ホームケア土屋が和歌山南部に事業所を設置 ~へき地介護を展開する意義とは~
対談参加者
星敬太郎……土屋ケアサービスカンパニー副代表
高浜 敏之……代表取締役 兼 CEO最高経営責任者/土屋ホールディングスカンパニー会長
司会……宮本 武尊/取締役 兼 CCO最高文化責任者
第1部:ホームケア土屋が和歌山南部に事業所を設置 ~へき地介護を展開する意義とは~

本日は、ホームケア土屋スーパーバイザー・星敬太郎さんの対談シリーズ第1回目として、高浜代表をゲストにお迎えし、
お二人に今後のホームケア土屋、株式会社土屋の行方について語っていただきたいと思います。
まずは星さん、スーパーバイザーへの就任、おめでとうございます。
星さんはスーパーバイザー就任後の大きな取り組みとして、この度、和歌山県南部にホームケア土屋の事業所を立ち上げられましたが、
その背景や経緯について教えていただければと思います。



ホームケア土屋は現在、47都道府県すべてに事業所を展開していますが、
都心部が中心で、まだまだサービス提供が行き渡っていないエリアが多くあります。
へき地と呼ばれるような離島や山間部には重度訪問介護の事業所すら一つもないという現状がありますので、
我々は理念に基づいて、そこにおけるサービス提供を実現できればと、今回和歌山県新宮市に事業所を構えることにしました。
そこを拠点に、那智勝浦など6市町村で、重度訪問介護サービスを提供する方針です。



高浜代表は和歌山南部への進出についていかが思われますか?



まず、そのようなチャレンジをしていただけるのは嬉しいですし、この取組み自体の結果は分かりませんが、
そこに取組むこと自体、土屋の理念が社内の大切な場所にしっかりと浸透していることの証でもありますので、非常に評価のできる出来事だと思っています。
土屋のミッションである「探し求める 小さな声を」を実現しようという意志表示だと思いますが、
この那智勝浦、いわゆる和歌山南部は、和歌山の中心部から車で3時間くらいかかる場所で、
私自身、親族が居住していることもあり、そのへき地ぶりは実感しています。
重度訪問介護サービス自体、ただでさえ事業所も担い手も少なく、
必要な人にまだまだサービスが届いていない中で、和歌山南部は重度訪問介護の利用者がゼロという状況です。
人口に対するサービスユーザーのニーズを考えると、ゼロということはどう考えてもあり得ず、
星さんの現地調査の結果としても、介護難民が生まれていることは間違いないと思っています。
それに加えて、和歌山南部は三重南部ともども、全世界における神経難病の発症率が最も高い地域の一つとされています。
我々はALS等の神経難病の方々の支援に力を入れていますが、そこには必ず我々のサービスを必要とする人がいるはずで、
この取組みは我々の今までの延長にあり、かつ集大成的な面もあるのではないかと感じています。



星さんは実際に現地に赴いて調査されたということですが、へき地におけるサービス提供の課題は何ですか?



そうですね、事業所設立前に和歌山南部の6市町村すべてに、調査も兼ねて挨拶回りをしましたが、やはりヘルパーの数をどう増やすかが課題だと思っています。
6市町村で重度訪問介護の事業所を検索すると20件ほど出てきますが、実際にご自宅に訪問してサービス提供している事業所は、事実上ゼロなんですね。
これはヘルパーがおらず、重度訪問介護を利用したくても利用できない人がいるということです。
いかに全国から応援のヘルパーを集めるか、可能であれば現地でどうヘルパーを増やすかが、今回のチャレンジの一番難しくもあり、肝だと思っています。



そうした中で、どのような進め方をされようと考えていますか?



私の立場からは外れるかもしれませんが、特にスタート時は全面的に介入し、マネージャー・管理者と連携して共に事業運営を進めたいと思っています。
社内のマーケチームともしっかりと連携して、イベントなどを通じて、現地のステークホルダーのみならず、
日本中に発信できるというような、今までにない大規模な顧客創造活動をしていきたいと思っています。
ただ、この事業を展開していく上では顧客創造活動、いわゆるニーズを探すことはもちろん必要なのですが、一方でそれをするのは怖いくらいだとも感じています。
というのも、ニーズは絶対にあるはずなので、その活動によってニーズがたくさん見つかり、
かつヘルパーの数が圧倒的に足りないという状態に一瞬で陥ると予想されるからです。
すると、力を入れるべきところはヘルパーさんを増やすこと。
これが大事で、現在土屋ケアカレッジにも「新宮市に実務者研修を何とか作ってくれないか」と依頼しています。
とにかく資格を取る機会を持ってもらい、そこで当社の理念や事業の方向性を語ることで、土屋で働いてくれるヘルパーを増やしていくことを考えています。



まずはヘルパーの確保が喫緊の課題というわけですね。



他にも一例ではありますが、障害福祉課の方から「高校で説明会や交流会をしてはどうか」とのご提案もいただきましたので、
重度訪問介護の利用者と一緒に現地の高校に赴き、実際に生徒さんたちに重度障害の方と接してもらうことを考えています。
そういった機会を継続的に作っていくことで、長い目で見て、一人でもヘルパーが増えるのではと感じています。
同業他社からでなく、他業界から福祉業界に来ていただくことを意識した動きを、さまざまな形で行っていきたいですね。



和歌山南部では重度訪問介護の事業所がゼロというお話しもありましたが、へき地・離島でのケアは採算性が合わないことから、事業所が設置されにくいという面もあります。
このあたりについて、高浜代表はいかがお考えですか?



それがこの取組みの一つの特徴でもありますね。
今回新設される事業所が黒字になることは、実際なかなか難しいと思っています。
営利法人は通常、黒字にならないことはしない傾向が高いですが、その中でへき地介護に取組むことこそが我々のアイデンティティを表現していると考えます。
我々はソーシャルビジネス企業であるという自負があり、利益を追求する通常のビジネスとはそもそも目的が異なります。
我々の目的は課題解決を優先することであり、時にそれがマネタイズが難しいとしても取組んでいく。
通常のビジネスでは考えられないことにチャレンジするということが、
我々のCI(コーポレントアイデンティティ)としての一端であるソーシャルビジネスカンパニーを表現することにもなり得ると思うので、非常に価値のある取組みだと思っております。



当社が社会的意義を優先することが、星さんへの追い風となりそうですが。



黒字化が難しいというのは、経営ではなくマネージャーをしている私でも分かります。
なので、今後も経営判断の中でご判断いただきたいのですが、日本中に和歌山南部と同じようなエリアが点在していると思っています。
その中で、私自身この和歌山南部で経験を積んで、ニーズや理念に応えることを実現できれば、
他のへき地と呼ばれるようなエリアにも、経営判断の許す限り展開したいと考えています。



ありがとうございます。
赤字覚悟の取組みが、当社のソーシャルビジネス企業の所以を示すものとも思われます。
第二部では、コンプライアンスをテーマに、経営と理念のバランスについて高浜代表にお考えをお伺いします。