心の壁をお行儀よく通り抜ける言葉~『壁と出会うとき=成長するとき』~
月精美鶴
最近ふと思い出したことがあります。
ある重度の糖尿患者さんの退院支援の際の印象に残っているエピソードの一つです。
重度の糖尿病で教育入院中、こっそり売店で買ってきたお菓子を食べ続け、「本人に治療の意思なし」と、強制退院となり在宅復帰と相なった患者さんがいらっしゃいました。
その患者さんの口癖は
「あれもダメ、これもダメって、いつか人は寿命が来るんだから食べ物くらい好きにさせろ」。
退院日が迫り、在宅の体制を整えなければならない状況もある中で、「家に帰ってまで説教をされたくない」と、頑なに関係者を拒んでいました。
ある日担当ケアマネとなる方と初対面した時の事、そのケアマネさんはご挨拶だけして患者さんからの話を傾聴していました。
患者さんの話を聞いた後、手続きやサービスの話は全くせずたった一言笑顔で、「そっかー、好きなもの食べたいですよね!好きなものを我慢しなくていいように一緒に考えていきましょうか」といった時、
患者さんの表情が和らぎ、その後のコミュニケーションがスムーズにいき、サービス導入もできたという事がありました。
それは「言葉一つで状況が一変する」ということに気づかされた場面でもありました。
私にとって人と人、クライアントやアテンダントとの関わり方は課題となっている一つです。
支援現場において自分の先入観や思い込み、これまでの経験や自分の考えや習慣が出てしまい、時にそれがマイナスに働くことがあります。
同じ内容を伝えても、人によって受け止め方の違うこと…。
私の経験上でも、小さな行き違いが誤解を生み、思い込みに発展し、期せずして相手が傷ついてしまっていた、ということもありました。
言葉の遣い方、伝え方の技術が足りずそんなつもりではなかったのに、思いもよらない事を言われたり、そんな風に思われてたんだ、と落ち込むこともありました。
そんな中で思い出した、たった一言で初対面で頑なだった方の気持ちを変えたケアマネさんの対応と言葉の技術。
そんな問題にぶつかり、客観的な視点で自分を省みた時、その根底に自分自身がクライアントやアテンダント含め関わる人達に対し、「謙虚さを持ってリスペクトして」対応できていたかどうか、共感的態度であったかどうか…
今でも失敗や課題となる事はたくさんありますが、多くの壁は気づきを得る機会となり、「足るを知る」ことで自己覚知を深め、成長できるこの環境に感謝したいと思います。