失語症者向け意思疎通支援
櫻井純
11月11日付毎日新聞の朝刊の連載「ひと」にて、コロナ禍の旅行活動や失語症者向け意思疎通支援について取材・掲載頂きました。
コロナ禍では人前でお話しする機会は少なくなりましたが、長い入院生活からリハビリして初めて旅行に出かけて感動を受けたことから旅行の仕事を病院から始めたことを取材で振り返るたび、コロナ禍で失われた難病者や各種障害当事者の外出や人との交流の機会を再び回復したい想いがこみ上げてきます。
皆さんは失語症者向けの意思疎通支援はご存じでしょうか?
障害者と障害のない人の意思疎通を支援する手段として、聴覚障害者への手話通訳や要約筆記、視覚障害者への代読・代筆、点訳・音訳のように、失語症者に対して意思疎通を支援することです。
失語症のある方に対する意思疎通支援については、医療分野のリハビリで支援が行われていますが、医療機関を退院後に地域における福祉分野で支援が行われることがなく、支援手法が確立されていないなど、いまだに家族以外の第三者による支援が広がっていない現状があり、現在全国の都道府県で順次支援者の養成や検討が進められています。
私は京都府で失語症者向け意思疎通支援者として活動しています。
今では当事者として闘病やリハビリに費やす時間も増えましたが、支援者としても聴覚言語障害の「失語症」に向き合う機会を大事にしています。
言語が障害されるとご本人の気持ちをすべて完璧には理解できないのですが、寄り添う時間の中で障害や疾患の性質を学ぶことは理解するための第一歩。
失語症者向け会話パートナー養成勉強会が開催されたのを機会に学ぶことを始めました。
きっかけとなったのは、体が動かない全身脱力状態や顔面麻痺による発語困難だった頃、身体障害よりも辛かったのは誰とも話せない孤独でした。
急性期病院の病室で言語聴覚士さんとリハビリを続ける中で、話せること食事ができることの嬉しさや大切さを実感したこと、失語症の方と一緒に入院生活を送る中で会話したり仲良くなれたらいいなと思ったこと。
今もずっとリハビリを続けながら活動していますが、もともとは闘病生活が中心となり、闘病生活から始めた事が多く、実体験からの学びがやはり大きいです。
取材頂いた失語症者の方の旅行も、失語症者の方がみんなと一緒に旅行に出かけたいと話された事がきっかけでした。
失語症の方同士が連絡を取り合って一緒にどこか行くにしても、お互いに言語障害があれば連絡のやり取り自体が困難になってきます。
日時は?場所は?費用は?約束をするだけでも多くの言葉を発したり、文字にして伝えなければなりません。
言語が障害されると、言葉が分からない海外に放り出されたかのように不安や問題が起きてきます。
困っていても「助けてください」と伝えられないこと、障害が見た目に分からないこと。
助けを求めることも難しく、周りからの理解を得るのが難しくなれば、社会生活が大きく障害されることは大きな課題だと実感しています。
見た目に分からない障害や病気の理解も含めて不安が取り除ける社会になることを願って、支援の現場に出ながらも幅広く合理的配慮を学びつつ実践し伝えていけたらと思います。
プロフィール
櫻井純(さくらい じゅん)
1987年 兵庫県加西市生まれ
12歳で急性散在性脳脊椎炎を発症。26歳で10万人に1人程度の割合で発病する慢性炎症性脱髄性多発神経炎を発症。29歳でシャルコー・マリー・トゥース病の診断を受ける。
常に治療リハビリが必要で一般就労が難しい状態から社会参加への強い想いを持ち、2016年難病障害当事者が運営する旅行会社櫻スタートラベルを起業。
当事者目線で障害や疾患に配慮する旅行や働き方の取り組みが、産経新聞 ・The Japan Times・朝日新聞で紹介される。ジャパン・ツーリズムアワードビジネス部門(ユニバーサルツーリズム)連続入賞。
重複障害による筋力低下・感覚低下・激しい痛みがあり、現在も年間約120日程度入院やリハビリを継続。
難病や障害の相互理解を促す活動として講演活動・失語症者向け意思疎通支援を行う。
目に見えない障害や複数の難病と向き合う当事者の立場から、誰もが希望を持てる優しい社会づくりを目指す。