この7つの観点で現実を観ると、やるべきことが立ち現れる。
伊藤一孝(アクティブプレイス土屋 三重)
■成果をあげていくために必要な「構想力」と「実行力」
では、企業や組織が「変容」することで、「明日や未来が、昨日よりももっと良くなる」という「成果」をあげていくには、どうすればいいのだろうか。
結論を言えば、答えなどない。
「このクスリを一粒飲んだら、一晩で5kgやせる!」。
そんな都合の良い特効薬が存在しないのと同様に、「この一冊の本に書かれているままに経営や事業を進めていけば、必ず成功する」といったマニュアルなどない。
ビジネス場面での「触媒」は、「変容」し、「成果」をあげるための、「考えるためのヒント」でしかないのだ。
こうした書物からの情報や、多くの人の意見といった「触媒」をうまく取り入れながら、もがきながら、最後は自分で考える、決断するしかない。
だが、企業や組織が「変容」し「成果」をあげるために考えておくべき「基本」はある。
対峙するべきポイントは、どのような業種であれ、以下に収れんされる。
商社でもメーカーでも、株式会社土屋のどの事業部門でも同じだ。
ただし、ノンプロフィット部門では、いくらか項目は変わってくる。
「経営や事業運営で考えるべき要素」として一般化されていることに、「ヒト」「モノ」「カネ」がある。
近年では「情報」と「スピード」を加えた5要素で語ることが一般的だ。
以下にあげるポイントは、それらと同じレイヤーに位置するものと認識するべきだろう。
「定義」
「意義」
「市場環境」
「収益構造」
「競争優位性」
「実現可能性」
「本気度」
これらを考えていくために、地道にデータを収集し、冷静に現状分析をすることが必要になる。
対峙するべき点は、代表取締役であれ、事業部のマネージャーであれ、まったく同様だ。
判断のレイヤーが違うというだけだ。
もちろん立場によって深く考えていくポイントの比重は違ってくる。
経営や事業運営全般であれば「全て」となるが、例えばホームケア土屋内での「新規現場構築」「既存現場立て直し」を担うコーディネーターなら、「市場環境」や「競争優位性」、各現場での「実現可能性」を冷静に分析していく必要がある。
私がホームケア土屋三重に在籍していた際、事業運営で、着任時から常に考え続けてきたことは、上記7点だ。
そして、これらを咀嚼し「戦略」に落とし込んでいく。
「戦略」とは、企業や組織を前進させるための「海図」のことだ。
「どこにたどり着きたいのか」「どのようにたどり着くか」を、ひたすらイメージし、言葉や図表に落とし込んでいく。
KGI(Key Goal Indicator)、KPI(Key Performance Indicator)は、戦略構築段階で確実に組み込んでおく。
そして、「戦略」を明確にしたうえで、「作戦」「戦術・戦法」といった「手段」を具体的に考えていく。
ロックオンできたら、あとは、その実現のために、ひたすら「汗をかく」だけだ。
「戦略」「作戦」を構築し、正しく「汗をかく」ために必要なエンジンが「構想力」と「実行力」だ。
2基のエンジンがバランスよく動かなければ高速走行はまず不可能。
「成果」は約束されないといってもいい。
この二つのキーワードがマネージメントサイドに浸透・定着することができるか否か。
どのような企業であっても、中長期的には、ここで命運がわかれることになる。必ず。
ちなみに、私が三重に着任した際(当時は、前社だが)に考えた初年度の「戦略」は、以下だ。
クライアント(ご家族を含む)、アテンダントの満足度向上
単月売上を1年で3倍増に
身体障害者支援と知的障害者支援を同比率に
アテンダントの積極採用と教育の徹底、適材適所配置
土屋三重の「ブランド化」
「戦略」を練り込む前には、地道で緻密な情報収集が必要となる。
各市町の特徴やトップの施政方針ばかりではなく、人口や税収、福祉予算のデータを集め、その中で重度訪問介護に対する各市町の数値目標や福祉への考え方を把握・理解することはもちろんだ。
そのうえで、各市町の障害者を取り巻く「市場環境」、他事業所との「競争優位性」、売上、常勤・非常勤の人件費、交通費、経費を見据えた「収益構造」、人員構成、利用者特性、アテンダントのスキル、移動距離(三重県は縦に長い地形。南北で約170kmある)を踏まえた「実現可能性」の全てを冷静に分析し策定した「戦略」である。
もちろん初年度としての、多少の「勢い」というか「ノリ」の要素もあるが。
次年度は、仲間の成長を見越して「組織化」に着手した。現在ホームケア土屋三重は、完全に後任の柿沼マネージャーと4名のコーディネーターに移管している。
そして、この「戦略」を実現するための「作戦」は、以下だ。
各市町、県の障害福祉課から「選ばれる」事業者に
あらゆる問題発生、問い合わせに対し、徹底的にレスポンスを「速く」
売上情報を含む現状の事業所情報を、チーム内へ適切に発信(参加意識の醸成)
ホームケア土屋内では、おそらく全国的に相談員やケアマネが在籍する「計画相談事業所」を「営業先」として設定しているケースが多い。
人口ランキング全国22位の三重県であっても100か所を超える「計画相談事業所」がある。
だが、私が着任時の三重では、渉外として動くことができるのは人員的に私一人だった。
「計画相談事業所」ではなく、各市町に照準を合わせたのは、あまたあるターゲットを攻略するには、一人では、とても行動量が追いつかないという現実的な背景もあった。
ならば、情報の最上流であり、支給時間決定の要である各市町との連携を強化するしかない。
「川下作戦」ではなく「川上作戦」を選ぶことが現実的な選択だった。
だが、それは間違いではなかったと、今では確信している。
残念ながら私の担当期間で、全ての市町との強固な連携が実現できたわけではないが、県内主要市町とは一定のリレーションを築くことができたと感じている。
また、「重度訪問介護(特に知的障害者支援)のことは、まず土屋に意見を求めよう」という各市町や県の空気もいくらかは醸成できたと感じている。
土屋総研主催の「シンビオシスフォーラム(知的障害者の「活きる」を考える)」の開催も三重オールで動いた。
また他にも、国立病院機構・榊原病院主催の「自閉症・発達障害研修会」オンラインセミナーでの講演も実現できた。
「ブランド化」という側面でも一定の「成果」につながったと思っている。
さらには、三重県の障害福祉分野での「顔役」の一人である著名相談員の池田博実さんを土屋に招へいし、新たに「計画相談事業所Nexus土屋 四日市」を立ちあげることができた。
現在の私は、「アクティブプレイス土屋」の一員として、三重県で生活介護事業の立ち上げに取り組んでいる。
当面の狙いは、三重県での「計画相談事業」「生活介護事業」「重度訪問介護事業」の3部門を有機的につないでいくことで、クライアント(ご家族)、アテンダント双方の利益を重層的に担保できるようにすることだ。
やがてこのビジネスモデルの全国展開を通じて、三重が、株式会社土屋のフラッグシップの一つになることを願っている。