伝えたいを支えたい
櫻井純
全身脱力した状態で言葉が上手く話せなかった頃、感情を上手く言葉にして伝えられないことがもどかしくて、言語機能のリハビリを日々頑張った時期がありました。言語聴覚士の先生と二人三脚で少しずつ言語機能が回復してきた頃、点滴ではなく自分の口で咀嚼して食事ができたり、気持ちを言葉で伝えられる嬉しさは、私の闘病生活の中でもとても大きな喜びの1つでした。
主に脳卒中やその他の病気や怪我が原因で身体に麻痺が残る方が多いですが、脳の言語機能が低下すると日々のリハビリだけでは改善が難しい方もいらっしゃいます。聴覚言語障害の中でも失語症という言語障害は、なかなか伝えたい言葉が出てこなかったり、平仮名では言葉の意味の理解が難しくなったり、話せるけれど無意識に違うことを話してしまう錯誤など、お一人お一人様々な苦手があり、社会生活の障害となっています。
日常生活において言語で意思疎通が上手くいかないと、相手とのやり取りが難しく、嬉しい気持ちも、助けてほしいというSOSなど、様々な希望や状況を伝える事が難しくなります。知らない言語の国にいきなり連れて行かれ、取り残されたような状態とよく似ているかもしれません。
私は当事者として言語リハビリを始めた頃からずっと、一緒にリハビリする仲間ともっとコミュニケーションがとれたら良いなという想いから、言語聴覚士の先生から失語症という言語障害について専門的に学び、失語症者向け意思疎通支援者として認定を頂いてボランティアを続けています。
失語症者向け意思疎通支援者とは、失語症をお持ちの方が自分らしく生活できるように、日常の外出場面において必要なコミュニケーションを支援する方で、会話パートナーとも呼ばれています。支援現場でお会いする方々の言語機能は様々ですが、身振り手振りで気持ちを伝えようとしてくださる方も。言葉が全く出て来なくても同じ時間を一緒に過ごすことを続けています。
病気の発症や症状などこれまで生きてきた辛い時や出来事も一緒に振り返りながら、これからを楽しみに地域で生き生きと自分らしく生活できる、日常生活を安心して送ることができる、そんな社会になればいいな。
ご家族や親戚やご友人と集まって楽しく時間を過ごされる方が多い年末年始や行事の時期。先日ボランティアに参加した際、意思疎通が難しい方々もみんなと一緒に集まって笑って安心して過ごすことができてホッとしました。なかなか困難を発信することが難しい言語障害と向き合われている方々も、一緒に地域で暮らしていることが認知されるよう、言葉にならない小さな声として支えながら向き合っていけたらと思います。
プロフィール
櫻井 純(さくらい じゅん)
1987年 兵庫県加西市生まれ
12歳で急性散在性脳脊椎炎を発症。26歳で10万人に1人程度の割合で発病する慢性炎症性脱髄性多発神経炎を発症。29歳でシャルコー・マリー・トゥース病の診断を受ける。
常に治療リハビリが必要で一般就労が難しい状態から社会参加への強い想いを持ち、2016年難病障害当事者が運営する旅行会社櫻スタートラベルを起業。当事者目線で障害や疾患に配慮する旅行や働き方の取り組みが、産経新聞 ・The Japan Times・朝日新聞で紹介される。ジャパン・ツーリズムアワードビジネス部門(ユニバーサルツーリズム)連続入賞。
重複障害による筋力低下・感覚低下・激しい痛みがあり、現在も年間約120日程度入院やリハビリを継続。難病や障害の相互理解を促す活動として講演活動・失語症者向け意思疎通支援を行う。目に見えない障害や複数の難病と向き合う当事者の立場から、誰もが希望を持てる優しい社会づくりを目指す。