介護と社会貢献~受刑者を通して社会を支えるという、福祉のあり方。~
田中雅啓
私は先日、法務省コレワーク北海道が主催する刑務所スタディツアーに参加した。
介護・福祉業界の事業者に対して、札幌刑務支所での職業訓練を見学し、刑務所出所者等の雇用支援についての理解を深め、出所者雇用を考えてみませんか。
という取組みである。
スタディーツアーで頂いた「コレワーク北海道の業務」および法務省・厚生労働省の「協力雇用主」パンフレット、ハローワーク担当者の説明によると、出所者は男性の比率が高く、
協力雇用主(刑務所出所者等の自立及び社会復帰に協力することを目的として、犯罪や非行をした人を雇用し、又は雇用しようとする事業主のこと)の業種では建設業が過半数を占めていることもあり、「医療・福祉」に就労する比率は低い。
その一方で、ハローワークの求人数では介護人材の比率が相当程度高い傾向にあると話されていた。
このようなミスマッチを軽減するため、法務省とハローワークが連携して、全国矯正施設の30か所で介護に関する職業訓練が実施されており、実務者や初任者研修修了証の資格を取得させていることが、コレワーク北海道のチラシにも記載されていた。
刑務所担当者の説明によると、札幌刑務支所は、道内唯一の女子刑務所で入所者は約270名。
就労支援として、ハローワークの職員が週1回訪れ、履歴書の作成指導や面接練習、様々な相談対応を行っている。
また女性ならではの取組みとして身だしなみやメイク指導を行い、メンタル面の向上にも繋がっているそうだ。
職業訓練では、介護福祉科のほか、PC操作やビルハウスクリーニングの資格を取得できるコースもある。
介護福祉科ではほぼ毎日5時間(6ヶ月450時間)の実務者研修が行われ、今まで受講者全員が修了証を取得し、そのうちの半数強は、出所後に介護の職に就きたいと考えているそうです。
最後に、旭川市でデイサービスや訪問介護事業所を運営する協力雇用主の話をお聴きした。
様々な苦労話や失敗談は興味深かったが、その中でも、出所者の就労支援も“福祉”だという気持ちでやっているし、他の職員にも「これも福祉だよ」と伝えていると言っていたのがとても印象的だった。
また、その協力雇用主によると、出所者は働いた経験に乏しい人が多く、悩みや不安、孤独を抱えているので、1人前になるまで時間はかかるし、メンタル面のケアも相当に必要なこともあるそうだ。
「コレワーク北海道の業務」には、出所者の中には、生育環境や疾病・嗜癖、貧困、高齢・障害など様々な“生きづらさ”を抱え、社会で孤立し、犯罪・非行を繰り返すという悪循環に陥ることもあることが記載されていた。
出所者のうち、無職者の再犯率は、有職者の約3倍にも上るという。
再犯防止には就労の確保が特に重要とのことである。
犯罪や非行をした人の立ち直りを“雇用”で支えることは、地域の再犯防止に協力する社会貢献活動として、人材不足に悩む介護業界における一つの在り方ではないかと思う。
◆プロフィール
田中雅啓 ホームケア土屋 北海道
田中雅啓(たなかまさひろ)
1969年、埼玉県生まれ
大学卒業後、就職をきっかけに北海道札幌市に移る。
主に銀行マンとして、転勤先の釧路や川崎、中国・上海を除くと、札幌での暮らしが生まれ育った川越より長くなりつつある。