退屈という贅沢~介護職としての私の工夫~
作間淳哉
老人ホームなどの介護の現場で、利用者さんがテレビの前に座っているところをよく見かけます。
どうかすると「一日中テレビの前に座っている」なんていうこともあります。
ご自分の意思を伝えられない利用者さんに対して、職員さんはきっと、「退屈しないように」と、親切心からそうしているのだと思いますし、私も昔そうしていたことがありました。
しかしどうでしょうか。人によって好きなテレビ番組は違うし、そもそもテレビが嫌いな方もいらっしゃいます。どんなに好きな番組でも、何時間も見続けると疲れちゃうでしょう。
しかし自分の意思を伝えられず自分の身体を自由に動かせない人にとって、目の前にテレビが点いていれば見続けるしかありません。そのうち疲れて寝てしまうでしょう。そして起きるとまた目の前にテレビが…。
あと私が前に働いてた施設では、「音楽好きだ」と言われている重度の認知症の利用者さんの部屋で、ずっと一日中昔の歌謡曲がかかっていました。これにも程と言うものがあるのではないかと思います。
退屈しないようにと思ってしてあげたことが、実は相手に苦痛を強いることになっている、ということに気がついた時に、僕はハッとしてしまいました。
「退屈しない」というのはそんなに大事なことでしょうか。
テレビを消すといろいろな音が聞こえてきます。いろいろな匂いもしてくるでしょう。
鳥のさえずり、風が木の葉をゆする音、子供が遊ぶ声、誰かが入れたコーヒーの匂い。窓の外を眺めながら昔の楽しかった思い出にひたるのも、なかなか贅沢ではないでしょうか。
テレビが悪いとは思いませんが、まずはその人がテレビが好きか。どんな番組が好きで1日どのくらい観たいのか。それより他に好きなものはないのか。刺激を与えるのは大切なことですが、たまには退屈させてあげる。そんな介護もいいのかな、と思います。
介護の世界では、ご利用者に刺激を与えることが重要と言われていますが、刺激を与えないこと、という選択肢も心のポケットに入れて今日も現場に行ってきます。