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【障害福祉サービスの基礎知識(在宅編)第5回】

~重度訪問介護の支援で出来ること出来ない事 この支援して良いの?良くないの?~

◇はじめに(前回の振り返り)

皆さま御無沙汰しております。夏に入り、様々なことが起きています。

いつも、皆さまには、長文ながらこの記事を読んでいただき、誠にありがとうございます。

さて今回は、「重度訪問介護の支援で出来ること出来ない事」が、テーマになります。

その前に、前回の要点を、とてつもなくざっくりとおさらいをします。  

●「重度訪問介護の支援に入るための資格」自体については、時代の流れとともに変化はしておりますが、介護福祉士を頂点に、数多くの資格が存在するということ。

●その中でも、「医療的ケア」を伴う支援をする際についての資格は、重度訪問介護の場合は「重度訪問介護従業者養成研修統合課程修了資格」もしくは、「重度訪問介護に入ることのできる数多くの資格&『喀痰吸引等』の資格である通称、三号研修修了資格」が必要であるということ。

以上の二つについて、詳しく説明させていただきました。

それでは、そのような資格を取得した上で、重度訪問介護の支援に入った時に、どのような支援ならして良いのか。

裏を返せば、「どのような支援をしては、良くない(悪い)のか。」ということについて、今回は述べていきたいと思います。

(序)重度訪問介護の支援で出来ること出来ない事、「事始め!」

『重度訪問介護制度』による支援が、どのようなものなのか。

そういったことを、似たような「在宅系の障害者への訪問介護としての制度である『居宅介護』」による支援と見比べながら、本シリーズの「基礎知識」の第2回で詳しく書かせていただきました。

再度、一言で第2回目の「基礎知識」を振り返ると、

●「居宅介護」は、事前のプランニング通りの支援を行い、その内容についても「身体介助」「家事援助」「通院等介助」などに細かく区別されているのに対して、「重度訪問介護」は、長時間の連続した支援が大原則であり、「身体介助」「家事援助」「入浴」「外出(通院含む)」その他すべての支援について、「『見守り等』とともに「総合的に支援」する制度であり、総合的な支援が優先され、事前プラン以上に「現場に即した支援」が優先される。

と説明させていただきました。

同時に、特質として、重度訪問介護のみ、障害者や高齢者などを問わず「入院中の支援」も存在し、他に独特な「コミュニケーション支援」なども存在することを書かせていただきました。

これらは、他の制度にはない「重度訪問介護」制度の、最大限の特徴だと述べさせていただきました。 

その上で、「基礎知識」の第3回で、障害者支援の歴史を振り返りながら、

●障害者の自立生活運動の流れを受けて、ボランティア運動に始まり、そこから公的支援制度として発展し、「障害者総合支援法という法律」に基づいて「重度訪問介護」という支援制度として生まれ変わったものであり、いわば、ボランティアとして関わった一般市民と障害当事者が作り上げていった「唯一の制度」である。

ということについて述べさせていただくことによって、「重度訪問介護制度の本質」に迫らせていただきました。

換言すれば、「重度訪問介護の支援の本質は、第2回のところで述べたように『見守りに基づく総合的な支援』である」が、それは、「障害者の自立生活運動」という社会運動の中で、培われ発展していったものであるということであります。

ボランティアとはいえ、一般市民が関わり、さらに制度に関わる当事者=この場合は障害当事者が、双方向で関わり合いながら、公的制度化まで発展していった法制度というものは、数多くの法制度の中でも数少ないものであります。

とりわけ、社会運動の発展系という部分に限局すれば、稀有な制度であるということであります。
 
さらに、「資格」という観点から重度訪問介護制度について、「基礎知識」の第4回において書かせていただきました。

その中では、今回の冒頭の方で、「はじめに(前回の振り返り)」で掲げた事柄について説明させていただきました。

とりわけ今回の冒頭の部分で触れたように、「医療的ケア」を伴う支援については、医療的ケアを行って良いという資格が存在するということについておさらいをさせていただきました。

さらに、もう少し第4回の振り返りをすれば、「医療的ケア」を行うと一言で言っても、喀痰吸引だけではなく、胃ろう等の様々な種類が存在し、それらの医療的ケアを、どこまで行って良いかという視点から資格が定められているということについて第4回のところで詳しく述べさせていただきました。

以上のようなところを踏まえつつ、第4回まで積み重なってきた「障害福祉サービスの基礎知識」第4回目までの説明を踏まえながら、「重度訪問介護の支援で出来ること出来ない事」ということについて今回は書き進んでいきたいと思います。

(Ⅰ)重度訪問介護の制度そのもので「できること、出来ない事」について

(1)重度訪問介護による支援の特徴

障害福祉サービスの基礎知識の第2回で説明させていただきましたように、重度訪問介護は、その支援内容について次のように法令上で定められております。

●重度訪問介護
「重度の肢体不自由者又は重度の知的障害若しくは精神障害により行動上著しい困難を有する障害者であって、常時介護を要するものに対して、比較的長時間にわたり、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り等の支援とともに、食事や排せつ等の身体介護、調理や洗濯等の家事援助、コミュニケーション支援や家電製品等の操作等の援助及び外出時における移動中の介護が、総合的かつ断続的に提供されるような支援」をいうものである。

(障発0330第3号 令和3年3月30日「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービス等及び基準該当障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の制定に伴う実施上の留意事項について」から引用)

すなわち、重度訪問介護は「長時間の支援で時間設定も柔軟な支援」を行うことができ、「身体介護」や「家事援助」や「外出時の介護」などが区別されずに、総合的な支援として行うことができる支援であり、更に、これらの支援は「見守り等の支援とともに」行うということが最大の特徴となっている「総合的な支援」であります。

故に、実際の支援に入る前に作成されたプラン以上に、現場で発生する「日常生活によって生じる様々な介護の事態に対応する支援」を行うことが最も大切な支援内容なので、事前のプランに縛られない、柔軟な支援を行うことができます。

他方で、同じ基礎知識の第2回で重度訪問介護と比較対象として掲げられた居宅介護について振り返ってみてみると、障害児者の自宅において、入浴や排泄などの「身体介護」、調理や洗濯などの「家事援助」、病院や診療所などに行くための「通院等介助」というように「支援についての区別がはっきりされた」支援であり、実際の支援前に、事前にきちんとした支援内容についても決めておき、事前に決められた支援に外れる内容の支援は出来ません。

これらの違いをまとめると、「居宅介護」は事前に設定されたプランに基づく支援を行うことに対し、「重度訪問介護」は「見守り等の支援」とともに行う支援を行いつつ、事前に設定されたプランに縛られず、現場で必要な「総合的な支援」を「長時間の支援」の中で行うことが特徴であるといえます。

このような事が所以で、とてつもなくわかりやすくするための表現として、「重度訪問介護は、何でもありの制度」などと、言われたりすることが少なくありません。

制度開始時期の時は、特に、そのように表現する方が見られたことも事実です。

確かに、そのような表現が、「適切である」と強く感じられるほど、柔軟で、優秀な支援制度であることは事実です。

しかしながら、現行制度の課題の是非については別として、いかに柔軟な、「重度訪問介護制度」だとしても、少なからず、「出来ない事」というようなものは存在します。

(2)重度訪問介護で出来ないこと(重度訪問介護制度内での規制)

さて、重度訪問介護による支援の際の、詳細なサービス費用の算定方法について定めている規定である、令和3年改定の厚生労働省告示第87号の中で次のように定められています。

1 重度訪問介護サービス費
イ重度訪問介護の中で居宅における入浴、排せつ又は食事の介護等及び外出(通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、通年かつ長期にわたる外出及び社会通念上適当でない外出を除く。以下この第2、第3及び第4において同じ。)時における移動中の介護を行った場合

(1)所要時間1時間未満の場合185単位 (以下略)
(「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービス等及び基準該当障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準」から引用)

前述の厚生労働省告示第87号で定められているように、重度訪問介護が、「見守りの支援とともに総合的な支援を行う」支援制度だとしても、端的に「重度訪問介護だけ」の制度利用では、

(A)就労(=通勤、営業活動等の経済活動にかかる外出)だけでなく、
(B)通学(=通年かつ長期にわたる外出)

上の二つとも、重度訪問介護で、支援を受けながら「就労する」ことも、「通学する」ことも、出来ないわけであります。加えて、

(C)飲酒喫煙やギャンブル等の遊び(=社会通念上適当でない外出)

についても、重度訪問介護での支援を受けながら、行動することはできません

ですが、(A)就労について関連するところでは、不労所得(=銀行の利子や、不動産賃貸などで得た利益や、株主等に基づく配当金を受ける)のための経済活動は、明確にとどめる定めはありません。

同様に、(B)「通学」と主に解釈されておりますが、学校ではない、社会参加を前提とする「サークル的な学び」のようなものについては、規制する定めはありません。

さらに、制度解釈のような話になってきますが、(C)「飲酒や喫煙あるいはギャンブル」を伴わなければ、「酒を飲まないので、居酒屋でおつまみを食べて、みんなとワイワイする」ことや、「馬券などを買わず、お馬さん(競馬場)や、船のレース(競艇)や、自転車のレース(競輪)などを見に行くこと」は、全く問題なく、「社会参加」として、「(社会)見学」のような感じに、見に行くことは、回数を問わず、重度訪問の支援を受けながら見に行くことが、可能だと言えることになります。

なぜなら、障害者総合支援法の第1条の2で定める「基本理念」によれば、

障害者及び障害児が日常生活又は社会生活を営むための支援は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、全ての障害者及び障害児が可能な限りその身近な場所において必要な日常生活又は社会生活を営むための支援を受けられることにより社会参加の機会が確保されること及びどこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと並びに障害者及び障害児にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものの除去に資することを旨として、総合的かつ計画的に行わなければならない。

と言うように、明文として、「全ての障害者(略)が可能な限り(略)必要な日常生活または社会生活を営むための支援を受けられることにより社会参加の機会が確保される(略)」と、強く謳われております。

と同時に、「(略)障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切の物の除去に資することを旨として(略)」とも、明文化されております。

さらに、重度訪問介護制度を定めている、いわゆる「障害者総合支援法」の大元となる根本法になる「障害者基本法」の第1条の「目的」には、

「(略)障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本原則を定め、国及び、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を定めること等により、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進すること(略)」

と定められています。

これは、障害者のための支援施策=制度というものが、「障害者の人格の尊重」はもちろんのこと、「障害者の自立と社会参加の支援」のために存在すると言うことを、強く明確化している所以と言えます。 

とはいえ、「法制度」というものは、特に社会福祉に関わる法制度分野においては、貴重な、国民皆々様の税金を原資源とするところ、その資源たる税金=お金というものは、限りがあるので、その使い方=制度の運用については、より平等で、効率的な使い方を求められる事(=国民の意思)については、強く尊重しなければならないので、一定程度の制限がかかることも致し方ない側面があることは、厳然としてあります。

しかしながら、ここだけは、それこそ「障害の有無にかかわらず、加えて、障害者に関わっているか否かにかかわらず」という意味で、一国民として、

●法律(=障害者総合支援法や障害者基本法など)は、選挙で選ばれた国会議員(衆議院議員による衆議院と、参議院による参議院議員による両方)の議決によって定められた、日本国憲法に次ぐ、とても重要で大切な法令のひとつ、であるところ、
●告示・公示というものは、内閣や各省庁あるいは地方公共団体など、公の機関が必要な事項を公示する行為であり、その行為そのものについて指すものであります。国の機関が行う告示は、官報に掲載される方向で行われ、法令としての性質を持つものが多いです。よって「厚生労働省告示」と題名されたものは、厚生労働省が、通常は大臣の名義でもって、公に示します。他方で、都道府県や市町村などは、公示することによって、地方公共団体に行政として行うための指針(あるいは根拠)として、公に出されます。

上の二つの●の場合の法令としての強さや、先に適用される順序については、 
  〔効力強い、後に適用〕憲法≧条約>法律>政令>府省令〔効力弱い、先に適用〕

と言うように、一般的になっており、「告示」は、前述の「府省令」よりも、効力としては比較的に弱いものとなっておりますが、該当する公的組織の中では、真っ先に適用される大きな指針なので、影響力はとても強いものがあります。

すなわち、「厚生労働省告示」と題名されたものは、厚生労働省管轄の様々な法律や政省令の中では、真っ先に適用されるので、関係する存在や制度は、多大な影響を受けるわけであります。 

なので、障害者総合支援法についても、「厚生労働省告示」が出されているので、「重度訪問介護制度」自体の中にも、内輪での運用の中で、多大な影響を受けるわけであります。

ちなみに、「厚生労働省告示」を改正するために、「国会などの多数決による議決の成立」などは必要ありません。厚生労働省に関わる官僚を含めて様々な組織(外部含む)で話し合いが行われ、厚生労働大臣が公に示すだけで、変更出来るものであります。

(3)重度訪問介護で出来ない(重度訪問介護制度内での規制)事柄についての課題と、今後の展望

さて前述の通り、(A)就労、(B)通学、(C)飲酒や喫煙あるいはギャンブル、これらについては、重度訪問介護制度自体であったとしても、国会議員によって成立された法律ではなくとも、厚生労働省によって定められた告示によるものだったとしても、現行運用の告示に基づく、重度訪問介護によっては出来ない支援であるので、いかに柔軟で優秀な制度であったとしても、守るしかありません。

他方で、利用者も支援者も、一般市民等の違いにもかかわらず、今後の重度訪問介護制度のあり方も含めて、改善されるべき観点のひとつであると、我が事として、一人一人が認識する必要があると、私は個人的に考えます。

そういった制度利用の現実と観点について考えることによって、障害者にとっての「日常生活とは何か」「社会生活とは何か」について、思いを至らしめる、「障害の有無にかかわらず、1人の人間にとっての、『日常生活』あるいは『社会生活』とは何なのか」と言うことや人権を踏まえながら、考えていくことこそが、今後とても大切になるのだろうと考えるわけであります。

それが、「共生社会」に繋がっていくために、とてつもなく重要な観点であると私個人は認識するからです。

今はとにかく、「少なくとも、『社会参加は認められている』というところ」を、とても有り難く感謝しながら、今の生活を大切にしていきながら、私自身も、社会参加を継続して行いながら、先述の「観点」について深く考えていきたいと思っております。

(Ⅱ)重度訪問介護制度以外の、様々な規定や定めによる「できること、出来ない事」について

(1)医師法による規制

この項目については、あまりにも、「当たり前すぎる」事柄であるが、医師でなければ、「医業」を行うことは出来ない。

つまり、介護に限らず、どのような場合であったとしても、とてつもない緊急性等の例外中の例外を除いた場合、医業(=例えば診察、診療、診断、処方せんの交付など)を行うことは、医師以外、出来ないわけである。

そしてこれまた、当然のことであるが、「診断」という部分が医師の業務の範囲に、入っているところ、「医療行為についての判断」に伴う所については、医師以外、行うことは出来ない。

診療や治療に必要な薬剤投与についても、ほぼ同じようなことが言える。

(2)保健師助産師看護師法

ここの項目では、主に「看護師」について、記載いたしますが、簡単にそれぞれの職種の定義のみを掲げると、「保健師助産師看護師法」では次のように定められております。

  • 第一条 この法律は、保健師、助産師及び看護師の資質を向上し、もつて医療及び公衆衛生の普及向上を図ることを目的とする。
  • 第二条 この法律において「保健師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者をいう。
  • 第三条 この法律において「助産師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じよく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう。
  • 第五条 この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。

このように、「保健師」「助産師」「看護師」は、医療や公衆衛生を専門とし、保健指導に当たったり、出産に関わったり、傷病者等の療養もしくは診療補助に関わったりします。
 
その中でも、看護師については、医師の指示に基づいて、診療補助について関わります。

確かに、「看護」という体系的に専門性を有する分野に基づいて、その職業について患者もしくは利用者に関わります。

しかしながら、例えば、「腕からの静脈注射(血液採取など)」は、看護師は行うことは出来ますが、それでも、医師の指示に基づいて行うのが原則です。

他方で、それ以外の部分、例えば、「脚の動脈に関わる注射」などは、看護師で行うことはできません。

ちなみに、「介護」という言葉は、「『介助』と『看護』のそれぞれの言葉の意味合いに関わる業務内容に関わることから、それぞれの漢字から、取り出されて、『介護』という言葉は出来上がった」という一説が存在するくらいです。

そのような意味合いからすると、介護と看護は、かなり近い側面が、その専門性として内在しておりますが、「介助」という側面については、やはり「介護」の方が、現実的な側面から考えても、専門的スキルが高いと私は認識しております。

但し、まだそれが、学問的な体系性を、研究も含めて、完成されているかどうかは、発達段階にあるのではないかと、感じる時もあるというのが、私の主観ですが、存在します。

よって、通常言われる介護でも、この「基礎知識」で扱う、「重度訪問介護」の現場でも、例えば「摘便」は、現場では比較的多く立ち会う場面でありますが、その医療の専門性がゆえに、「介護」のアプローチでは出来ません。

ですが、「看護」の側面から行われます。

よって同じように、「喀痰吸引等」については、「基礎知識」の第4回目の「資格」に関わる回で詳しく掲載されておりますが、「喀痰吸引等」は本来、医療的なケアなので、看護師として行う場合は、大元のところで医師の指示が必要でありますが、看護師は単体で当該行為を行うことが出来ます。

他方で、介護保険で言うところの「介護」であっても、障害の方での「重度訪問介護」であったとしても、「第1号、第2号、第3号」の違いは存在しますが、介護員が行う場合は、原則、別途の「喀痰吸引等に関わる資格や実地研修」を修了しないと、これもまた、医師の指示が大前提として必要でありますが、介護員が単体で行うことはできません。「重度訪問介護」の現場だったとしても同様です。

とりわけ喀痰吸引についての事柄については、前掲の本シリーズの「基礎知識」の第4回の後半部分となる「(Ⅱ)喀痰吸引等の公的介護を前提とした医療的ケアの資格について」の大項目ですが、その部分に詳しく掲載されておりますので、改めてお読みいただければ、ありがたく存じます。

(3)道路運送法

一般的に介護保険も含めて、「介護」においては、特に「訪問介護」に属する場合は、「訪問介護員(=通称:ヘルパーさん)」は、利用者を車に乗せて、移動についての支援を行うことは、できません

これは、道路運送法で、通常言うところの「タクシー業務」に該当し得るので、「金銭を頂いて自動車に利用者を乗せて移動させる行為」ということは、タクシーの許認可を監督官庁から認められない限り、行うことは出来ないと定められております。

その運転資格としても通常は「普通自動車第2種転免許」が必要とされます。

そしてその場合の使用される車両は、緑のナンバープレートが使用されます。

他方で、例外的に、有償ボランティアとして行われる、「福祉有償運送」の場合だけ、監督官庁の許認可を得た場合は白ナンバープレートで、一般的な「普通自動車第1種転免許」で、利用者を乗車させて移動することが認められております。

従って、「訪問介護員」が、タクシー業務に類することを行うことは、ご法度なのであります。

これは、従前の重度訪問介護でも同様のこととして定められておりました。
 
しかしながら、(Ⅰ)(1)「障発0330第3号 令和3年3月30日 障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の制定に伴う実施上の留意事項について」の改定により、「障害者の所有の自動車」あるいは「障害者自身が借りたレンタカー」などに限定されますが、重度訪問介護の制度上だけでの話だと、可能となりました。

加えて、当該障害者が、例えば喀痰吸引等を運転中に医療的ケアや体位調整などのために、緊急途中停車(イメージ的に5分前後)などして、運転をしているヘルパーが安全のための支援をした場合は、「移動介護緊急時支援加算」を加算報酬として受けることすら可能となっております。

ただし、従前通り、ヘルパーさんの自家用車や事業所用の自動車などで、利用者を乗車させヘルパーが運転をする行為については、道路運送法上、違反となるので、罰則の対象となります。

かなり限定的な、重度訪問介護における「できること、出来ない事」に属する話ですが、出来ないものは出来ないのですが、そこに風穴が開き、「できることが増えた」という事柄については、とても重要なことであると、私個人的には、考えます。

(4)重度訪問介護制度の「できる出来ない」に係る、その他のしばりについて

これまでも、何度となく、「重度訪問介護」は、障害者総合支援法で定める、障害支援のひとつ、つまり、障害福祉サービスのひとつであります。

すなわち、「障害者総合支援法」という一つの法律に基づいて、存在しているものですが、観点を変えれば、社会に存在する、他の「法制度」と無縁で存在するものではないということが、言えるわけです。

たとえて言えば、「契約」という考え方です。

「契約」というものは、その基本は「民法」という法律に基づいて存在しております。

重度訪問介護を利用するときは、市町村をはじめとする地方自治体との関わりは必須ですが、最終的には、様々な方と連携の必要はあったとしても、「利用者と、重度訪問介護事業所との『契約』」というものが締結されなければ、制度利用には至りません。

つまり、公的制度としての重度訪問介護制度で出来ることであったとしても、事業所ごとの運営の仕方(もちろん、障害者総合支援法などで最低限求められる事は、どのような事業所でも行う必要はあります)によって、微妙な、事業所ごとの「できる出来ない」は、発生し得るということです。

加えて、ここでは先程、「道路運送法」という全く別の法律を持ち出してきましたが、数万件にものぼるといわれる数多の法律と、障害者総合支援法(その中の重度訪問介護制度)が、矛盾するようなことが、あってはなりません。

そういう意味では、先程述べた、「民法でいうところの『契約』」や「道路運送法」だけでなく、多くの法令によって、「できること、出来ない事」などが、重度訪問介護制度の中でも、起こり得るということだけは、常に心構えしていく必要があると言えると存じます。

(5)重度訪問介護利用対象者が使えるが、制度的には、重度訪問介護ではないサービス(おまけの話)

(Ⅰ)(1)の項目で、「通学では、重度訪問介護は、原則使えない」という話を、書かせていただきました。

しかしながら、平成29年12月22日に閣議決定(平成30年度予算案)によって、厚生労働省が関わる、地域生活支援促進事業で、「重度訪問介護利用者の大学等の就学支援事業」が、認められるようになりました。

その結果、実際に、平成30年6月1日付で、東京都内の事例のようですが、「重度訪問介護利用者の大学等の就学支援」の第一号者が、誕生しました。その方は、大学院に進学のために、該当市町村の担当局と交渉の上で、地域生活支援促進事業として、認められるようになったようです。

この「大学等の就学支援事業」については、市町村だけではなく、都道府県などの地方公共団体も影響を受けるので、双方の自治体に交渉する必要がありますが、このような制度が認められるに至ると言うこと自体が、制度の発展のひとつでもあるので、これまた重要な話であると、私個人は考えます。

また、令和3年7月12日付の事務連絡で、厚生労働省社会援護局障害保健福祉部障害福祉課として、「障害者総合支援法上の居宅介護(家事援助)等の業務に含まれる『育児支援』の取扱いについて」という通知を出しており、この事務連絡通知は、重度訪問介護も対象内となっているところで、

  1. 利用者(親)が障害によって家事や付き添いが困難な場合
  2. 利用者(親)の子どもが一人では対応できない場合
  3. 他の家族等による支援が受けられない場合

この場合に限定される形ですが、「育児支援」の具体例として、

  • 育児支援の観点から行う沐浴や授乳
  • 乳児の健康把握の補助
  • 児童の健康な発達、特に言語発達を促進する視点からの支援
  • 保育所・学校等からの連絡帳の手話代読、助言、保育所・学校等への連絡援助
  • 利用者(親)へのサービスと一体的に行う子ども分の掃除、洗濯、調理
  • 子どもが通院する場合の付き添い
  • 子どもが保育所(場合によっては幼稚園)へ通園する場合の送迎
  • 子どもが利用者(親)に代わって行う上記の家事・育児等

という事柄について、親たる利用者の支援に伴うものとして、訪問介護員が行うことが出来ます

先述の通り、重度訪問介護においても、可能な事柄であります。

まとめ

今回は、「重度訪問介護制度」の支援の中で、「できること、出来ない事」という観点から、様々なことを書かせていただきました。

「見守りを起点にして日常生活についての総合的な支援を行う」という柔軟な制度である「重度訪問介護制度」と言えども、様々な理由から、できることや出来ない事が、少なからず存在するということが、明らかになりました。

これらの決まり事が、より現場に即しているのか否かについては、今後の制度のあり方の行方になってくるかと存じます。

まずは、現在の制度上の話であります。

そのような、現在の枠組みの中で、現在の利用者は、現在の法令にのっとって、重度訪問介護制度を利用させて頂いているわけですが、利用者も含めた、一人一人の国民が、今後の障害支援のあり方を含めて、制度の使いやすさ、簡便さ、現場からの声や要請について、世論に問いかけていく努力を続けつつ、さらなる発展のために、考えていく必要があると感じております。

例えば、「通信教育や私塾的な教育は消費サービスの一つ」という言葉や考え方が存在するのに、「学校教育法に関わる教育(私立学校含む)」となると、教育のサービスや消費の考え方や言葉が、減少していくのか、などなど。。。

私も利用者の1人として、この記事をまとめるに際して、改めて、「重度訪問介護制度」について、その知識をまとめることが出来ました。

これらの改めて学び直した知識や、利用の現実や実態そして理想像などを、常に考えながら、同時に『公的制度』であることをこころに深く刻みながら、よりよい制度に発展するように考えていくべきだと思いました。

今回も、長めの記事となりました。お読みくださってありがとうございます。

では、次の第6回目の時に会いましょう!

ありがとうございます!

行政書士有資格者、社会福祉主事任用資格者
筆者プロフィール
1973年7月上山市生まれ。県立上山養護学校、県立ゆきわり養護学校を経て、肢体不自由者でありながら、県立山形中央高校に入学。同校卒業後、山形大学人文学部に進学し、法学を専攻し、在学中に行政書士の資格を取得。現在は、「一般社団法人 障害者・難病者自律支援研究会」代表。

当HP「土づくりレポート9月号」にて、齋藤直希さんをご紹介しております。

050-3733-3443