みなさま、こんにちは。広報土づくり8月号は、ALS患者で愛媛のクライアント、中谷祐子さんにZOOMでお話を伺いました。とても穏やかで明るく、素敵な女性の中谷さん。アテンダントの方は、中谷さんが怒ったり不機嫌になったりする姿を見たことがないと言います。本インタビューでは、コーディネーターの近藤優美さんに通訳をしていただき、中谷さんに今の暮らしやアテンダントとのかかわり方、サービス申請時間の拡充やALS完治に向けての取り組みなどをお聞きしました。♪
中谷祐子さんインタビュー
【プロフィール】
名前:中谷祐子
年齢:61歳
出身:愛媛県松山市
趣味:Facebook
好きな人:佐々木優さん、かもしれない(笑)
【ALSを発症して】
発症したのは40代の頃。今で、もう18年になります。
私は愛媛県松山市で生まれ、結婚して今治市に行きました。息子と娘、二人の子を授かりましたが、残念ながら主人とは上手くいかず、子どもが小学生の時に離婚しました。
そして故郷の松山に帰り、シングルマザーとして子育てをしました。 始めは経理ソフトを作成する会社に勤めていたのですが、残業も多く、休みも少ないので子育てとの両立が難しく、転職して公務員になりました。
当時は油絵や洋裁が趣味で、子どものお洋服を作ったりしていました。あと母が茶道と華道の先生でしたので、私もお花を少し教えていました。
ALSを発症したのは、公務員時代です。
【ALSの診断を受けて】
ALSを発症したときは、子どもが二人とも高校生で、長男は大学への進学を控える重要な時期。
私は、死んだほうがいいのか、生きていたほうがいいのか、子どもの心、子どものためを考えることで精一杯でした。自分のことを考える余裕はなかったです。
その後、私はカンファレンスで呼吸器を装着しない選択をしました。県や医療機関側からも付ける選択肢はないと言われていて。
でも、ある日のカンファレンスで、普段自分の気持ちを口にしない息子が、「呼吸器を付けて頑張ってもらう」と言ってくれて。その時、「生きよう」と思ったんです。
【現在の生活】
私はALSの他に、アイザックス症候群という指定難病にも罹患しているので、身体が痛くて車椅子にも座れず、服も着られません。
ですから日中はベッド上でiPadやスマホを見たり、InstagramやLINE、Facebookで友達と情報交換しています。治験の募集やALS研究の進捗状況などですね。2年前に気管切開しましたが、呼吸器は寝るときだけ付けています。
あと、長女と暮らしているのですが、彼女は同じ重度訪問介護の管理者(他事業所)をしているのですごく忙しく、顔を合わすのは1日に1、2回。だから独居と一緒かな。けれど長女の小学生時代からの友人が今はヘルパーとして入ってくれています。彼女は元々、施設で介護の仕事をしていたのですが、わざわざ転職してうちに来てくれたんです。嬉しいことですね。
【点滴で手が動くように!】
実は以前は手が動かなかったんです。けれど、松山リハビリ病院の先生(iPS細胞やALSの研究が盛んな京都大学の先生らしい)に、ALSに効く点滴を2週間打ってもらうと、手が動くようになりました。
あとは徳洲会病院でラジカットという点滴の治験も今まで2回しました。 私は愛媛のALSの支部長をしている関係で情報が入るし、ALSを発症して間もない方の不安も分かるので、いろいろな治療を試しながら、ALSの完治に向けたお手伝いをしていきたいと思っています。
【自分で痰の吸引を⁉】
現在、私は24時間の支援サービスが受けられておらず、長女が仕事で出ていて、ヘルパーさんもいないという1人っきりの時間もあります。
そういうときは、口はもちろん、痰の処理も自分でしているんです。人口鼻を外すと痰が出てくるので、それをティッシュで拭き取ります。苦しい時は思いっきり咳をしたり、こんこん咳をし続けたら痰が飛び出てくるんです。取ってくれる人が誰もいないですからね、危険だとは思うんですが、運命に任せています。
【アテンダントとの関係~上手くいく秘訣~】
私は常に、何かしてほしい時は、その理由とやり方をヘルパーさんに伝えています。自分の思い通りにしてもらえないのは、多分ヘルパーさんが「なぜそんなことを言うの?」って思っているから。だから、きちんと理由を言います。
ただ、ヘルパーさんの技量を見極めて頼み事をするようにしています。できないときは、また一から教えます。
あと、反対の立場ならどうだろうと思って言葉を掛けたり、仕事を頼んだりします。昔はヘルパーさんにいじめらしきことをされたので、我慢ばかりしていました。だから反対の立場を考えます。(*いじめは他事業所で過去案件)
【土屋のアテンダントへ】
感動的によく動いてくれるし、夜勤も常に私の動きに敏感に反応してくれるので、今以上は望んでいません。
でも、できたらもっと入って♡
【未来に向けて】
愛媛では、まだ24時間の訪問時間を取れている利用者がいません。私も松山市から、同居している家族がいるんだから、家族に助けてもらうようにと言われます。
でも、長女は仕事でほとんど家にいないですし…ですので今、申請書を作っています。
今後、24時間の訪問時間を取るのが目標です。 あと、この春、桜を見に行きたかったんですが、体調がすぐれなくて行けなくなってしまいました。
身体の調子が許せば、沖縄に海を見に行きたいです。そして孫が見たい。けど無理かも(笑)
「情動抑制困難」について
~情動抑制困難とは~
研究者によると、ALSに併発して起こる症状として、「情動抑制困難」があるとされています。これは、楽しいことに対して泣いてしまったり、笑うべきでない場面で笑ったりというように、状況にそぐわない感情の反応が現れることで、神経性障害の一つとされています。その多くが制御困難であり、こだわりが強くなる、怒りの表出が強く出る、思いやりや気遣いができなくなるなどの症状が見られるとの見解もあります
ALSの患者さんは厳しい人が多いとよく言われます。強いこだわりや暴言、無視などで、アテンダントが耐え切れず辞めていくことも多いと報告されています。そうしたことは「情動抑制困難」の症状にも関係するとお聞きしましたが、中谷さんはどう思われますか。
例えば言葉を話さず、両手両足を縛って1日動かずに過ごすことを想像してみてください。自分の想いが通じないストレス、数ミリのシーツのしわや手の重なり具合、手足の痛み、腰の痛み、背中の痛み、体の痛みで頭の中はいっぱいになります。その上で、ヘルパーさんに指導をするのはとても疲れることもあります。
確かに医学的に情動抑制困難が解明されてきましたが、脳科学の結論だけでALS患者の心の不自由まではわからないと思います。怒っているときも、心は痛みと悔しさで、自分自身に対して怒りが向けられていることもあります。介助者や関係者はALSの病態を理解して、情動抑制困難の一言で片づけず、その人の人間性までを否定するような言葉がけや態度は取らないでほしいです。
私は泣きたいけれど涙が出ません。笑いたいけど顔の筋肉があまり動かないので笑えません。それだけでストレスを感じることもあります。簡単に情動抑制困難に当てはめてしまって、携わっている介助者がALSの患者を誤解しないことを願っています。
後日談
土屋のマネージャー、佐々木優さん。とっても優しくて頼りがいがあり、スタッフからの信頼も厚い四国のマネージャーです。なんと後日、本インタビューのお返しとして、中谷さんを外出に連れて行ってくれたとのこと。しまなみ海道で、蝉の声と溢れんばかりの日の光に包まれた中谷さん。とても感動されたご様子です!