夏の夜の…施設介護あるある
瀧沢美奈子
一昔前の話をします。
今は重度訪問介護を始めて間もなく3年が経とうとしていますが、20代の頃は有料老人ホームで働いていたことがあります。
その日、私は夜勤明けでバタバタと入居者さんの起床介助をし、順番に食堂へ案内していました。そこへ早番さんが登場し、朝食時に提供するお茶の準備をしてくださっていました。
若干排泄介助に時間がかかる方がいらっしゃったものの、概ねいつも通りの時間には朝食を配膳できるところまでいけたのですが、ふと見ると早番さんが用意してくださったお茶が一つ余っていました。
この日の早番さん(仮称:Oさん)は私よりもベテランの方で、もともとは社員として働いていたけれども家庭の都合にてパートさんになった方です。が、当然パートだからといって手を抜くこともなく、完璧に業務をこなしてくださるタイプのしっかり者の方です。
が、お茶が余っている…。
私:『Oさん、お茶余ってますね。私の分ですか?』
なんて冗談めかして尋ねてみたら
O:『あれ?本当だ。おかしいな。タッキーのじゃないよ。ちょっと待ってね』
とおもむろに中を確認。
O:『コーヒーでトロミなし、ミルク・砂糖あり・・・あ、これY子さんのだよ。あれ?まだ座ってないのかな?』と。
ここで私は、あら?申し送り見てないのかな?くらいにしか思っていなかったのです。
私『Oさん、Y子さんなら5日ほど前にお亡くなりになりましたよ』
O:『え?だってさっきすれ違いざまに挨拶したよ?』
私:『いやいや。ここしばらくY子さん、立って歩くこともできなくなってずっと寝たきり状態だったじゃないですか』
O:『そう、だからね、え?歩いてんの?って思って話しかけたの。転倒して事故報(事故報告書)あげるのやだから、歩くならついていこうと思って。そしたら「皆様のおかげでこんなに元気になりました。ありがとうね。1人で転ばずに歩くの。瀧沢さんにもそう言ってあるの。1人で歩くのが嬉しいのよ。」ってしっかりと言ってたから、あの状態からここまで回復できるもんなんだなぁってちょっとびっくりしてたんだよね』と。
Y子さんはシルバーカーを押しながら歩行することが多い方でした。何度言っても、安全な靴よりもデザイン的にお気に入りの滑りやすいスリッパを履いて過ごされており、しょっちゅう転倒、そして出血。発見者が事故報をあげる・・・っていう事が多くて。
そして生前から「ここが好きだ」とおっしゃっており、「終の棲家にいい場所を見つけた」と話されていたので、おそらくですけど「お亡くなりになってからも会いに来てくれてたんだろうね」という話になりました。
数年前の8月15日の話です。
今年はどなたのところかに、誰かが帰ってきますでしょうか。(もしくは帰ってきたでしょうか)
他にもこの施設ではいろいろなエピソードがあり、私は霊感ゼロですけど、ある程度死後の世界を信じるようになりまして、これ以降はあまり幽霊やお化け的なものが不思議と怖くなくなってきています。
怖いのは生きてる人間。
転倒や出血により事故報告書をあげる・・・とかの方がよっぽど嫌ですよね。
◆プロフィール
瀧沢美奈子 ホームケア土屋 いわて
八王子出身。
しがないOLがリーマンショックから有料老人ホームの介護員になり、その後またOLに戻るも、紆余曲折を経て岩手で重度訪問介護の道を進みはじめる。
現在はホームケア土屋いわてコーディネーター従事中