「障害×運動×大きな夢」~3
片岡亮太
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和太鼓奏者として活動している中で、常々感じることの一つは、体力の向上と維持が、キャリアの充実や現役でい続けるための鍵になるということです。
実際、長い舞台を務めるためには、細かな技術よりも、まずは根本的な基礎体力が不可欠。
だからこそ、日々、決して短くない時間を稽古やトレーニングに費やしては、筋力アップや心肺機能の充実を図っています。
ですが未だに大きな本番の後には腕や肩、太ももなど、全身の一部、あるいは複数個所が筋肉痛になることがしょっちゅう。
僕の場合、基本的に一人で稽古をするため、「甘さ」ゆえに負荷を軽くしてしまう可能性もあるので、毎月、信頼している師匠の下でレッスンをしていただき、体力の限界までしごいていただいてもいます。
それでも起こる筋肉痛。
ということは、舞台上の僕はきっと、日常を上回るパワーを出しているということなのでしょう。
しかし、それだけのエネルギーを発散した結果、途中でばててしまったり、音楽が雑になってしまったら意味がありません。
20代の頃には恥ずかしながら、気持ちばかりが先走って、前のめりな心のままに演奏をした結果、ステージ半ばで腕や喉が悲鳴をあげてしまい、最後まで無事に務め切れるかが心配になるということもよくありました。
それを、「若々しい」とか、「勢いがある」と評価していただける場合もありますが、シビアに考えたら、そんな不安定なパフォーマンスではプロ失格。
たとえ日常を超える力を発揮したとしても、全身からみなぎる熱量をしっかりとコントロールし、幕が下りる瞬間までキープし続け、そのうえで良い演奏をお客様にお届けする必要があります。
技と身体の両方を、鍛え続けること、それは演奏家としての義務なのだと、40代を目前にした今、改めて考えている今日この頃です。
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そんな僕が今日まで積み重ねてきている、太鼓を打つことも含めた様々な体力づくりの手段は、当然全盲の人でも独力で行えるものばかり。
スクワットや腹筋、背筋、腕立て伏せなど、筋トレとしてスタンダードなものもありますが、前方に伸ばした両腕を素早く頭上へもっていく「高速万歳」や、走っているつもりで足踏みを繰り返す「その場ランニング」、ジャンプ、しこ踏み等々、一風変わったものまで、いろいろなものを行っています。
それらの中で、誰がやっても一定以上の効果が得られ、なおかつ、運動経験の乏しい全盲の人が行っても、危険の生じる可能性が極めて低いと思われるものに関しては、視覚特別支援学校での指導にも取り入れています。
上述の通り、和太鼓の演奏には体力が必要。
そのため僕の授業は、ウォーミングアップと称した基礎体力作りにかなりの時間を割きます。
年度始めは、新入生を中心に「いくらなんでもきつすぎます!」と面食らう生徒も多いのですが、おおむね3か月も経つと、「気づいたら普通にやってますね」と言われることがほとんど。
それだけ体力、筋力の増進が叶っているということなのでしょう。
また、和太鼓の演奏自体も、肩幅以上に足を広げ、ぐっと腰を落とした姿勢のまま、ドラムのスティックと比べたらはるかに太い撥(ばち)を頭上の高さから力強く振ることを、数分間継続するわけですから、かなりのエネルギーを消費します。
(ちなみに、使用する撥は、一般的なもので太さ約2.5㎝×長さ40㎝、僕が大太鼓の演奏で使用しているものは、太さ約3.5㎝×長さ約50㎝と幅があり、重さも木の種類によってだいぶ異なります)
1時間もレッスンをしていれば、生徒も僕も汗だく。
でも、楽器と撥さえあれば、視力を問わず、誰もが全身をフル活用して、大きなけがの心配をすることもなく、何のサポートも受けずに、へとへとになるまで身体を動かせるという意味において、和太鼓とは、視覚障害者にとって、とても安全な運動のツールにもなり得る、僕はそう確信しています。
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最近、「視覚障害のある人も気楽に通える和太鼓教室を開きたい」という夢を抱いています。
10年余にわたる視覚特別支援学校での指導実績もあり、なおかつ僕自身が、失明してから和太鼓をはじめ、プロとして活動している立場であることも考えると、未経験者である大人の視覚障害のある人に対してもレッスンができるだけの経験値は持っているはず。
僕がもしも自由に演奏ができる「稽古場」を設け、障害の有無を問わない、誰にでも門戸を開いた教室を開くことができたら、視覚障害のある人が安心して身体を動かす機会になると同時に、障害のある人、ない人がともに汗をかきながら、音楽を作ることのできる場所にもなる。
運動すること、汗をかくこと、エネルギーを発散することは、身体の循環や新陳代謝を向上させてくれるのみならず、心のバランスをも整えてくれます。
逆に言えば、日常的に運動することができずにいると、メンタルの動きも滞って、落ち込みがちになりかねません。
僕が和太鼓教室を開講することができたなら、運動をしながら音楽を奏で、おまけにストレスも発散できる、そういう時間を提供できるかもしれない。
そんな未来を思い描いていると、ワクワクした思いが抑えられません。
ただ、そのためには、複数人で和太鼓を演奏しても騒音問題が発生しない場所、そこに全盲の人でも自力で行き来できる交通手段があることなど、クリアしなければならない条件もたくさんあります。
大きな夢だからこそ、実現のために踏まねばならないステップも多いのが正直なところですが、この夢、絶対いつか叶えてみせます!
その時には、ぜひ皆さんも教室にいらしてください!
そして、良い場所や手段をご存じの方はぜひご一報ください!
よろしくお願いします!!
◆プロフィール
片岡亮太(和太鼓奏者/パーカッショニスト/社会福祉士)
静岡県三島市出身。 11歳の時に盲学校の授業で和太鼓と出会う。
2007年 上智大学文学部社会福祉学科首席卒業、社会福祉士の資格取得。
同年よりプロ奏者としての活動を開始。
2011年 ダスキン愛の輪基金「障害者リーダー育成海外研修派遣事業」第30期研修生として1年間単身ニューヨークで暮らし、ライブパフォーマンスや、コロンビア大学内の教育学専攻大学院ティーチャーズ・カレッジにて、障害学を学ぶなど研鑽を積む。
現在、国内外での演奏、講演、指導等、活動を展開。
第14回チャレンジ賞(社会福祉法人視覚障害者支援総合センター主催)、
第13回塙保己一(はなわ ほきいち)賞奨励賞(埼玉県主催)等受賞。