「排泄にも自由を!!」(後編)
片岡亮太
前編はこちら↓
【 「排泄にも自由を!!」(前編) / 片岡亮太 | 重度訪問介護のホームケア土屋 】
市の健康診断で受けた尿検査と血液検査がきっかけで判明した、僕の腎臓の機能の低下の問題。
「数値としては75歳以上の高齢者レベルです」
とまで言われ、かなりの衝撃を受けたため、検査結果を知って以来、在宅時を中心に、かなりこまめに水を飲むようになったところ、当然のことですが、明らかに排泄の回数が増えました。
すると、心身にたまっている老廃物や、疲労物質が順調に体外へ排出されるようになったからか、相変わらずバタバタと動き回ってはいるものの、このところ、疲れが蓄積されづらくなったように感じます。
もちろん服薬の効果もあるのでしょうが、この変化を、身体も喜んでいるようです。
日頃の稽古やトレーニングなどによる発汗の量や筋肉疲労の度合いから考えたら、本来はこのくらい水分を取って、トイレに行ってほしかったんだ!と、身体が訴えているのかもしれません。
逆に言えば、それだけ、これまでの生活は、水分摂取の量も排泄の量も、足りていなかったということなのでしょう。
経過観察のため、またしばらくしたら検査へ行くのですが、僕が実感している調子のよさは、はたして数値にも反映されるのか。
楽しみにしながら、更なる生活改善に努めます。
障害に起因する様々な事情により、排泄の自由が阻害されてしまい、その結果内臓機能の健康にまで影響が及ぶ。
もしかしたら、こういったトピックは、障害のある人にとって、もっと広く、活発に議論されてもよい問題なのかもしれません。
現状、僕が有する障害は視覚障害だけ。
だから、どんな場所であっても、トイレさえあれば、自由に排泄ができます。
けれど、車椅子の方をはじめ、四肢に障害がある方の場合にはそうはいかない。
その方が使用できる形状であるか、または、トイレそのものに入ることをはじめ、アクセス可能であるかなど、利用するにあたり確認すべきポイントが複数あることと思います。
さらには、そういったハード面の課題だけでなく、近年、障害がない人によって、多目的トイレを使用されてしまい、車椅子の方を中心に苦労を強いられていることのように、社会的な理解の多寡によって生じる弊害もあります。
また、日常生活を送る上で、常時介護や介助を必要とされる方なら、在宅されている時にも、トイレの利用に際してサポートが必要。
障害当事者の方はもちろん、ご家族やヘルパーさんをはじめ、こういった問題と日々向かい合っている方たちにとっては、当たり前になっていることなのかもしれませんが、生理現象の一つである排泄に関連する、物理的、心理的、社会的障壁をなくしていくこととは、とても重要なことだと考えさせられました。
視覚障害においても、ハイテク化し、ウォシュレットや乾燥、便座の上げ下げなど、多種多様な機能が付加され、多くのボタンやセンサーのあるトイレが増加する昨今、点字での表示をはじめ、触って識別できる特徴がついておらず、どこを押せば、どこにさわれば水が流れるのかがわからなくて、トイレの壁をあちこち手探りして探さざるを得なかったり、「これだ」と思ったボタンが、非常ベルで、大音量のサイレンが鳴ってしまい、恥ずかしい思いをするなどして、ストレスを感じた経験のある全盲の人は僕だけではないはず。
もちろん、点字表記のある場所もたくさんあるし、経験値の蓄積によって、およそのボタン配置は想像がつくようになっていくので、にっちもさっちも行かないというケースはごく稀です。
とはいえ、初めて訪れる場所を中心に、トイレの構造の把握にはある程度神経を使うので、慣れない場所でトイレに行くことに抵抗を感じるという方も少なくないのではないかと思います。
そう考えると、バリアフリーやユニバーサルデザインを通じ、トイレのあり方が変わっていけば、排泄における問題の大部分を解決し、排泄の自由を守ることのできる社会とは、きっと実現可能です。
衣食住に不安がないこと、経済的な格差を軽減していくこと、教育を受けたり労働に従事できる環境が障害の有無を問わず、平等に保証されることなどのように、多くの人が認識している社会的課題も多数あります。
けれど一方で、排泄やトイレの利用、あるいは性的なことなど、究極にプライベートで、顕在化しづらい話題における種々のバリアのように、すごく身近かつ、切実なことでありながらも、今一つ声高にアピールしづらいがゆえに、大きな熱量で、公に語られることが少なく、未だ解決に至っていないどころか、社会的に認識さえされていない課題も、まだまだたくさん存在しているはず。
もちろん、僕が知らないだけで、そういった諸問題に取り組んでいる方々は何人もおられるのでしょうし、そういう方たちの活動のおかげで、改善していることも多いのだと思います。
けれど、そういった、意識していなければ目を向けることさえなく、素通りしてしまうようなことであっても、この度、僕自身が自らの進退を通じて、障害と排泄について考えるチャンスを得られたように、一度気づきさえすれば、自然とあれこれ気になり始めるということは、誰にでもよくあること。
だからこそ、講演や執筆を通じて、不特定多数の方に言葉を届ける機会をいただいているものとして、お客さまや読者の皆様にとって、社会に対する新たな視点をお持ちいただくきっかけとなれるよう、もっともっと心の視野を広げ、多角的に社会を見つめながら知識を増やし、そこで感じ、考えたことを発信していきたい。
思いがけず、いろいろ思考することになった今年の健康診断でした。
プロフィール
片岡亮太(和太鼓奏者/パーカッショニスト/社会福祉士)
静岡県三島市出身。 11歳の時に盲学校の授業で和太鼓と出会う。
2007年 上智大学文学部社会福祉学科首席卒業、社会福祉士の資格取得。
同年よりプロ奏者としての活動を開始。
2011年 ダスキン愛の輪基金「障害者リーダー育成海外研修派遣事業」第30期研修生として1年間単身ニューヨークで暮らし、ライブパフォーマンスや、コロンビア大学内の教育学専攻大学院ティーチャーズ・カレッジにて、障害学を学ぶなど研鑽を積む。
現在、国内外での演奏、講演、指導等、活動を展開。
第14回チャレンジ賞(社会福祉法人視覚障害者支援総合センター主催)、
第13回塙保己一(はなわ ほきいち)賞奨励賞(埼玉県主催)等受賞。