『ホームケア土屋スーパーバイザー星敬太郎×高浜代表』対談シリーズ 第1回 ~第2部~

目次

生存戦略としてのコンプライアンス遵守 ~経営と理念のバランスの中で~

対談参加者

星敬太郎……土屋ケアサービスカンパニー副代表
高浜 敏之……代表取締役 兼 CEO最高経営責任者/土屋ホールディングスカンパニー会長
司会……宮本 武尊/取締役 兼 CCO最高文化責任者

第2部:生存戦略としてのコンプライアンス遵守 ~経営と理念のバランスの中で~

司会

株式会社土屋は第6期よりカンパニー制へと大きく舵を切り、今後ますます企業の規模が拡大していきますが、

昨今、介護業界では多くの大規模事業者がコンプライアンス違反で倒産したり、倒産の危機に立たされています。

高浜代表はこうした状況をどう見ていらっしゃいますか?

高浜

仰る通り、昨今ではMグループしかり、時間をさかのぼればC社しかり、

介護業界で重要な役割を果たしていた事業者が市場からの撤退を余儀なくされていく場面を、私もいくどとなく業界経験の中で見てきました。

そして、そこで必ず出てくるのがコンプライアンス違反です。

実際、C社では居もしないヘルパーを居ることにして事業所を開き、売上を架空に作ったり、

Mグループでは食費を過剰に請求して食材費を過少に抑制し、その差額を儲けとしたり、

訪問看護のN社では、1回のサービスで1時間提供しなければならないところを「薬をあげるだけだから」と10分、20分で済ませて別のお宅に回り、

本来であれば1日5件しか回れないところを15件も回って倍の金額を儲けるといった不正行為が相次ぎました。

重度訪問介護でいうと、加算の高い夜間時間帯のみサービス依頼を受けて、日勤時間帯は一切なくすということも起こっています。

こういったことをするとどうなるか、不正行為と認定されれば事業者は倒産するか、ないしは倒産の危機に立たされますが、それだけじゃないんですね。

例えば、重度訪問介護において夜間時間帯のみサービスを提供し、日勤時間帯からは撤退するとなると、確かにその事業者は儲かります。

従業員も夜だけ働くわけなので、昼夜逆転というだけで生活のリズムも整います。

けれど、ここには加害性もあって、そういう事業者が現れると、今まで障害を持った方の地域生活を支えるために事業を続け、

何とか黒字でやってきていた他の多くの小規模事業者が夜サービスを失ってしまうことになるわけです。

重度訪問介護は、日勤時間帯のサービスだけでは赤字になるという単価構造になっているので、

利用者を第一にして、利益は手段だと事業を続けていたソーシャルビジネスの会社が生き残れなくなってしまう。

間接的に倒産に追い込まれるわけですね。

それはつまり、利用者さんたちの生活が成り立たなくなることを意味します。

他にも、相談員やケアマネが、撤退された穴を埋めなきゃいけないので、周りへの被害が甚大なんです。

それにこういうことがあると、夜間時間帯の加算が減らされるような制度改定になりかねません。

だから結局、5年後、10年後を考えて経営しなきゃいけないんです。

目の前の、今日上がってきた利益だけに視点を置いて判断しているとだめなんですね。

司会

制度改定のお話がありましたが、星さん、ホームケア土屋の日勤と夜勤の比率はいかがですか?

全国平均で日勤46%、夜勤54%です。

おそらく経営者からすれば、「もうちょっと夜勤比率を上げなくて大丈夫か」と心配になるくらいの低い数字だと思うんですよね。

ほぼ半々ですし、事業所によっては、夜勤が30%台というとこもあるんですよね。

もし高浜代表の予想された単価改正があって、夜勤の割合が安くなっても、現状では当社にそれほど影響はないと思います。

高浜

うちは大丈夫だと。

一方で、夜勤時間帯しかサービス提供していない会社は、そうした制度改正で一瞬で終わるわけですね。

でも実は、そういう法令違反かつモラルハザードというのは、意外とすぐ手を伸ばした先にあるんですね、その選択を選ぶスイッチは。

司会

それは、誰しもがそこに足を踏み入れてもおかしくないということですか?

高浜

そうです。

人ってストレスのある状態だと、そこから逃げたくなる時ってあるじゃないですか。

なかなか利益が出ない中で、この法令、このモラルの先に行ってしまえばもっと簡単に利益が出て楽になると思うと、そのスイッチを押してしまうこともある。

それに、経営側が「法令を守れ」と言いつつも、同時に「これくらいの売上を上げろ」とした場合、

もしそれが法令を守っていたら達せない目標だったとしたら、法令を破る条件を経営側が意図せずとも作ってしまうことが起きるんですよね。

でもそれをしてしまったら我々は倫理的に堕落するし、倫理的に堕落したらブランドは失墜します。

法的に堕落、つまり法令違反をしたら市場からの撤退を余儀なくされます。

ただ一方で、あまりにも過度に倫理的でありすぎると経営が持続できなくなるということもあるんですね。

だからこれはすごく微妙な取組みで、そもそもそういう難しさの中にあることを前提にしながら、社会的・倫理的価値を実現しつつ経営も持続しなきゃいけない。

ある意味これは、針の穴を通すような取組みなので、そうしたものだというアセスメントから始めることが大事だと思うんです。

簡単だと思っていたら、実は難しかったから違反してしまう。

槍ヶ岳に登るのはみんな難しいと分かっているから重装備で行くわけで、高尾山に登るのと一緒だと思って軽い気持ちで登ったら遭難しちゃうわけですよね。

だから、初めからこれは難しいんだという共通認識をもって、だからこそ我々はチャレンジするんだと。

やっぱりこの前提認識が必要だと考えますし、我々介護事業者が厚生労働省という上司の下で働いている部下だという意識も忘れてはいけないと思いますね。

司会

星さんはこの状況について、他に思うところなどありますか?

私もこの業界に20年以上いますが、こういうことがメディアで取り上げられたり、

国自体がそういうコンプラ違反を抑制しにいく時代がようやく来たという感があり、嬉しくもありますね。

もう少し言えば、報酬改定などが定期的に行われる中で、それはデータを元にしているわけですね。

でも、そのデータが実状を正しく見ているのかというと、実際そうではなかったと思うんです。

例えば、訪問介護の事業所一つとっても、ちゃんと自宅に訪問している事業所と、集合住宅の中で、

そこの利用者さんたちだけを対象に最大限効率化を図って売上を上げている事業所があると思うんです。

やはりその区別がないまま、全国平たく利益などをデータ取りされると、そしてそれが単価に反映されるとなると、「それは違う」と10年以上ずっと強く思っていました。

そういう意味でも、ようやくそこが否定される方向が来たと思えば嬉しいですね。

司会

コンプライアンス違反が多く取り上げられるのは、介護業界の自浄作用につながることでもあるということですね。

高浜代表は、コンプライアンスを起こさないために、企業としてどのようなことが求められていると考えますか?

高浜

まず、“なぜこういうことが起きるのか”というところで、マスメディア等でよく言われるのが、いわゆる介護の民営化ですね。

昨今における介護事業者のコンプライアンス違反の出発点は2000年初頭、民間事業者にこのマーケットの門戸を開いたことだと語る有識者は多いですよね。

こういった方々の論調というのは、基本的には民間事業者というのはコンプライアンスよりも利益の最大化を重視するから、

こういったリスクが行政や非営利組織(NPO・社会福祉法人)が担うよりも高まるというものです。

けれど、介護事業マーケットにおける民間事業者の割合が日増しに高まっている中で、民間事業者が市場から撤退すると、そもそも市場そのものがなくなってしまいます。

なので、それは無理な話だと思いますが、とはいえ、そういう面は確かにあったと思うんですよ。

C社しかり、Mグループしかり、経営者が利益追求を過剰なまでに追求した結果としてコンプラ違反が起きているわけですから。

ただ、それがもはや取り除けないような要因になっている中で、どうすればいいかといったときに、

新しいスタイルの民間事業者のあり方を目指す必要があるんじゃないかと思うんですね。

これは業界の歴史に対する反省でもあり、我々のモラルでもありということですが、そのあり方が我々の提唱するソーシャルビジネスだと考えています。

司会

土屋におけるソーシャルビジネスとはどういったものか、改めてお聞かせ願えますか?

高浜

我々の事業の目的を利益追求に置かないと。

我々の事業の目的は課題解決であって、利益はそこから生まれる結果であり、事業を継続するための手段だというものです。

その価値観を社内にしっかりと浸透させて、かつそれをしっかりと実践することが必要だと考えています。

それに、我々は税を預かっている事業をしているので、ある種の受託者責任があるわけです。

国民から委ねられているわけですから。

ソーシャルビジネスは、この受託者責任を遂行することでもあり、かつそれは、

ある意味でモラルハザード、コンプライアンス違反によって倒産した人たちとは異なる道を歩むと言っていることでもあります。

なので、ソーシャルビジネスそのものが企業の生存戦略であり、経営戦略にもなり得ると思うんですよね。

このソーシャルビジネスが内包する価値観を重視するという表現の一つとして、今回の那智勝浦の取組みがあると言えるかもしれないですね。

司会

一方で、ソーシャルビジネスで常に問題とされるのは、経営と理念のバランスです。

高浜代表は土屋において、そこをどう捉えるべきだと考えていますか?

高浜

那智勝浦の取組みで星さんも気にされてたように、営利・非営利問わず、企業体は赤字になると倒産します。

だから続けるためには、しっかりとした経営管理、つまり一定の利益を持続可能なレベルで維持することが必要です。

そのためもしっかりとしたPDCAを回すことが大切なわけです。

もし那智勝浦の取組みが赤字になることが宿命づけられているとしたら、また星さんは第二、第三の那智勝浦を生み出すと仰ってくれましたし、

それは是非にと思うんですけど、つまりそれは、今後さらに赤字事業所を増やしていくと宣言されていることでもあります。

だとしたら、全体の収益の中でのバランスを取って、別のところからしっかりと収益を得て、

会社が経営破綻しないようなバックグラウンドを作る取組みも同時に必要だと思いますので、このバランス感覚をどう維持できるかが重要ですね。

司会

コンプライアンスを守りつつということですね。

高浜

コンプライアンスを徹底的に守るというのは、とにかくこの事業をやっていく上で大事なことだと思いますね。

コンプライアンスは、「ここから先にはいってはいけませんよ」という表示なわけですから、一時停止の標識みたいなものです。

そこは必ずブレーキを踏んで一度止まらなきゃいけない。

それはコンプラ違反で倒産した数々の介護事業者が、自分たちがつぶれることを通して、私たちに身を挺して教えてくれているんですよね。

このメッセージをしっかり受け止められるかどうか、ここは本当に大切だと思います。

司会

ありがとうございます。

コンプライアンス遵守と、ソーシャルビジネスがもつ経営と理念のバランスについてお話しいただきましたが、

第三部では、土屋の永続化に向けた取組みと、カンパニー制に移行し、トップリーダーが引き継がれる中で、

今後輩出されるリーダーに必要とされることについてお話しを伺います。

第1回 星敬太郎×高浜代表 対談シリーズ <第3部>

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