『誰かの幸せを考える幸せ』1
わたしの
土橋:本日は、桃さんにお話を聞いてみたいと思います。
まずは桃さんのご紹介をすると、20代で重度知的障害者の日中活動支援に携わったあと、『もしもしカレー』というカレー屋さんを不定期で開催。
さらに、精神障害のある方の就労支援に関わり、現在は出産し、一児の母として子育てに奮闘中です。
どうぞよろしくお願いします。
桃:よろしくお願いします。
土橋:慌ただしい時間にすみません。少しだけお話を聞かせてくださいね。
まずはこの質問からしたいのですが、桃さんは、子どものころの夢は何だったんですか?
桃:夢ですかー。獣医さんでしたね。動物のお医者さんになりたかったです。
土橋:どうして?何かきっかけがあったの?
桃:テレビでムツゴロウさんを見てから、ムツゴロウさんに滅茶苦茶憧れていて、あの人になりたいと思っていました(笑)。
土橋:ムツゴロウさんね(笑)。
桃:あんなに密着して色んな動物に触れあえるムツゴロウさんはいいなぁ〜って。
それで、実際に幼稚園のときに犬を飼い始めて、そこから私の動物との触れ合いがはじまりました。
土橋:動物が好きなのは今も続いていることなの?
桃:続いています。
その時飼った「しし丸」は、私が大学の時まで生きた犬だったんですけど、幼少期に犬と一緒に暮らしたことが、私にとっては嬉しかったし、友だちって感じで、家族とも違う、兄弟とも違う、仲間みたいな。
だから自分の子どもにも動物と暮らすことは体験させてあげたいなって思ってます。
できれば動物が死ぬところまで。その別れも含めて。
◇
土橋:今日、桃さんにインタビューするにあたって聞いてみたかったことがあったの。
それはね、桃さんはさっき紹介したように「もしもしカレー」というカレー屋さんをシェアキッチンを使ってオープンさせていたでしょ。
料理、というのか、飲食に関わることをするというのはどういうことなのか、すごく興味深かったんです。
私は全く料理ができなくて、本当に食べる飲む専門なんですね。だから飲食関係の仕事をする人の気持ちを知りたいとずっと思ってました。
料理をするということに対する思いを聞いてみたかったんですよね。どういう喜びがあるのかなと思って。
そのあたりいかがですか?
桃:その質問に直接的に答えられるかは、分からないんですが・・・。
土橋:はい、大丈夫です。
桃:カレー屋さんをやったときに、それまで私は自分が主催して、自分の力で何かをやったことがなかったんです。
今までの人生で、何もかもが中途半端だった気がして。
それは中学時代の部活とかいろいろ遡ると、バスケットもすごい頑張ったけど、最後までベンチだったし。
高校もベンチだったし。ずっと輝けなかった、フィールドに立てなかったっていう劣等感がずっとあって、それがずっと根底にあったんですね。
なので自分が主催して、誰かを楽しませたり、喜ばせるような空間を作ってみたかったんです。
料理はもともと好きだったんで、いろいろな人も巻き込んで、それをかけ合わせて、はじめたのがカレー屋さんだったんです。
土橋:なるほど。
桃:お店をやるときに、そこには母も巻き込みたいと思っていて・・・。
母も昔うつを患っていて、性格的に気にしすぎるあまり、気持ちの面でも揺らぎがあって、一緒に達成感を味わえるものを母にも体感してもらいたいというのもあったんです。
土橋:自分の力を活かして人を楽しませる場を作りたいと思ったわけですね。
そのために、やはり料理が一番他者とか社会とコミットするためにいいだろうという考えだったんですか?料理というツールを選んだのにはわけがあるんですか?
桃:食べることって誰もが関わることだし、私自身も食べたりお酒飲んだりするのが大好きだし、これまでもいろんな人と食事をすることでその人を知ることができてきました。
料理で自分を表現することもできるのかなと思って、自己紹介的な意味でも料理がよかった。
母の一番得意なことも料理だったん母の料理は結構おいしいんです。最近は振る舞う機会もなくなっていたんで。
あと、そのとき私自身がスパイスにはまっていたんです。
スパイスといえばカレーだし、みんなカレーなら大好きだろうということで料理の中でもカレー屋にしたんです。
土橋:みんなお店をやってみたいと夢はあると思いますが、一歩踏み出すことがすごいですよね。実行する力というか。
桃:それが生まれてはじめてだったんですよ。
ずっとそういうことができている人がうらやましいって思っていた方なので、それがはじめての自己実現と言うか。
土橋:へー。自己実現だったんですね!
桃:そうなんです。何回かやっていくうちに、はじめて満席になったときがありました。
満席になったときの、あの「多幸感」が今でも忘れられないですね。
超幸せ!!って思いました。なんか自分の懐にみんながいるような気持ちになるんです。
みんなの胃袋に私の生み出した食べ物が入っていく~じわじわってした嬉しさ。私キッチンの中で飛び跳ねて喜んでいたんですよ。
土橋:食べ物にはそんな喜びがあるんだね。自分が人に振る舞うことがないから、よくわからなかった。
桃:すごい喜びでした。カレー屋さんは途中で終わっちゃったけど、今の夢も変わらずそこにあるんです。
土橋:ちょっと飲食店をする人の喜びがわかったような気がしました。
自分が作った料理で他者のおなかをいっぱいにする喜びね。
やっぱり頭で考えていることと、実際に体験したり実感することって違うじゃないですか?
桃:そうですね。違いますね。
土橋:その実感するためには一歩踏み出さなければならないんだけども、そこを一歩踏み出せたっていうのは、何かきっかけがあったんですか?今までできなかったのに、やるぞって思えたのには何かあったんですか?
桃:個人的な話になっちゃうんですが、離婚したことがすごく大きかったんです。
―つづく―