は「前に進めるかどうか」ってこと。
土橋:一歩を踏み出す勇気があるかどうかってことですか?
内海:いや、勇気だけではなくて…誰だって勇気なんてないよ。
だから誰かが後押ししてあげることも大事だと思うし、そのときにその第三者が見極めなければならないのがその子が踏み出す準備ができているかどうかってことだと思う。
要するに誰か見守る人が必要なんだと思う。
安心できる人が側にいるってことだと思う。物理的な距離の近さじゃなくてね。心の中にでも。
それは年齢はあんまり関係ないと思うけどな。
人はさ、やっぱり一人では生きていけない。
一人で勝手に成長はしていけないんだよ。
親子だけじゃなくて、これは仕事における人材育成においても言えるんだけど。
テキスト渡して「読んで成長して」ってそんなことはできない。
あとはいつか前に進めばいいわけで、無理なら寝転がればいいし、後ろに戻ってもいい。
三歩進んで二歩下がるでいいんですよ。
それを認めてあげることも大事だね。
土橋:関係の中で育つってことですね。見守る人かー。
内海:字義通りただ見ているだけではなくてね。
「この人みたいになりたい」とか「この人がいるから一歩踏み出せる」とかね。
土橋:そんな内海さんの考える「幸せ」ってなんなんですか?
内海:急に入ってくるんやね(笑)。
土橋:台本がないんで、急ですみません。
内海:「幸せ」について本当に雑談で申し訳ないんだけど、まぁいろいろあるんだけどパッと思いついたのは「ニーチェ」かな…。
土橋:ニーチェ?!ニーチェってあのドイツの哲学者?
内海:そう、そのニーチェです。あの面倒くさいおじさんですね…。
後編へつづきます。
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