『私とクライアント』 「当たり前のもの」が当たり前でなくなるとき~朝、そして朝~
神野良介
初めて支援したALSの方が亡くなり、時間も少し経って思ったのは、「人の死なんて、向き合おうと思ってもできない」ということ。
自分のなかでどうにかして落とし込む必要なんてないってこと。
この世には、「わからないまま過ぎゆくものがある」ということ。
そういったものが世の中にはたくさんあるということが30歳を過ぎて再認識できた。
他職種からの転職で30歳を過ぎてから重度訪問介護という仕事を始めるにあたり、ある程度仕事に対する勉強をしました。
実際に現場に立って思ったのは、マニュアルがあっても時と場合、人によって必要な支援が全く違うこともあり、同じ病気でも違う病気に感じるほどでした。
日々変わる体調、同じ日なんて二度と来ないということ、知らないことを知っていることにしたら、また新しい知らないことを知る…という毎日でした。
ある朝、その日のクライアントを訪問すると、「朝起きるのが怖い」とトビー(視線入力装置)で話してもらいました。
「毎日目が動きづらくなる、動かせるところが減っていく」と…。
最期の時間が迫る中で私と過ごす日常を少しでも安心して過ごせてもらえるようにしたいと思いました。
一生懸命に支援をしていても、本当にその人の為になっているのか?自己満足ではないか?自問自答の日々でした。
そして一つの指標として「当たり前」を大切にして、「当たり前」の日常を過ごせるように支援をするようにしました。
今日と同じ明日を過ごせることが難しい人達にも明日はきます。
自分は、風邪になってはじめて元気に動けることに感謝したり、食中毒になってはじめて、おいしくご飯を食べられることに感謝したり、そうやって”なにか”が起きてからでしか感謝できない。同じようにみえる瞬間の積み重ねである”日常”から感謝していたいと思いました。
支援していた方が亡くなった後に振り返ると、「もっと出来ることがあったのではないか」と思ったり、気持ちが落ち着かなかったりしました。
その気持ちを抱えたまま次の現場に向かうことが難しいということが分かりました。
そうして支援を重ねて、日常のどんな小さな出来事だったとしても、1つ1つを咀嚼して、時間を大切に、丁寧に日々をおくりたい。
その気持ちをもって支援することで、少しでも良い日を過ごしてもらいたい。
支援を通して学んだ感謝を、私のできる最大限で、周りにわけていきたい。
◆プロフィール
神野 良介 ホームケア土屋 郡山
短大で保育を専攻。
学生時代から飲食店で働き、居酒屋店長、焼肉屋店長を経て令和から介護を始める。
資格:介護福祉士、保育士、幼稚園二種免許






