「スガシカオ×障害×カタカナ」(前編) / 片岡亮太

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「スガシカオ×障害×カタカナ」(前編)
片岡亮太

盲学校の授業がきっかけで始めた和太鼓の演奏に夢中になっていた中学生の頃、僕はもう一つ、衝撃的な出会いを経験しました。

それは、「スガシカオ」さんの音楽との出会い。

テレビで放送されていた彼のライブを聞いた時、それまでに感じたことのない興奮が全身を駆け抜けたことを今でもはっきり覚えています。

一般的には、「夜空ノムコウ」の歌詞を書いたことや、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』のテーマソング「progress」のメロディや歌詞、歌声のイメージが強いかもしれませんが、スガシカオさんの音楽のルーツは1960年代から70年代にアメリカで生まれたソールやファンクなどの、いわゆるブラック・ミュージック。

うねるような独特のリズムやコード進行、躍動感あふれる歌や演奏のスタイルに、中学生だった僕は完全にノックアウト!

以来今日に至るまで、スガシカオさんの音楽や言葉、アーティストとしての考え方や活動の仕方などに大きな刺激を受け続けているし、彼のルーツであるブラック・ミュージックは、僕にとっても音楽的な根幹の一つです。

(余談ですが、近年は、「黒人音楽」を意味するブラック・ミュージックという言葉を差別的とする考え方もあり、「アーバン(Urban)・ミュージック」とも呼ぶそうですが、差別や偏見による、苦しい生活環境に置かれていたアフリカ系アメリカ人(黒人)の人たちの思いから生まれたこれらの音楽に敬意を表す意味でも、僕はブラック・ミュージックとあえて書きます)

さて、そんなスガシカオさんの特徴の一つは、幅広いテーマを扱った歌詞。

恋人商法にだまされている男性の心情、結婚式の余興で歌うことになった際のスガさんご自身のエピソード、今日の音楽業界への鋭いアンチテーゼ……。

さらには、かなり直接的に性や性的思考、性行為を描写した曲も多数。

スガさんは常々、「歌詞に書いてはいけない言葉なんてない」「もっと広く歌詞を書きたい」等、歌詞の可能性を追求し続けていることをラジオやインタビューで話しています。

だけど、例え性行為を扱ったとしても、そこに「いやらしさ」や「品のなさ」、「奇をてらった感じ」がにじみ出ているわけではない。

むしろ、うなるほどに「詩」としての魅力が宿っていたり、リズムや旋律の上で言葉が踊ることによって、音楽的にクールでファンキーな作品に作り上げられていることが、いちファンとしてはたまらないし、表現を生業とするものとしては悔しく、嫉妬さえ覚えてしまうところです。

デビュー曲から最新曲、アルバム収録曲などを含めたら、おそらく優に200曲を超えるスガさんの曲たち。

その大半を、そらんじて歌えるほどの「スガシカオマニア」である僕にとって、スガさんの曲の面白さの一つは、歌詞の中に時として、「マイノリティ」の存在や視点が垣間見えること。

いくつか例を挙げてみましょう。

「友達は片手なくした

夢もギターも諦めかけてた

でも新たな生き方を歩き出せたよ

あなたのおかげで」

(あなたへ)

「君の生まれた街で見た

星はまるでプラネタリウム

なにかが許された気がしたよ

本当は目が悪いから

星は よく見えなかったけど…」

(プラネタリウム)

「耳鳴りの向こう

すぐ思い出せる

あの人の手

あの人の声」

(あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ)

「はじめてのこんな気持ちを 誰かに話したいけど

君がぼくの友達の弟でさえなければ…」

(はじめての気持ち)

「あなたへ」は障害を負うという出来事、「プラネタリウム」は視力の低さ、「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」は難聴、「はじめての気持ち」は同性愛をそれぞれ表す言葉を歌っています。

「はじめての気持ち」は曲全体を通じて、自分が同性愛者であることに気づいたことや、同性である友人の弟を好きになってしまったことへの戸惑いなどを描いているのですが、その他3曲において先述のフレーズは、純粋な曲の一節。

視力と聴力に関する言葉について言えば、スガさん自身が、かなり視力が低いことや、数年前の突発性難聴による聴力の低下を経験している影響からか、他の曲の中でも、良く見えていない目や、時に聞こえづらさを感じている耳を通した世界を詩に投影させていると、うかがえることがあります。

とはいえ、「見えづらさ」や「聞こえにくさ」を、ポップスのラブソングやハートウォーミングな曲、切れ味の鋭いファンクの歌詞の中に違和感なくすっと組み込めてしまう、その匠さには、いつも心を掴まれてしまいます。

そういうスガさんの歌詞を25年近く聞き続けているからでしょうか、僕はJ-popの世界において、直球勝負で「障害」を扱った曲が生まれないことが最近気になっています。

スガさんの曲の中にも、視力や聴力が低いことを感じさせるフレーズはあるものの、いわゆる「障害」を示唆する言葉はほとんど出てきません。

例外的に「あなたへ」では、片手を失った人(ご友人のことだと聞いた記憶があります)の話題が登場しますが、この曲は、コロナ禍の最前線で戦い続けてくれている医療従事者への感謝を込めてインターネット上でのみ公開された曲。

通常のリリース曲とはコンセプトからして異なります。

これまでに多様なテーマを扱ってきている歌詞の巨匠、スガシカオさんの力をもってしても、障害とは音楽に溶け込ませ難いトピックということなのか…。

実際、日本のメジャーなアーティストの楽曲において、障害が歌詞の主題になっているものと言えば、忌野清志郎さんが中心となったバンド「ザ・タイマーズ」の「障害者と健常者」以外、僕は知りません。

「障害者と健常者」の歌詞は、ここでは引用しませんが、そこで歌われていることを要約すれば、、

「いわゆる『差別語』とされる、『かたわ』、『めくら』等の言葉を使ってはいけない、そういう風に障害のある人を呼んではいけない、と世間が言えば言うほど、むしろ障害者と健常者の距離は遠く、溝は深まっていく。」ということであると僕は感じました。

きっと清志郎さんは、用語を変えたり、差別語を禁止して、表向き「綺麗」に取り繕おうとする社会に疑問を投げかけていたのでしょう。

これについて、僕の考えを述べるならば、「差別語」とされる言葉の多くは、そこに、揶揄や蔑視の感情が追従していることも多く、単純な「言葉狩り」として禁止されたものだけではないので、そういった言葉は衰退する必要があるし、そもそも僕は、「めくら」と呼ばれたいとは思いません。

いずれにしてもこの曲は、障害に対する差別や偏見を批判する意図で作られていることが一聴して明らかです。

そのような社会性を帯びたメッセージや主張の題材としてではなく、障害があるとわかる人物を登場させてなお、ラブソングやポップミュージックとして成り立つ歌詞や歌は、存在し得るのだろうか。

例えば、手話で語る恋人の手の動きが美しくて、いつもドキドキする話とか、大事な道しるべでもある点字ブロックにつまづいて転びそうになった白杖(はくじょう)を持って歩く視覚障害者の主人公とか、全盲の人が耳を澄まして音を聞く姿にきゅんとなった話とか、車椅子の目線で見た街中の風景などなど、十分詩になりそうな気はするものの、そういうエッセンスを盛り込んだ曲が、日本の流行音楽、いわゆるJ-pop足りえるのか、そのようなことを僕はよく考えています。

大前提として、ポップスとは、多くの人に親しまれ、共感や感動を生むことが求められる音楽。

そこで「障害」を扱うことは難しいことだろうと想像はつきます。

僕自身、趣味ではありますが、大学時代から続けているバンドで曲や歌詞を作って歌うことがあるのですが、その際に、「視覚障害をテーマに曲を書いてみよう!」なんてなかなか思えません。

当事者の僕ですらそうなのですから、障害があるわけでもない有名なアーティストたちが、「障害」で曲を作るとは思い難い。

もちろん、障害のある人の存在に触発され、メタファー(比喩)として障害を想起させる詩を書かれた例は、多数あるでしょう。

でもそうではなく、いつか、もっとストレートに、障害や障害者が描かれている曲が、自然に生まれ、街中に流れ、みんな違和感なく口ずさむような日が来たら、とても面白いなあと僕は思います。

そしてそんな歌が生まれ、歌われる社会とは、今よりもっと障害と一般社会との距離が近く、障害者の存在も「当たり前」な世の中なはず。

もしかしたら、世の中に先行して、そういう曲が生まれることによって生じる社会的な変化もあるかもしれません。

音楽が社会を映す鏡となるのではなく、「J-popが社会に働きかけ、社会の在り方を変える」、そんなこともあり得るかも。

考えていると、ワクワクしてしまいます。

僕が存じ上げないだけで、すでにそういう曲を作っている方がいるのだとしたら、邦楽洋楽問わず知って、聞き、歌ってみたいので、ご存じの方はぜひ教えてください。

僕もこっそり、そういう曲を作れないか、バンドで試してみようかしら。

プロフィール
片岡亮太(和太鼓奏者/パーカッショニスト/社会福祉士)

静岡県三島市出身。 11歳の時に盲学校の授業で和太鼓と出会う。

2007年 上智大学文学部社会福祉学科首席卒業、社会福祉士の資格取得。

同年よりプロ奏者としての活動を開始。

2011年 ダスキン愛の輪基金「障害者リーダー育成海外研修派遣事業」第30期研修生として1年間単身ニューヨークで暮らし、ライブパフォーマンスや、コロンビア大学内の教育学専攻大学院ティーチャーズ・カレッジにて、障害学を学ぶなど研鑽を積む。

現在、国内外での演奏、講演、指導等、活動を展開。

第14回チャレンジ賞(社会福祉法人視覚障害者支援総合センター主催)、
第13回塙保己一(はなわ ほきいち)賞奨励賞(埼玉県主催)等受賞。

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