腰痛予防~「心」と「体」どちらも大切に~ / 相川和史

腰痛予防~「心」と「体」どちらも大切に~
相川和史

現代における日本人の約83%は、腰痛を経験すると言われています(1)。

Googleで「腰痛」と検索をすれば、疾患や症状に関する有用な情報が容易に手に入り、病院に行かずとも独自の予防策を講じることができる、便利な世の中になりました。ところが、腰痛で悩む人は減ることはなく、むしろ介護の現場では職業病とさえ言われているのが現状です。それは何故なのか、先に私なりの結論を述べようと思います。

それは、介護職はクライアントの人生に、日常生活の支援等を通して密接にかかわる為、身体的・精神的なストレスの総和が「腰痛」という症状として表れやすいからだと考えています。

私は医療介護の道を歩んで約10年以上が経ちますが、過去、どの職場においても、「腰が痛い」「腰を何とかしてほしい」という相談が後を絶ちませんでした。外来リハビリ、地域での腰痛予防教室、介護職向け勉強会など様々な場所で、腰痛予防に精力的に取り組んできましたが、やりがいを感じる反面、個人的に引っかかることもありました。

それは、症状や部位等は人それぞれにもかかわらず、決めつけにも聞こえる、似たような発言をする方が多かったことです。例を挙げますと「腰痛体操をやっても変わらない」というニュアンスで、「筋トレしても…」「リハビリしても…」と、どんなアドバイスも前向きには受け取ってもらえない時期が続いたことがありました。

その当時は、私の勉強不足と無力さを痛感し、腰痛に関する勉強に時間とお金を費やし、理学療法士としての引き出しを増やすことで必死でした。ですが、培った知識や技術も空しく、目に見えて改善する方の割合は、さほど多くはありませんでした。それでも何とかして腰痛を改善したいという思いから、視点を変え、ある仮説を立てました。「結論が似ているのならば、要因にも共通点があるのではないか。」というものです。

当時、腰痛がある担当患者様約11名に、腰痛に関する話(現病歴)の全容をお聞きして、あることに気がつきました。それは、「どうせリハビリを続けても変わらない…」は決めつけではなく、「今後も痛いままなのか」「本当に良くなるのか」という様々な不安と焦りを吐露したものであるということです。堪え難い痛み、治療に対する不安、明らかな改善が見られない焦燥感の中、たった1人で前向きに取り組める人は多くないと思いました。

前向きに取り組んでいただくために、私が実行したことは、

  1. 不安をしっかりと受け止め、寄り添う
  2. 丁寧な運動療法のレクチャー

という2つです。

その結果、全員が運動療法を前向きに取り組み、痛みは徐々に軽減していきました。さらに言えば、同様の症状の方同士の輪ができ、会話が増え、表情も雰囲気も自然と明るくなっていったのを今でも思い出します。患者様同士で「腰痛を治して退院」という同一目標を設定し、運動療法を継続した結果、全員が退院されました。

運動療法の内容は一切変えず、なぜ良い結果が生まれたのか。それは、「精神的なストレス(特に不安、焦燥感、孤独感等)」が軽減したことで、運動療法が効果的に作用したと考えています。この時点で腰痛とストレスは影響し合うという気づきを得ました。

私が得た学びは、身体と精神の両面からアプローチをすることが、腰痛改善(予防)には不可欠であるということであり、私の現在の業務にも活かされています。

アテンダントの皆さんに「休日」をバランスよく取っていただくだけでなく、対面での面談をメンタルヘルスの一手段として考え、心身の健康維持に取り組んでいる最中です。地道で時間を要するこの活動が、組織内で実を結んだとき、「腰痛=介護の職業病」というイメージが薄れていることを願ってやみません。

【参考文献】

(1) 厚生労働省2019年国民生活基礎調査の概況

◆プロフィール
相川 和史 ホームケア土屋 熊本

ホームケア土屋熊本 管理者
理学療法士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級
陸上自衛隊を退職後、病院の介護職員・リハ助手をしながら専門学校(理学療法学科:夜間部)に4年間通い、
理学療法士を取得する。
総合病院、特別養護老人ホーム、短時間通所リハ、有料老人ホーム、共生型デイサービス、放課後等デイサービス(重心型、総合型)、生活介護など、発達支援(療育)から高齢者介護まで、全世代の福祉に携わる。その間に、介護福祉士を取得する。
2023年4月株式会社土屋に就職、ホームケア土屋熊本に配属となり、現在に至る。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!