翼をくれた神オムツ
鶴﨑 彩乃
なんとなくカッコつけたくて、「無駄な日はない。」とか思ってみるけど、携帯を眺めていると夜が来た日は「無駄にしたな。」と感じてしまう。
それから、その日を取り返そうとしてNetflixを見てしまう現象に名前をつけたい。
しかし、自分にとって大事な日を人は意外と覚えていないものだと思う。
とある日、ブラトップしかない下着コーナーに洗濯物をしまってくれているアテンダントさんを見ながら、なぜか少し感慨深く「いつからパンツ買ってないかな。」と割と真剣に考えてみる。
さぞ、変な人だ。
とまぁ頭をグルグルさせてはみたものの、確信的な答えには辿り着けなかった。
私は小さいとき、「オムツ」を履くのがすごく嫌だった記憶がある。
それはたぶん、「赤ちゃんに見えるのが嫌」とか、頑張って挙げればいくらかそれっぽい理由はあるのだ。
しかし、1番は「お前は障害者だ。」という誰の目から見ても現実であり、揺らぐことのない真実を初めて突きつけられた気がしたのだろう。
だから私は一目散に逃げたのだ。「紙オムツ」から。
中学2年生になったある夏の日、私は初めて1人で電車に乗った。電車に乗った目的は、思い出せないから本当に勢いだったのだろう。
その距離は、わずか一駅。
でも、私の運命を変えるには十分な一駅だった。1人で出かけるのは、すごく楽しかった。
視野がすごく広がるような、世界が拓けていくような不思議な感覚。その感覚に会いにいくには、大きな壁があった。
トイレである。
1人でトイレに行けない私は常に尿意という時限爆弾との死闘を繰り広げなければいけない。
まあまあな数の試行錯誤を繰り返し、母とも相談をして見つけた最終兵器が「紙オムツ」だった。
幼少期のイメージとは180度違う価値観が自分の中で生まれていたけど、当時の私はそのことに全く気づかなかった。
それは、大学時代の友達との初めてのカラオケとか、講師としての登壇初日の緊張感とか。
紙オムツが日常の助けになって迎えた楽しい日がたくさんあるからだろう。
その中に人生の転換日もあるかもしれないのだ。
そう思うと、「オムツ履けば良くない?」と思った日はそれなりに、すごい日なのかなと今は感じている。
無論、紙オムツはメリットだけではない。むしろデメリットの方が多いとさえ思う。
車いすのシートに尿が漏れることもあるし、長時間汚れた状態でいるのはやっぱり気持ちが悪い。
そしてなにより暑い季節は、めっちゃ蒸れてかゆい。特に、ゴムの部分が辛い。
肌の治安ってすごく大事。保湿の重要性を噛みしめている今日このごろ。
しかし、紙オムツを使用することによって起こってくる小さな問題を解決することで、私の場合は自己覚知や障害受容にゆっくりつながっていったとも考えている。
紙オムツを常用することを人に強要するつもりはもちろんない。
どういう選択をするのかはその人の自由であり、人生の楽しさに直結すると思っているからだ。
うちのクローゼットにパンツが入ることは、これからもない。
いや、決めつけるのはよくないか。レギュラーにはならないぐらいに言い切っておこう。
私は、夜中のゲームが好きだし、1人の散歩もやめられない。今や「紙オムツ」は私のライフスタイルを維持していく要であり、相棒だ。
そう思うと、「紙オムツ」ではなくて、「神オムツ」という側面もあるのかな。
余談だが、ドンキとかに売ってるボクサーパンツが可愛すぎて、衝動的にそして猛烈に欲しくなるときがある。
補欠で買おうかな。
でも意外と高いのよな。あ、昔買ったこと忘れてかびたパンツがあったな。
買う前に思い出してよかった。やめとこ。
◆プロフィール
鶴﨑 彩乃(つるさき あやの)
1991年7月28日生まれ
脳性麻痺のため、幼少期から電動車いすで生活しており、神戸学院大学総合リハビリテーション学部社会リハビリテーション学科を卒業しています。社会福祉士・精神保健福祉士の資格を持っています。
大学を卒業してから現在まで、ひとり暮らしを継続中です。
趣味は、日本史(戦国~明治初期)・漫画・アニメ。結構なガチオタです。






