『アールブリュットの先へ〜障害者アートを考える〜3』
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【 アールブリュットの先へ〜障害者アートを考える〜2 / わたしの | 重度訪問介護のホームケア土屋 】
◇
土橋:時代の変化とともに変わりゆく、施設職員の意識の変化を大和さんは感じているのですね。
支援観の変化、そして施設というもの自体の変化も感じているんですね。
大和:それは、施設の中で「アートをやろう!」と私が言っても、温度が上がらないというか、そろわないというか、職員の中から「あの人に無理矢理書かせてどうするんですか?」みたいな一見冷めたような意見がぽつぽつと出るのです。
でもよくよく話を聞いていくと、その職員はやる気がないわけじゃなくて、逆に障害のある方のことを誰よりも親身になって考えていたりするんですよ。
一方でアート活動で生まれた作品にばかり着目するような人も出てきます。
そこに価値があるんだ、と。
そういう意見を聞いていると私自身も「本当かな?」と思ってしまうんです。
土橋:アールブリュットをポピュラーなものに押し上げていこうとする動きに対する、なにか恐れのような…。
大和:はい。
◇
土橋:それで、先ほどの庭の土の表面に線を描くTさんの行為に話は戻っていくんですね。
大和:あの行為を「アート」だと割り切れれば話は早いんです。
きっとどこの施設でも、そこの利用者のよく分からない意味不明な行為ってたくさんあるはずなんです。
どんだけ理由を探してもさっぱり分からないことだらけです。
そのときに、「あれはアートだ」としてしまえれば話は早いですが、そこで「思考停止」でもあるような気がするんですよね。
そういうときに「アート」からの登り口では解決しないというか、まったく無力な気がしてならないのです。
土橋:その問題意識をアートディレクターが持っているというところが非常に興味深いですね。
その自問自答なしに、「アート万歳」「創作万歳」では、ある面危険ですよね。
大和:それはアートディレクターの私が一番持っていなければいけない意識なんじゃないかな、とは思うんです。
でも、アートに携わる人も、支援に携わる人も本当は考えてほしいんです。
土橋:アールブリュットについて大和さんは現在どうお考えなんですか?
大和:「作品の価値」というよりも「人」なんだろうな、とは思います。
もともとジャン・デュブュッフェがアールブリュットを発見していくときには、どうしてこの人はこの作品を生み出さなければならなかったんだろう?という「その作家への言及」があったんです。
日本でアールブリュット作品に光をあてたはたよしこさんも同じで、「この人はどんな人なんだろう?」って作家を訪ねていたんです。
ジブリの『天空の城ラピュタ』の中に「人は土を離れて生きてはいけない」というセリフがありますが、「アールブリュット作品は作家を離れて生きてはいけない」んです。「作品」ではないんです。
土橋:「人」である、と。
大和:Tさんの行為も、その行為で生まれた線だけを取り上げてはいけないんです。
Tさん本人のことを考えていかなければなりません。
そうすると「アート(アールブリュット)」と「支援」がぶつかり合わないんです。
どちらも同じようにTさんのことを深く考えたい、もっと知りたいと願っているからです。
土橋:創作をした本人がどう思っているかも大事ですよね。
子どもって描くことが喜びというか、表現すること自体が嬉しいって思って描いているときあるじゃないですか。
それってすごい価値があるなと思って。他者の評価とか別で。
大和:描くことが嬉しいって一番ですね。
私は、実はそれが幸せかなって思っているんです。表現する喜びがあるって本当に幸せですよ。
それを誰とも比較しなくてよくて、相対的な評価もどうでもよくて、ただ自分が楽しいとか、目の前の人(母親とか父親とか保育士とか)がほめてくれるのが嬉しいとか、それが本当に最高だなって思ってるんです。
だから私は展示会を年に2回開催していますが、その展示会がゴールではないと思ってます。
目的ではないんです。展示会のために創作しているわけじゃない。
利用者さんには楽しいとか嬉しいとか感じながら描いてもらいたいし、それが一番で、そんな風にして生まれたものを飾るために展示会をやりたいと思ってます。
土橋:次回の展示会も楽しみにしています。
もうそろそろお時間になってしまうのですが、最後に大和さんは子どもの頃どんな夢をお持ちでしたか?
大和:私はクリーニング屋さんと魚屋さんになりたかったです!
母親がシャツとかコートとかをクリーニング屋さんに届けるのについていくのが好きでした。
ドアを開けると中はあったかくて、いい匂いがしていて、静かにラジオが流れていてね、すごい居心地がよかったんです。いつかここで働きたいって思ってました。
あと、魚屋さんは氷に入った魚を眺めるのが好きでした。
特にカワハギの皮の色がすごい美しくて、ずっと見とれていたのを覚えています。
土橋:その情景が目に浮かびます。
自分も子どもの頃クリーニング屋に行ったときに店内の様子は同じように感じましたが、働きたいとは思っていませんでした。魚屋のカワハギの色なんて気にもとめていなかった。
人それぞれ目の付け所が違っておもしろいですね。
大和:本当に人それぞれですね。
土橋:大和さん、今日はありがとうございました。またお話伺わせてください。
大和:ありがとうございました。
おわり
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