『ホームケア土屋スーパーバイザー星敬太郎×高浜代表』対談シリーズ 第1回 ~第3部~

目次

引き継がれるトップリーダーに必要なこと ~理念がなければ会社は一変する~

対談参加者

星敬太郎……土屋ケアサービスカンパニー副代表
高浜 敏之……代表取締役 兼 CEO最高経営責任者/土屋ホールディングスカンパニー会長
司会……宮本 武尊/取締役 兼 CCO最高文化責任者

第3部:引き継がれるトップリーダーに必要なこと ~理念がなければ会社は一変する~

司会

現在、高浜代表がトップでいるからこそ、ソーシャルビジネス企業として社会課題を優先する考えが文化として浸透し、

事業として表現されていますが、今後リーダーが引き継がれていく中で、どこかで思考が変わって利益が優先順位のトップとなり、

コンプライアンス違反に至ってしまうことも推測できるかと思います。

そうした中で、高浜代表はどのように会社の永続化をお考えでしょうか?

高浜

永続化の観点で言うと、当社は事業承継としてファミリービジネスの道を選択する方向ですが、これはそもそも当社が重度訪問介護事業者である以上、IPOできないからです。

ただ、上場は我々にはほんとに合ってないと思いますね。

というのも、上場企業になると、株が有象無象の株主によってコントロールされます。

株主のほとんどが、いわゆる売値と買値のギャップで儲けるために株を買っているわけであって、彼らを統合している原理は「利益の最大化への志向性」です。

企業が自らの事業を行う上で何を一番と捉え、何を2番とし、何を3番とするか、その判断基準の優先順位を付けるのは価値観だと思いますが、上場企業においては株主の求めているのが株式価値の最大化、

つまり自分が株を買ったときよりも高値で売れるかどうかである以上、絶対に利益追求がトップにならざるを得ないんですね。

なので、上場に対して利益追求とは異なる価値観でコミュニティを統合するのはもはやできなくなってしまっている。

これは上場の宿命ですよね。

我々はソーシャルビジネス企業であり、理念を第一に考えているにもかかわらず、上場すると、理念を優先して利益を後回しにする事業をするのは不可能に近くなります。

これが我々には上場が合っていない理由ですね。

司会

上場すると、そもそも理念を優先できなくなるということですね。

高浜

今回で言えば、那智勝浦が赤字になると分かっていて事業所を作ると社長が言った途端、株主から即、首を切られるリスクもあるわけです。

それをすること自体が出資者である株主の利益を損ねるからです。

株主は今年と来年、利益が上がればいいわけで、5年後、10年後なんて関係ないんですよ。

極論を言えば、10年後にその会社が潰れていてもいいわけです。

だから長期的視点なんて生まれようがないですし、コンプライアンス違反のリスクも高まります。

なぜなら、例えば社長であれば、自分の生殺与奪を握っている株主たちのニーズに応えて、期待に応えようとするじゃないですか。

そうすると、「この壁を飛び越えてしまえば、もっと儲かる」と考えますよね。

だから上場するとコンプラ違反のリスクは相対的に高まると思いますし、我々はそういった意味でも、未上場という道で良かったのではないかと個人的には思っています。

司会

未上場ということが、ファミリービジネスにつながるということでしょうか。

高浜

はい、未上場のソーシャルビジネス企業としてどう永続化するかということで、ファミリービジネスがあるわけです。

現在は私が100%株を持っているので、私が理念を維持してればいいんですね。

私は自分が儲かることよりももう少し大事なことがあると思っているので、「儲けは大事だけど、それは持続できればいいんだ」という考え方・価値観で経営しているわけです。

つまり、当社が利益最大化にならないのは、株主である私が利益の最大化を目指してないからですが、問題は私が死んだ後です。

ファミリービジネスでは通常、親族に株が承継されることになります。

なので、同族による骨肉の争いで会社が滅びるといった危惧もありますが、これは株の分散をしないことで防げる可能性が高まります。

私の場合は娘が2人いるので、1人に承継していくことで争いは回避できますし、今はそう考えています。

もう一つの危惧としては、継承者の価値観ですね。

承継された親族が、利益追求を優先順位の一番目に置くと企業は一変します。

ただ、ここもファミリービジネスの良さがあって、その親族に利益追求とは異なる価値観を注入することがまだ可能なんです。

娘ですから、教育という形で影響を与えられるんですよね。

もっとも、正反対の方向に向かってしまうこともありうるんですが、自分と似たような価値観を伝承していく余地は残されています。

なので、この価値観が引き継がれる限り、当社はソーシャルビジネス企業の会社であり続けることができると思いますね。

司会

土屋グループのリーダーにも同じことが言えるのでしょうか?

高浜

その通りです。

今は、我々はソーシャルビジネスとして理念や社会課題の解決を優先順位の筆頭に置いていますが、利益・売上を第一にする人がトップリーダーになった途端、会社の優先順位はすぐに変わります。

その人から違う指示が出始めるわけですから。
でも、これはほんとに危険なんですよね。

ただ、その危険性は、そこにいる人は分からないんです。
というのも、被害が3年後、5年後に来るので。

場合によっては、自分自身はその被害を受けないので、それが正しく見えたりすることもあります。

なぜなら、それが利益の面では合理的で理に適っていると感じられ、それに反対する意見が“不合理で情緒的”と捉えられやすいからです。

私自身、過去に体験したことがありますが、効率性を追求することを止められなかった結果、多大な被害が出ました。

持続性を担保するためには効率性を追及することはすごく大事ですが、このバランス見失うとほんとに危険だし、

そうした意味では、土屋の危険性は伝統としてずっと続くんです。

それゆえ、危険であり続けるということを認識できるリーダーに連綿とバトンタッチしていくことがとにかく大事だと思っています。

司会

こうした中で、星さんはこの度、ホームケア土屋のスーパーバイザーに任命されましたが、

今後、スーパーバイザーとしてどのように事業運営をされるおつもりでしょうか?

そうですね。

現在のホームケア土屋はバランスが取れていると感じています。

それはソーシャルビジネスに対する理解・認識はもちろん、理念、とりわけ土屋のミッションである「探し求める 小さな声を」が現場まで浸透している傍ら、数字もしっかりと見ているからです。

特にここ半年、1年くらいは、中間管理職である私などが高い数字―実は一般的な数字ですが―を、

そこに届いていないエリアに対して、時に厳しく、それを求めるということがあります。

ですが、トップから私がバトン受け、現場に近い方向へ、どんどん数字を求めることだけをしていたら、これはリスクだと感じています。

というのも、ここに一定の圧がかかり、もしかしたらそれに応えるために、真面目であれば真面目であるほど不正請求をしてしまったり、コンプラ違反をしてしまったりすることにも時にはつながると感じるからです。

けれど現在は、中間管理職である私などが下位のレイヤーに数字を求めたとしても、「数字を上げる=ニーズに応えるため」ということが現場にしっかりと伝わっているという現状があり、

経営側から持続可能な数字、具体的な指標さえいただければ、そこを比較的強く求めていけますので、そのバランスがいいと感じています。

そのため、この先どう事業を運営するかというよりも、今の形がすごく成立しているのではないかと思っています。

司会

星さんは組織運営で重要なポイントは何だとお考えですか?

一つ大事なところは、連帯感ですかね。

私はホームケア土屋のゼネラルマネージャーを3年間務めてきましたが、これがないと回ってこなかったと思います。

私は土屋に入社する前から福祉業界でマネジメントをしてきましたけど、土屋に入社させていただいた理由の一つに、より大きな裁量をいただき、その中で勤めたいというのがあったんですね。

ただ、これほど大きいとは思っていなくてですね。

1ブロック程度まで目指していたわけであったんですけど、ここまで大きくなったときに、

1ブロックが動かせても、全国足並み揃えて動かすというのは一定の連帯感がないとやはり難しい。

その連帯力を高めるために、自分自身がトップリーダーとして、時に統率力を強めたり、厳しさを強めたり、

時には甘さを入れたりというコントロールをしてきたという自負があるので、やはりチーム力や連帯感が必要だと思います。

司会

星さんのマネジメント方法については、次回以降、マネージャーの方々との対談の中で詳しくお伺いしたいと思います。

高浜代表は星さんの事業運営について、いかが思われますか。

高浜

あらためて星さんのお話を伺って、素晴らしいなと思いました。

ビジネスをしっかり回しながらも理念を堅持していく、理念を堅持しながらもビジネスをきちんと運営していくという、このバランスですよね。

星さんのような、経済と道徳のバランスを取れるようなリーダーをどんどん増やしていって、

チームを拡大していくことこそが、社会全体にまだまだ出会ってない「小さな声」に応えていける最も重要な条件の一つだと思います。

先ほどの赤字覚悟で和歌山南部に事業所を展開するというのも、私自身も申し訳ないですが、現在確かに思ってはいます。

ですが、やはり日本中どこに行ってもニーズはあるので、ヘルパーの体制等の整えであったり、我々側の動き次第で、

決してそこも赤字ではない状況になるのではないかという予想もしているんです。

持続可能と言えば、一部が赤字よりも全部が黒字の方がいいはずなので、和歌山南部に関しても、赤字覚悟ではあるものの、やはりどこかで、そこも黒字にするという思いは捨てきれないというのはあって、

そこが実現できれば、和歌山南部の取組みを日本の他の似たようなエリアへの展開につなげられると思っています。

高浜

私も「赤字になってもいい」というお話しをさせていただきましたけど、赤字じゃないほうがやっぱりいいわけですよね。

黒字になると、その生まれた利益を投資に回し、もっと困っている人たちの「小さな声」に応えていく取組みを加速することができるわけで、その方がもちろんいいと思います。

やはりこの葛藤ですよね。

理念を実現する、同時に利益を生み出して持続可能性を担保し、場合によっては再投資できるような条件を満たすというような、この葛藤を乗り越えるのはすごく難しい。

なので、この介護事業においてニーズに応えながら持続可能性を担保していくというのは、そもそも難しいということを前提として考えなければいけないと思っていますし、

それを成し遂げるためには、星さんの仰るチームの一体性、連帯感が必要ですよね。

そして、その連帯感を前提とした倫理の浸透がほんとに大事で、ただ一方で難しくもあるので、

この難しさを一緒にやっていきましょうというところだと思います。

星さんがリーダーシップを取っている限りは安心だとは思っていますが、これは世代間継承していく中で、時に切断も起きるわけであって、

事業を継続しながら価値を生み出し続けることがほんとに難しいことだと改めて思う中で、

それを実現してくれる仲間を皆さんと一緒に増やしていきたいと思っていますね。

第1回 星敬太郎×高浜代表 対談シリーズ <第1部>

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