【広報土づくり 令和3年11月号】レポート

みなさま、こんにちは。広報土づくり11月号は、交通事故による重症頭部外傷・意識障害という重い障害を持つ能勢恭太郎さんと、お母様である能勢雅美さんへのインタビュー内容や、土屋の統合過程について、そして株式会社土屋の最高文化責任者である古本聡さんのこもちゃんTVの番組表をお知らせするよ♪

つっちー

能勢雅美さんインタビュー

小学校5年生のとき、能勢恭太郎さんは交通事故で意識障害となりました。今回は、お母様に事故当時の状況、そして苦しみを経て在宅生活に至るまでの経緯と、恭太郎さんの今とこれからをお聞きしました。

【プロフィール】

能勢恭太郎(20歳)
交通事故による重症頭部外傷・意識障害。
インタビュー:能勢雅美(母:花屋を経営する傍ら、フラワーアレンジメント教室を開講)

【突然の事故、そして…】

息子が小学校5年生(11歳)の時に交通事故に遭いました。

ノンブレーキの車に15mくらい跳ね飛ばされて、心肺停止の状態で病院に搬送。手術室でも心停止して蘇生はしたものの医師からは「生きられません」と言われました。

一晩明けて、もう一度手術を受けましたが、その時も同じ状況に陥って「これ以上何もできない」と。けれどそれから2週間くらいが経過して峠を越えた感じです。ただ医師からは「仮にこのまま生きられても意思の疎通と身体の動作はできません。目でものを追うことくらいでしょう」と。回復はしないと言われました。

【生死をさまよった2年間】

最初の2年くらいは状態が安定せず、敗血症など怖い感染症をずっと繰り返していました。

ほとんど寝たきりで過ごしていたし、ICUから一般病棟の個室に移っても、そこから出られませんでした。高熱や脳出血などが繰り返されて、想像を絶するようなことが次から次へと起こる日々で。

そんな状態がいつまで続くのか、その間、息子はずっと苦しい思いをしていたんです。

【母として】

私自身は始めは何が起きているか、あまり分かってなかった。現実離れしすぎてて、だから逆に変に前向きだったし、生きてさえいれば治るって信じていて。

けれど4か月くらい経った頃から現実感がじわじわと湧いてきて、そこから自分が普通ではなくなっていきました。

家に引きこもって、一切誰にも会わず、誰とも話さず、とにかく病院と家を往復していました。けれど息子があまりにも苦しそうで、人が死にかけてるときってほんとに尋常じゃない感じで、こっちが見てられないというか、そういうことが2年間で何回もあったので私自身が「もう無理」と、何回諦めかけたことか。

毎日その日をやり過ごすことしか考えられませんでした。「今日は死ななかった」、翌朝は病院に行って「生きてた」って。怖かったです。ずっと恐怖の中にいた感じで、回復とか未来とか将来といった言葉も聞きたくなかったし、文字で見たくもなかった。

夢とか希望とかも勘弁してくれって。だからテレビも見なかったし、新聞も読まなくなって、ラジオも音楽も一切聴かなかったです。世の中と隔絶された2年間でしたね。

【病院から出よう】

普通高校に入学するには、まず学力を証明する必要がありました。

2年近く経って感染症の危機からは抜け出せたんですが、胃ろうを作っても栄養を入れられない状態が続いて。体は細くなるし、体力もどんどん落ちていって何をやっても悪循環でした。

でも、次第に少しずつ栄養が入るようになって体重も増えて、死なないって思えてきてから少し希望が見えてきました。

それでもまだ家に帰れるとは思えませんでした。けれど、大学病院での入院が4年近くになって息子も15歳になったし、病院から出よう、家に連れて帰ろうと思い始めたんです。

【NASVA】

大学病院から直接在宅への道筋があまりなく、ワンクッション置く意味で、もともと入院を考えていたNASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)の委託病床がある中村記念病院(札幌)に移りました。

NASVAの委託病床は、交通事故の重傷者ばかりを受け入れていて、在宅に向けて3年間手厚いリハビリが受けられるので、そこで2年半過ごしました。結局、入院生活は全部で6年半にも及びました。

*NASVA:国土交通省所管で、自動車事故の発生防止や被害者への支援が主な目的。

【退院までの道のり】

退院を考えた時、息子は17歳で、重度訪問介護制度を受けられる年齢ではなかったんですが、15歳以上であれば特例として受けられるケースもあることを聞いていたので、まずは相談室に行きました。

最初は生活介護で、ヘルパーさんが使えるのも月に90時間と言われました。でも、それでは在宅生活ができないので役所に交渉しました。息子の様子を見てもらったり、今までの経緯や状態を説明したりして、繰り返し交渉して、重度訪問介護の給付を認めてもらいました。400時間を切るくらいのスタートだったと思います。

【そして、今。】

在宅生活も3年目に入りましたが、回復も本当に少しずつですけど、し続けていると思います。良くなったことはたくさんありました。

今も寝たきりで気管切開・胃ろうもあって、自分からの意思表示は何もできないです。手も足も思い通りには動かせません。

けれど、身長も今では175センチくらいになって、体重は約60キロ。身体も成長して、体力も少しずつついて高熱は出なくなりました。

意識障害の面では、最初は表情も一切ありませんでしたけど少しずついろんな反応を見せるようになったり、目でものを追ったり、「こっち見て」と言ったら見ようとしたり。今では私たちの会話を聞いて、声は出ませんが、肩をゆすって笑うこともあります。私は息子は言葉や会話をほぼ理解していると思っていますし、医師にもそのように言われました。

だから息子にとって、自分から何も表出できないことは大きなストレスになっていると思います。 こういうことから息子には、ちょっとでも苦痛がないようにベッドでもなるべく楽な姿勢を作ってあげたいし、服のしわなどのストレスを減らしてあげたいと考えています。

【やる気と自立】

今は訪問介護や訪問入浴、訪問リハビリ、訪問看護、訪問診療を受けて日々過ごしています。余暇はテレビや映画を見たり、自宅でできるリハビリをしたり、なるべく外出をするようにしています。

事故に遭うまでは少年団に入って毎日サッカーばっかりやっている子だったので、外の空気を吸ったり、太陽の光を浴びるのが体調の面からも大事だと思って。サッカーの試合を見に札幌ドームに一緒に行ったり、大きな公園で散歩したり、富良野のラベンダー畑に行ったり。ヘルパーさん2人にお願いして、キャンプに行ってテントでも寝ました。

最近は、統合課程で当事者講師もしています。私が話をして、息子の身体の状態などを受講生に見てもらっています。こうしたことが息子には刺激になっていて、すごく覚醒しますし、充実感や本人のやる気にもつながってくるんじゃないかなと感じています。

【これから】

1年ほど前に札幌で非定型という制度が始まりました。重度訪問介護の時間数はMax720時間ですけど、それ以上の時間が必要な人には必要な時間数をというもので、私も申請して今780時間いただいています。

実はヘルパーさんを二人体制にしてもらってトイレの練習がしたいんです。

1日1回でもトイレで排泄ができたら息子にも刺激になって、もっとやる気になるかもしれない。

入浴も、週2回の訪問入浴と清拭はしていますが、二人体制が取れたらシャワーキャリーを買って、シャワー浴だけでもできたらと考えています。

いろんなことを試して、少しでも息子の自立に向けて歩んでいきたいです。 私たちも生きているうちは頑張れるけど、親亡き後を思うと、どうしても他人の力って借りなきゃいけなくなる。

息子がこれから少しずつ回復していっても、結局生活するのは息子なので、私たちが今やるべきことは環境を整えることだと思うんです。これから息子が少しでも自立できることが私たちの安心につながっていくので、そのためにも周りの人たちとの関りや過ごしやすい環境を作っていきたいです。

制度としても、行政では該当基準が非常に狭く設定されていて、その基準に当てはまらなければ「使えません」で終わってしまいます。それだと、違った状況にいる人たちが使える制度にはなりません。

もっと柔軟な対応と制度運用をしてほしい。そういう風に変えていければ、とても嬉しいです。

【最後に~ヘルパーさんへ~】

家族として今後の回復を諦めてはいませんが、回復の鍵は日常生活の過ごし方にあると思うんです。息子は、一緒に長い時間を過ごしてくれるヘルパーさんとの関わりの中でいい方に変わっていくと思うし、実際にこの2年半ですごく変わりました。

ヘルパーさんは家族に一番近い他人として関わっていってほしいと思っています。

土屋の統合課程って?

株式会社土屋では重度訪問介護ヘルパーに必要な資格である、重度訪問介護従業者養成研修統合課程を土屋ケアカレッジにて開講しています。講義、演習、実習の合計20.5時間、3日間の研修です。

この課程には、喀痰吸引等研修第三号の基礎研修に相当する研修も含まれているので、受講生は医療的ケア(喀痰吸引と経管栄養)の講義を受け、演習の時間に人体模型を使って手技を学びます。

講義はコロナ禍の特例措置により現在はオンラインでの開催です。

ノーマライゼーションや障害者運動の歴史、見守り介護の重要性を伝える時間もあります。

土屋ケアカレッジの特色として、毎回障害当事者や元大学教授がゲストとして参加し、重度障害者の地域生活やコミュニケーション方法、優生思想についての話をします。

実習では、実際の介護現場に足を運び個別ケアのあり方を学びます。各カレッジでは研修室での実習を行うこともあります。

ホームケア土屋のクライアントが来室し、実際の介護現場と同じような環境になるよう備品を整えます。研修室での実習は、受講生が複数となることから質問が出やすく、クライアントも介助者への思いを伝えやすいようです。

こもちゃんTVの番組表をご紹介!

こもちゃんTV  番組表(予定)

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つっちー
株式会社土屋の最高文化責任者であり、障害当事者でもある古本聡(通称こもちゃん!)と、ざっくばらんにトークしようという番組です。見るだけでも良し、参加しても良し。みんなで気楽におしゃべりしてみましょう!お顔出しNGの方もビデオOFFでお気軽にご参加くださいね。

↓「広報土づくり」令和3年11月号 拡大号のダウンロードはこちら

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