「障害×運動×大きな夢」~2
片岡亮太
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突然ですが、皆さんは日ごろ何か運動をしていますか?
趣味でスポーツや登山をしていたり、ランニングやウォーキング、トレーニングを日課にしているなど、おそらく様々な人がいることと思います。
最近はお仕事終わりにダンスやキックボクシング、ボルダリングなどで汗をかいている人の話もよく聞きますし、執筆現在はパリオリンピックの真っ最中なので、日々報じられる日本の代表選手たちの躍進に触発され、新たに何かをスタートされたり、学生時代にやっていた競技を再開した人もいるのではないでしょうか。
では、障害がある人の場合はどうか、皆さんはご存じですか?
そもそも、皆さんはパラリンピアンのようなアスリートたちを除いた「障害者」と日常的な「運動」とを自然に結びつけることができますか?
例えば、僕と同じく全盲の視覚障害のある人、とりわけ体育の授業を受けることのない、社会人の場合はどうでしょう?
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実は大人の視覚障害者と運動とは、決して縁遠いものではありません。
先日会った、会社員をしている全盲の知人は、「できれば週に何度か走って、一か月に300kmくらいは走りたいのだけど、仕事の関係でなかなか時間がないんですよねえ」と話していました。
その言葉一つで、視覚障害のある人の社会生活において、運動は余暇になり得ること、そしてその内容が単に健康維持を目的としたものとは一線を画すレベルの人もいることが、十分に伝わるのではないかと思います。
実際、全盲、弱視を問わず、多くの視覚障害のある人が、趣味としてスポーツを楽しんでいます。
一部を上げると、「フロアバレー」といって、かつては盲人バレーと呼ばれていたバレーボール、「サウンドテーブルテニス」という視覚障害者の卓球、パラリンピックの競技にもなっている「ゴールボール」や「ブラインドサッカー」をはじめとする球技を、視覚特別支援学校や視覚障害者施設の体育館、あるいはグラウンドを利用して練習している団体やチームが、全国各地に多数あります。
その他にも、視覚障害者向けに開講されている、エアロビクスやヨガの教室、ボクシング、テニス、自転車、ボルダリング等々、競技の形式や指導法、道具やルールに工夫をしているスポーツはあまたありますし、珍しいところでは、ラグビーやスケートボード、セーリングなど、僕が知る限り日本での競技人口はまだそれほど多くないものの、国際的には長年親しまれており、国内でも徐々に熱が高まっているものもいろいろ。
都心部や大都市で活動する団体が圧倒的に多いものの、地方でも、多くの人が集まりやすい場所を会場に、これらの競技の練習会を実施していることは多々あり、僕の友人の中にも、そういう機会に練習に励んでいる人は少なくありません。
競技ごとに、全国規模の大会も開催されています。
また、視覚障害のある人と目の見える人とで結成されているランニングサークルも、全国に点在していて、見える人、見えない人が二人でペアになり、短いひもを持って並走する「伴走」というやり方で、長距離を走る人たちがたくさんいます。
長距離走の場合は、一般的なマラソン大会にもエントリーが可能なようで、国内の大きな大会はもちろんのこと、海外にまで足を延ばす人の話もよく聞きます。
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ただ、視覚障害者と運動について考えた時、主に全盲の人に言えることとして、完全に独力で行うことが難しいという点が挙げられます。
例えば皆さんに障害がないのであれば、今夜から毎日2kmでいいから歩こうとか、最寄駅から自宅までは走ろうと考えた場合、ほとんどの人が躊躇なく実行可能でしょう。
いつも見かけてはいながらも遠巻きにしていたトレーニングジムやキックボクシングのスタジオ、プール、社会人のフットサルチームなどに、「今日こそは行ってみよう!」と思えば、門をたたくことだってできるはずです。
それは、この記事を読んでくださっている大多数の方が、どんな運動をどのような手段を通して、どのくらいの頻度で行うか、ご自身の気持ちしだいで選択できる自由を持っているということ。
そこまでの自由は、僕たちにはありません。
走りたければ伴走者が必要だし、球技をやりたくても、練習をしているチームや団体が遠方にしかないというケースは多々あります。
住んでいる場所によっては、力を貸してくれる人が見つからなかったり、やりたい競技に取り組んでいる団体が存在していない場合も十分あり得ます。
ウォーキングだって、身の安全をしっかり確保しながら歩かねばならないので、目が見える人のそれとは、少々状況が変わってしまう。
さらに最近よく聞くのは、会員制のトレーニングジムを利用しようとした際、「何かがあると危険だから」という理由で利用を断られてしまったという事例。
そこで想定される「危険」には具体的な根拠や、シミュレーションはなく、漠然としたイメージで語られることがほとんどだそう。
ならばと、ガイドヘルパーを同伴して行くから入会を認めてほしいと伝えると、「そういうことなら大丈夫ですが、お付き添いの人にも入会費を払っていただきます。」と言われ、移動のサポートしかしないのに、なぜ入会する必要があるのかと意見しても通らず、二人分のお金を払うわけにもいかないので、結局利用を断念、そのような話をそこここで耳にします。
障害者差別解消法が今年の4月に改正され、「合理的配慮」と呼ばれる、サービス提供者が可能な範囲で障害のある利用者に対応を行うこと、その際に両者の間で建設的な対話をすることが、民間企業にも求められるようになった今も、こういったことはまだまだ多いようです。
筋トレも簡単な運動も、家でやろうと思えばできます。
それは、障害の有無を問わず言えること。
だから、わざわざジムに入会しなくてもいいではないかと思う人もいるでしょう。
けれど、充実した器具を使い、運動のために整えられた空間で、身体を動かすからこそ楽しいと思えたり、日常とは違うスペースだからこそやる気が出て、ストレス発散などの気分転換にもなる、それもまた障害があろうがなかろうが、誰もが当たり前に考え、願うことです。
その当たり前の気持ちの充足を、我々のように障害のある人は、「何かがあるといけない」の一言で阻まれてしまう。
残念ながら、日々の生活を彩ってくれるちょっとした運動にさえ、障害をめぐる、公平とは言えない社会構造が存在する、それが日本の現状。
きっと障害種別が変われば、また異なる壁がいろいろあることでしょう。
「運動」と「障害」の関係から見えてくるもの、もっと掘り下げてみたくなってきました。
* 今回、各競技についての詳細な説明は省きましたが、YouTube等の動画サイトで探していただければ、多くの視覚障害者スポーツを見られると思いますので、よかったら検索してみてください。
中でも、フロアバレーは、僕自身、高校、大学時代に熱中し、部活はもちろん、社会人のチームメンバーとして、プレイしてもいたので、ぜひ皆さんに見ていただきたいと思っています。
社会人チームの日本一を決定している以下の動画もなかなかに見ごたえがあります!僕は、思わず原稿を書く手が止まってしまいました(苦笑)。
ダイナミックな攻防戦で、なおかつ試合展開もスピーディだから、きっと詳しいルールを知らなくとも楽しめるはずです!
◆プロフィール
片岡亮太(和太鼓奏者/パーカッショニスト/社会福祉士)
静岡県三島市出身。 11歳の時に盲学校の授業で和太鼓と出会う。
2007年 上智大学文学部社会福祉学科首席卒業、社会福祉士の資格取得。
同年よりプロ奏者としての活動を開始。
2011年 ダスキン愛の輪基金「障害者リーダー育成海外研修派遣事業」第30期研修生として1年間単身ニューヨークで暮らし、ライブパフォーマンスや、コロンビア大学内の教育学専攻大学院ティーチャーズ・カレッジにて、障害学を学ぶなど研鑽を積む。
現在、国内外での演奏、講演、指導等、活動を展開。
第14回チャレンジ賞(社会福祉法人視覚障害者支援総合センター主催)、
第13回塙保己一(はなわ ほきいち)賞奨励賞(埼玉県主催)等受賞。